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しおりを挟む金髪さんを見送ってから、戸塚君は俺の腕をガシッと掴んで歩き始めた。
(戸塚君、怒ってる……?)
それはそうだ。友達との時間を邪魔したのに加えて服まで貸してもらってるわけだから、怒るのも無理ない。
「あのっ、戸塚君。ご、ごめんね……」
引きずらるようにしながら謝れば、戸塚君の動きがピタッと止まった。振り返った戸塚君の顔は、いつもよりさらに険しい。
「何が?」
「友達……」
「別に。ただのセフレだし」
「せふれ……?」
意味が分からずに聞き返すと、戸塚君はしれっとした顔で言葉を続けた。
「セックスフレンド」
「へっ……」
まさかの答えに言葉が詰まる。
(せ、せっくすってエッチのことだよね?)
自分と同い年のはずの戸塚君が、そんな大人な関係を持っていたとは。しかも相手は男の子だなんて。
「顔、赤すぎだろ」
「あ、や、えっと……お、大人だね」
何とか口にできた言葉に、戸塚君は心底呆れたような目を向けてきた。
「はぁ……ほんとアホ望月」
ため息を吐いた戸塚君は、掴んでいた俺の手をグイッと引っ張って、顔を寄せた。綺麗だけど怒ってる顔が至近距離にあって、恐怖と緊張で胸がバクバクいっている。
「と、つか、くん……?」
「言ったよな。少しは警戒しろって」
唇が触れそうな距離で吐息がかかり、戸塚君から香る花の匂いが鼻をくすぐった。
「お前さぁ、センセイと何かあったんだろ」
「え……」
「目、腫れてる」
「……!」
まぶたを撫でられ、ギクリとする。昨日はあれほど泣いたから、その名残が出てしまったようだ。
「やっ……!」
また昨晩のことを思い出してしまった俺は、思わず戸塚君を突き放した。
「あ……ごめっ……」
乱暴をしてしまったことをすぐに後悔するも、戸塚君はそれについては怒った様子はなく、赤い髪の毛をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「だいたい、こんな朝早くにそんな格好で外いるっておかしいだろ。逃げてきたんだろ?」
「ちがっ」
確かに逃げて来たけど、でもそれは俺が勝手にしたこと。俺が先生に迷惑をかけてしまったから悪いんだ。
「いい加減にしろ。お前お人好しすぎんだよ。ちょっとは人のこと疑えって」
「違う……違うもん」
「違くねえよ。そんなとこ早く出て、さっさと自分の家に帰れ」
(やだ……っ!)
帰りたくない。一人きりはもうやだ。
先生はひとりぼっちだった俺を救ってくれた。嬉しいって感情を、幸せだって感情を教えてくれた。
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名前を呼ばれるだけで幸せだなんて、俺にとっては夢みたいな話。
先生がいなかったら俺は、空っぽのまま生きてた。一人で、ただ息をするだけの存在として生きてた。それを先生が変えてくれたんだ。
気づけば俺は、ここが外だということを忘れて、戸塚君に向かって叫んでいた。
「違うの!俺がえっちだから悪いの!」
「──は?」
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