先生、おねがい。

あん

文字の大きさ
上 下
36 / 329

35

しおりを挟む



 何を話せば良いのか分からず無口になってしまった俺に、先生が「そうだ」と気を取り直すように声を出した。


 「明日部活ないから、午前中だけ学校に顔出して帰ってくる。その後、買い物行こう」
 
 「はい」


 朝言ってたように、明日はお弁当箱を買いに行く。

 土曜なのに仕事があるなんて、社会人は忙しい。そんななか、わざわざ俺のために買いに行くなんて申し訳ない気もするけど、一緒にお買い物というのは素直に嬉しかった。


 (そういえば先生って何部なんだろう……)


 担任が顧問をしている部活を知らないなんて失礼だけど、今聞かないとさらにタイミングを逃してしまう気がして、次々と箸を進める先生に恐る恐る声をかける。


 「あの……」

 「ん?」

 「先生って、何部の顧問なんですか?」

 「ああ、茶道部だよ」

 「茶道部?」


 先生は背が高くてシュッとした身体つきだから、てっきり運動部だと思っていた。


 「うん。母さんが茶道の師範をやってる影響で、俺もいくつか資格持ってるから。うちの学校、他にそういう先生いないし」

 「すごい……」


 自分には縁のないその世界がとっても素敵に思えて感嘆を漏らせば、なぜか先生は苦笑いを見せた。


 「そんなことないよ。茶道部って緩いところ多いし、週三回の活動で土日祝日は必ず休み。まあ、おかげでそんなに忙しくないんだけどな」


 その笑いにどんな意味が込められているのか、未熟な俺には分からない。けど、何だか先生が無理しているようにも見えて。


 「今が……あんまり忙しくないなら……」

 「ん?」


 口下手だから上手く言えないかもしれない。けど、それを言い訳にして、何も言わないのは駄目だ。

 先生の本当の笑顔はもっとキラキラで格好良いから、そんな悲しい顔はしないで欲しい。

 箸を握った手にぎゅっと力を込めて、先生の目を見つめる。


 「それはきっと、先生が今まで資格を取るために頑張ってきたから……だから、今まで頑張った分の貯金のおかげ、ですね」

 「心……」


よく分からないことを言ってしまい、今さら後悔が募る。俺なんかが生意気言って先生は嫌な気持ちになっただろうか。
 

「せん、せい……?」

 
 驚いたように俺を見つめる先生に耐えきれず、思わず呼びかけてしまった。俺の声にハッとした様子に先生は、口元を手で隠した。


 「いや、うん。……ありがとな、心」


 少し照れたようなその顔は、多分嫌がってはいなくて。迷惑でもなかったみたい。


 (少しでも、力になれたかな……)


 安心した俺は食事を再開する。先生は何度も美味しい美味しいと言いながら食べてくれて、すごく嬉しかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ガテンの処理事情

BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。 ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

上司と俺のSM関係

雫@更新予定なし
BL
タイトルの通りです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...