先生、おねがい。

あん

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 そんなこんなで少し休憩をして、その後は松野君にも混ざってもらって、バトンの受け渡しの練習に付き合ってもらった。15時前に練習はお開きとなり、俺は二人に頭を下げる。


 「二人とも今日はありがとう」

 「こちらこそ楽しかったよ。もっちー」

 「望月、本当に送ってかなくて良いの!?」

 「うん、大丈夫。ありがとう、山田君」


 なぜか心配そうな山田君に、大丈夫の意味を込めて微笑めば、山田君が押し黙った。心なしかほっぺが赤い。

 そんな山田君の隣で、松野君がケラケラと笑った。

 
 「もっちーの笑顔は魔性だね」

 「ましょう……?俺、昔から笑顔が苦手で……やっぱり変かな?」

 
 最近は少しずつ笑えるようになったと思ったけど、長い間使っていなかった表情筋は、そう簡単には緩まないみたいだ。ほっぺをぐにぐにさせる俺に、松野君はまたもや可笑しそうに笑う。


 「逆だよ。すっごく魅力的なのさ」


 (魅力的……)


 そういえば先生も可愛いって言ってくれた。お世辞だとは思うけど、少しでも本当にそう思ってくれていたのなら嬉しい……なんて、都合のいいことを考えた。


 「もっちー?顔赤いけど、大丈夫かい?」

 「えっ、あ、うんっ」


 (わー……また、先生のこと考えちゃってた……)


 気を抜けばすぐに先生のことを考えるのは、最近の俺の悪い癖。


 「じゃ、じゃあ、また」

 「じゃあね」

 「また明日!」


 ほっぺがまだ熱いのを感じながら、二人に手を振ってその場を後にする。

 帰ったらすることを頭に思い浮かべながらの帰り道。先生のし……下着を洗うのはまだ慣れなくてドキドキしちゃうけど、今日は洗濯もしておきたい。

 
 (それから夕飯は──ん?)


 アパートに着いて階段を上ると、部屋の前にワンピースを着た女の人が立っていた。


 (誰だろう……?)


 「あの……何かご用ですか……?」


 俺の声に振り返ったのは、二十代前半くらいの女の人。とても綺麗な顔なその人は、俺の姿を捉えるなり、ふわりと微笑んだ。


 「あなたが広君の従兄弟?」

 「は、はい」


 頷くと、女の人はさらに笑みを深めて──


 「はじめまして。広君の彼女の、希って言います」


 そう言った。
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