先生、おねがい。

あん

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 「ごめんね、こんな遅くになっちゃって」


 時刻は21時すぎ。閉店時間が長引いてしまったから、帰る時間がいつもよりも遅くなってしまった。

 申し訳なさそうに眉を寄せる御坂さんに、首を横に振る。


 「いえっ。大丈夫です」

 
 働いている方が色々考えなくて良いから、むしろありがたいくらいだった。


 「二人とも、送って行くから少し待ってて?」


 尾上さんの言葉に今度は戸塚君が首を振り、俺の肩をグイッと引き寄せた。


 「いっすよ。ウチ近いし。こいつも今日は泊まらせます」


 正しくは、今日も、だけど。あの電話があった日から二日。戸塚君は何を聞くでもなく側にいてくれて、そしていつも通り、適度に毒を吐いてくれた。そんな戸塚君のおかげで、俺は雨の日ほどのショックは受けていなかった。面白いことがあれば笑うし、ご飯もちゃんとそれなりには美味しく感じる。

 もちろんそんなこと知らない御坂さんと尾上さんは、それぞれ意外そうな表情を向けてきた。


 「二人ともそんなに仲良かったんだ」

 「わぁ、お泊り楽しそうだねぇ」


 そんな二人に見送られ、お店を後にした俺たちは、肩を並べながら戸塚君のお家へ向かう。

 俺より背が高い戸塚君はもっと速く歩けるはずなのに、俺の歩幅に合わせてくれていた。それが申し訳なくて、俺は普段より少しだけ早足で歩く。


 「お前、明日体育祭だっけ?」

 「うん」

 「鈍臭すぎて、怪我とかすんじゃねえぞ」

 「し、しないよっ」

 「ふん。どうだか」

 「うう、戸塚君、いじわる」

 「お前こそ、言い返すようになったじゃん」


 この数日で縮まった距離感。共通の話題なんてないはずなのに、何故か戸塚君と会話が絶えることはなかった。

 そうして、その後も何気ない話をしながら歩いていると、突然、戸塚君側の車道に一台の車が止まった。
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