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「お世話になりました」
ボストンバッグを持って深々と頭を下げる。顔を上げると、戸塚君は不機嫌そうに眉を寄せていた。
「たっく……ほんと、人騒がせなやつ」
「ご、ごめんね……」
確かにものすごく迷惑をかけてしまった。俺がいた所為で自分の行動も制限させてしまっただろうし、どんなにお詫びしてもお詫びしきれない。
(けど……)
「あの……あの時、戸塚君がいてくれなかったら、俺どうしてたか分からないから……戸塚君がいてくれて良かった……本当にありがとう」
戸塚君の存在が、すごく心強かった。
戸塚君も俺の大切な人のひとり。そんなこと言えば、「うざい」って言われてしまうだろうから、間違っても口には出来ないけど。これは俺の本心。
「じゃ、じゃあ……またバイトで」
なんだか照れ臭くなって、逃げるように玄関に向かおうとすると、ボスっと荷物を床に落としてしまった。何故なら、突然、腕を掴まれたからだ。
鼻いっぱいに広がる花の香り。これは柔軟剤の匂いだったんだなと今さらなことを考えつつ、俺は徐々に状況を理解していく。
(え……抱きしめられてる……?)
数日前と同じ力強い腕の中。
俺は戸塚君に、正面からしっかりと抱きしめられていた。
「あのっ……戸塚、君……?」
予想だにしなかった状況に、心臓がバクバクといっている。顔を上げようとしたけど、戸塚君はそれさえ許してくれなかった。
「お、俺っ……今日、走って、汗臭いから……」
必死に戸塚君の胸を押してみるけど、戸塚君は微動だにせず、頭のてっぺんに柔らかい何かが押し付けられた。
「とつか、くん……?」
「お前さ……ずっとここにいれば良いのに」
「へ……」
「次家出するときは、すぐここに来いよ」
俺を腕の中から解放した戸塚君は、何が起こったのか分からず唖然とする俺のほっぺに手を添えて、綺麗な顔を近づけてきた。
その綺麗な瞳は人を惹きつけ、逃れようにも逃れられない。
「とつかく──」
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