先生、おねがい。

あん

文字の大きさ
上 下
45 / 329

44

しおりを挟む



 金髪さんを見送ってから、戸塚君は俺の腕をガシッと掴んで歩き始めた。


 (戸塚君、怒ってる……?)


 それはそうだ。友達との時間を邪魔したのに加えて服まで貸してもらってるわけだから、怒るのも無理ない。


 「あのっ、戸塚君。ご、ごめんね……」


 引きずらるようにしながら謝れば、戸塚君の動きがピタッと止まった。振り返った戸塚君の顔は、いつもよりさらに険しい。


 「何が?」

 「友達……」

 「別に。ただのセフレだし」

 「せふれ……?」


 意味が分からずに聞き返すと、戸塚君はしれっとした顔で言葉を続けた。


 「セックスフレンド」

 「へっ……」


 まさかの答えに言葉が詰まる。


 (せ、せっくすってエッチのことだよね?)


 自分と同い年のはずの戸塚君が、そんな大人な関係を持っていたとは。しかも相手は男の子だなんて。


 「顔、赤すぎだろ」

 「あ、や、えっと……お、大人だね」


 何とか口にできた言葉に、戸塚君は心底呆れたような目を向けてきた。


 「はぁ……ほんとアホ望月」


 ため息を吐いた戸塚君は、掴んでいた俺の手をグイッと引っ張って、顔を寄せた。綺麗だけど怒ってる顔が至近距離にあって、恐怖と緊張で胸がバクバクいっている。


 「と、つか、くん……?」

 「言ったよな。少しは警戒しろって」


 唇が触れそうな距離で吐息がかかり、戸塚君から香る花の匂いが鼻をくすぐった。


 「お前さぁ、と何かあったんだろ」

 「え……」

 「目、腫れてる」

 「……!」


 まぶたを撫でられ、ギクリとする。昨日はあれほど泣いたから、その名残が出てしまったようだ。


 「やっ……!」


 また昨晩のことを思い出してしまった俺は、思わず戸塚君を突き放した。


 「あ……ごめっ……」


 乱暴をしてしまったことをすぐに後悔するも、戸塚君はそれについては怒った様子はなく、赤い髪の毛をぐしゃぐしゃとかきむしる。


 「だいたい、こんな朝早くにそんな格好で外いるっておかしいだろ。逃げてきたんだろ?」

 「ちがっ」


 確かに逃げて来たけど、でもそれは俺が勝手にしたこと。俺が先生に迷惑をかけてしまったから悪いんだ。


 「いい加減にしろ。お前お人好しすぎんだよ。ちょっとは人のこと疑えって」

 「違う……違うもん」
 
 「違くねえよ。そんなとこ早く出て、さっさと自分の家に帰れ」


 (やだ……っ!)


 帰りたくない。一人きりはもうやだ。

 先生はひとりぼっちだった俺を救ってくれた。嬉しいって感情を、幸せだって感情を教えてくれた。


 『心』


 名前を呼ばれるだけで幸せだなんて、俺にとっては夢みたいな話。

 先生がいなかったら俺は、空っぽのまま生きてた。一人で、ただ息をするだけの存在として生きてた。それを先生が変えてくれたんだ。


 気づけば俺は、ここが外だということを忘れて、戸塚君に向かって叫んでいた。



 「違うの!俺がえっちだから悪いの!」


 「──は?」


 すぐに後悔して、顔を真っ赤に染めたのは言うまでもない。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...