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しおりを挟むこの炎天下の中、少しも嫌な臭いが混じっていない、せっけんの香り。首筋には冷んやりとしたものが当てられ、思わず身震いをした。
「わっ、先生じゃん」
(……先生?)
山田君の言葉で、俺を抱きとめてくれたのが先生だと理解する。慌てて離れようとしたけど、身体が思うように動かず、俺は図らずもそのまま先生の胸に居続けた。
「望月、顔赤い。体調悪いんじゃないか?」
首にかけてくてた濡れたタオルを頬にも当ててくれた先生が、本当に心配そうに俺の顔を覗き込む。その表情に俺の胸がきゅうっと収縮し、喉が詰まった。
(そんな、心配そうな顔……向けないで)
「え!?望月、具合悪いの!?」
「でも、もっちー、確かに本調子じゃなさそうだね。お昼も全然食べなかったし」
松野君の言葉に、先生が眉を寄せた。
「望月……ちゃんと水分取ってるか?」
「……ぅ」
(取ってない……)
ギクリとした表情をしてしまった俺に、先生は眉がさらに寄る。
「……軽い熱中症かもな。取り敢えず保健室に行こう」
「えっ。だ、大丈夫です!」
これ以上先生のお世話にはなれない。具合だって最悪ってほどでもないし、少し日陰で休んでいれば大丈夫……だと思う。
「それに、この後は……」
チラッと山田君に視線を向ける。
この後は借り物競争。山田君の出番だ。応援してもらったぶん、俺だって山田君のことを応援したい。
そんな俺に、山田君はニカッと笑いかける。
「良いって良いって!望月の体調が優先に決まってるだろ!」
「でも……」
「俺もそうした方が良いよ思うよ。山田なんかの走りより、もっちーの身体の方が大切さ」
「そんな……」
「松野に言われるとムカつくけど、ほんとその通り!後で一位の報告しに行くからさ、望月は早く休んだ方が良いって!」
山田君が「な!」って笑うから、俺はこれ以上わがままを言えなかった。
「……う、ん。ごめんね」
二人に見送られ、俺は先生に手を引かれながら保健室に向かう。気不味い空気のなか、俺たちの間に会話はなかった。
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