先生、おねがい。

あん

文字の大きさ
上 下
34 / 329

33

しおりを挟む




 途中で買い物に寄って、先生のアパートに帰ってきた。朝にもらった合鍵を使ってドキドキしながら中に入る。

 ダイニングに荷物を置いて時計を見ると、時刻はちょうど18時を回ったところだった。

 先生は19時くらいに帰るって言ってたから、今から夕食を作ればちょうどいい時間になるだろう。


 (そういえば、先生ってどんな料理が好きなんだろう。今度聞いておかなきゃ)

 
 なるべく先生が美味しいと思ってくれるものを作って、喜んでもらいたい。

 そんなことを考えながら調理をして、一時間と少し経ったくらいで先生からメッセージが届いた。


 『ごめん、もう少し遅くなる。先食べてても良いから』


 (仕事で何かあったのかな)


 教師って大変なんだなと思いつつ、『分かりました。俺のことは気にしないでください』と送っておく。

 こんな家庭的なメッセージのやりとりも初めてのことだから、胸がむずむずして、スマホをぎゅっと押し付けた。


 (早く、会いたいな……)


 数時間前にも学校で顔を合わせたのに、そんなことを思ってしまう自分に驚いた。どんどん贅沢になっていく自分が怖い。けど幸せとも思う、不思議な感覚。

 どちらにしても、仕事なら仕方ない。せっかく時間が出来たのだからと、軽く掃除をして待つこと30分。


 (帰ってきた……!)


 扉が開く音がした瞬間に立ち上がって、小走りで玄関に向かう。


 「お帰りなさい」

 
 靴を脱いでいる途中だった先生が顔を上げ、目を瞬かせた。何か驚いたような、そんな顔をしている。


 「先生?」


 何か変なことをしてしまったのかと不安になったが、よく考えると待ってました感があからさまだったかもしれない。帰ってきた瞬間小走りで寄って来るなんて、まるで子どものようだ。


 (は、恥ずかしい……っ)


 「あ、あのっ……俺っ」


  今さら恥ずかしくなってあたふたしだした俺に、靴を脱いだ先生が「ただいま」と言った。苦笑した先生の手が俺の頭へとのびる。


 「ごめん。嬉しすぎてびっくりしてた」

 「嬉しい、ですか?」

 「うん。だって、待っててくれたんだろ?」


 (待ってた。すごく、待ってた)

 
 待ってたというより、の方が正しいかもしれない。


 「……はい」


 恥ずかしさを堪えて素直に頷くと、先生は嬉しそうに微笑んだ。


 「ありがとな」


 その笑顔は、こちらがお礼を言いたいくらいに格好良くて。頭から伝わる温もりは泣きそうなほど心地良い。

 顔が熱くて、心臓はぎゅうっと痛い。

 嬉しいのに苦しい、この不思議な感情は一体何なのか。今はよく分からなかった。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...