先生、おねがい。

あん

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 和やかな夕食を済ませ、食器洗いを二人でやって、それぞれ寝る準備を済ませたわけだけれども、問題も残っている。それは……。


 「きょ、今日も一緒に寝るんですか……」


 一緒のベッドに寝るなんて、昨日はどんなに緊張したことか。

 俺は床の上で寝れるのに。むしろその方が良いのに。先生は絶対にそれを良しとしてくれない。


 「そりゃあ布団ないし。あと一日我慢してくれ」

 「でも……」


 こうしていざベッドを目の前にすると、戸塚君の言葉が蘇ってしまう。


 『セックス』

 『男にも手ェ出す奴いるから』

 『こんな風に──』


 (なっ、ないない!!ないないないない!!)


 頭を振って、そう自分に言い聞かせる。

 だって、相手は先生だ。従兄弟だし。男同士だし。そもそも、女の子相手でもそんなことをするような人じゃない。戸塚君はただ俺をからかっただけ。


 「心?」


 ベッドの上で不思議そうに首を傾げる先生。眼鏡の奥に見える瞳は、何の下心もなさそうな優しい瞳。

 先生は明日もお仕事だっていうのに、俺の自意識過剰のせいで先生の睡眠時間が減っていくと思うと、申し訳なさすぎる。


 「〰︎〰︎っ」


 これ以上待たせられないと思った俺は、意を決してベッドの中に入って先生と反対方向を向いた。先生もリモコンで電気を消して同じ布団に潜ってきて、ますます緊張する。


 「おやすみ、心」

 「お、おやすみなさいっ」


 早く。早く寝たいと思うのに、戸塚君の言葉が頭から離れてくれない。心臓はばくばくで、何だか変な汗も出てきた。

 そんな状況で、あろうことか先生が俺の頭を撫で始めた。


 「え、せ、先生……!?」


 長い指が髪の間を何度も優しく梳く。

 先生に撫でられるのは嬉しいし気持ち良いから好きだ。けど、今は駄目。今こんなことをされたら、思考が変な方向へ行ってしまうから。


 (うぅ……でも、やめてなんて言えないし……)


 ぎゅうっと目を瞑って縮こまる俺とは反対に、先生は耳元で心底落ち着いたような声で囁いた。


 「あー……心と寝るとなんか落ち着く。弟の小さい頃思い出す」

 「お、弟さん?」

 「ん。心より一コ下でれんって言うんだ。昔は心みたいに可愛かったんだけどさ、今は俺と身長同じくらいで口も生意気になっちゃって。今度一緒に会いに行こうな」


 (従兄弟、もう一人いたんだ……)


 また親戚に会えるなんて嬉しい。そう思うけど、今はこの状況のせいで素直に喜べない。

 先生の身体と自分の身体がくっついてるのが変な感じがして落ち着かない。そわそわしてむずむずする。

 大変なことに、そんな精神状態は身体にまで影響を及ぼしてしまった。

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