先生、おねがい。

あん

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 二晩の快眠を経て月曜日。今日からまた学校が始まり、バイトも再開だ。

 御坂さんのお店は20時閉店だから、帰るのは21時ごろ。先生は「迎えに行くよ」って言ってくれたけど、それは丁重にお断りした。仕事で疲れてる先生に、そこまで甘えるわけにはいかない。


 (でも、晩ご飯を一緒に食べれないのは寂しいな)


 そう思うけど、それも仕方ない。一緒に食べれないぶん、腕によりをかけて作り置きのおかずを作ってきた。

 こんな風に、気付けば俺は先生のことばかり考えてしまう。先生の姿を見つければ目で追ってしまうし、今だって教壇に釘付けだ。


 「で、ここの化学式は──」


 化学の授業は、堂々と先生のことを見ていられるから嬉しい。教壇に立って授業をしている高谷先生は、今日も見惚れてしまうほどキラキラ輝いている。普段よりも張った声が、耳の奥まで響いて心地良かった。

 
 「──き」


 優しく穏やかな声色が好き。

 その声が自分を呼んでくれたなら、一瞬で心が晴れやかになる。


 「──望月」


 そう、今みたいに、きゅうっと胸が高鳴ってくすぐったい。


 (けど……いつもは『心』って……)


 つい数日前までは名字ばっかりだったのに、それでは物足りないと思ってる自分はやっぱり贅沢になってる。

 けど、先生が「甘えていいよ」って言ってくれたから、これくらいのわがままは自分でも許せる……かもしれない。

 名前で呼んで欲しい、そう口が動きそうになった瞬間。


 「望月?」

 「!?」


 少し大きめの声で我に帰った。

 遠くから眺めていたはずの先生が、いつのまにか俺の机の前に立っていて、俺のことを不思議そうに見つめている。


 「あ……す、すみませんっ」


 (やっちゃった……!)


 この状況は多分、俺が問題を当てられてるのに答えないから起こったのだと思う。

 クラスメイトの視線が痛いし、何より先生に呆れられるんじゃないかと恥ずかしくなった。


 「望月が授業中にぼーっとするなんて珍しいな」

 「あ……本当にすみません……」


 (まさか、先生に見惚れてましたなんて言えない……)


 縮こまる俺に先生は特に怒った様子もなく「あの問題分かる?」と黒板を指差す。それに答えれば「正解」と笑った先生が、前の方へ戻って行った。


 (はぁ……本当に情けない)


 授業が再開されるなか、ひとり反省する。いくら幸せに浮かれているからといって、こんな風に支障をきたすのは頂けないし、先生にも申し訳ない。


 (しっかりしなきゃ……!)


 俺は気持ちを入れ替えて、これまでにないくらいに集中してその後の授業を受けた。



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