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50-高谷広side
しおりを挟む「せんせ……ごめんなさい。けど、一緒に居たいです……」
泣きながら気持ちを伝えてくれる心のことを、やっぱり可愛いと思ってしまう。可愛くて、抱きしめたくて、守りたい。
(信じ難いが……好き、なんだろう。きっと)
たった3日一緒に過ごしただけでこんな気持ちになる相手なんて、そうそういない。こんなに誰かを守ってやりたいと思ったのは、初めてのことだ。
だけど、俺たちは教師と生徒。男同士で親戚同士で、年齢は十以上違う。これだけの条件が揃ってて、道を外すことは許されない。
『中途半端なことしてんじゃねえよ』
赤髪の男の子──戸塚君の言葉を思い出す。
(……本当にその通りだ)
俺たちはこれ以上進めない。こんな感情を持ってしまった以上、今すぐに手放すべきだ。大人として、それが最善の選択。
けれど、一緒に居たいと泣く心を突き放すことは出来なかった。どうせ気持ちを押し殺さなければならないなら、せめてこの子が安心できるような言葉をあげたい。一人じゃないんだと教えてあげたい。
たとえそれが、俺のエゴだとしても。
「心。俺は心のこと、すごく大切に思ってるよ」
口にできない想いを込めて、心のふわりとした黒髪を撫でる。
「たい、せつ……?」
「うん。心が俺と一緒に居たいって思ってくれるなら、これからも心と一緒に居たい」
「ほんと、に?」
不安そうな瞳に胸が詰まる。
「……本当だよ。だから、一緒に帰ろう」
「……良いん、ですか?」
「当たり前だろ?俺たちの家だよ。あそこは」
このときの俺は、自分を押し殺してでも、心に“家族“をあげることを優先としたんだ。
この先、心への想いが取り返しのつかないほど募っていくことも知らずに。
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