先生、おねがい。

あん

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48-高谷広side

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 人に聞きながらやっとたどり着いたのは、駅から一番近くのカラオケ店だった。


 「いらっしゃいま──」

 「あの、すみません!」


 入るなりカウンターに詰め寄る。店員はギョッとした様子で俺を見たが、そんなことは気にしてられなかった。


 「寝間着姿の男の子がここに着たと思うんですが」

 「寝間着、ですか?いえ……」


 芳しくない反応に焦りが募る。こんな密室に連れ込まれたなんて、一秒だって無駄に出来ない。


 「じゃあ、赤髪の男の子は?」

 「赤髪……ああ、先ほどいらっしゃいました。黒髪のお客様と二名様で」

 「……っ!何号室ですか!?」

 「ひゃ、107号室です」

 「ありがとうございます!」


 番号を聞いた瞬間に、急いで部屋へと向かう。

 部屋の前まで行くと、ドアにはめられた細長い窓から赤い髪が見えた。可能な限り覗き込んで、そして中での光景に──息を飲んだ。

 心が赤髪の子に押し倒されていたのだ。


 「……っ」


 それを見た瞬間、自分でも訳が分からないくらいに頭に血が上った。自分にこんな熱い感情があったなんて信じられないほどに。


 「心!!」


 勢いよく開けた部屋で繰り広げられていた光景は、赤髪の男の子に押し倒されて押さえ付けられている心と。

 
 『あんっ♡あっ、あっ、あっ、らめぇぇえええ♡』


 男の喘ぎ声──赤髪の子が持っているスマホから流れ出る、男の嬌声だった。


 「──は?」


 どこか思っていたのとは違う光景に唖然としてしまう。そんな俺を横目で見た赤髪の子が、心の上から降りた。


 「何、おっさん。部屋間違えてんじゃねえよ」


 ギロ、と睨まれたことにより我に帰った俺は、慌てて長椅子に駆け寄る。


 「心っ!大丈夫か?」


 ギュッと目を瞑ったままの心を起こすと、恐る恐る瞼を持ち上げた心が驚いた表情に変わった。


 「せんせ……?何で……」


 傷や衣服の乱れはないものの目には涙が溜まってて、一度は行き場をなくした怒りがふつふつと浮かび上がる。俺は心の頭を撫でて、再び赤髪の子に向き直った。


 「君、未成年?学校は?」


 まさか殴るわけにもいかなくて、マニュアル通りの対応。それが悔しいと思いつつ、結局はそうするしか出来ない自分が腹立たしい。

 そんな俺に赤髪の子は納得したように眉を寄せた。


 「……ああ、あんたか」

 「……?」

 「別に。そいつが色々教えて欲しいって言うから。見たほうが早いだろ?」

 「この子はまだ15だ」

 「俺もだけど?まさか18禁とか言う気かよ?あんただって、こんくらい見てたんじゃねえの」

 「……だいたい、君と心はどんな関係で──」


 突然グイッと胸ぐらを捕まれ、赤髪が頬をかすめた。殴られるのも覚悟したが、想像に反して耳元で不機嫌そうな声が響く。


 「あんたこそ。たかが担任の分際で、中途半端なことしてんじゃねえよ」

 「な……」

 「次こいつのこと泣かせたら、訴えるからな。おっさん」

 「……っ」


 俺を乱暴に突き放した赤髪の子は、心の方へと視線をやった。


 「じゃーな、望月。俺帰るから」

 「え、あ、うん!ご、ごめんね。ありがとうっ」


 怯えていると思っていた心は、案外普通の調子で挨拶を交わして、部屋から出て行く赤髪の子を見送った。


 「先生……あの、何でここが──」


 困ったような表情。むしろ、俺に対する態度の方がよそよそしい気がする。それが面白くなくて、気付けば俺はほぼ無意識に心を抱きしめていた。


 「せ、先生……!?」

 「良かった……」


 (本当に、無事でよかった……)


 


 

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