33 / 329
32-高谷広side
しおりを挟む
*
メッセージに記してあった喫茶店に入り、先に着いていた彼女の向かいに腰を下ろす。
「驚いたよ。いきなり近くに来てるだなんて」
「だって、そうでもしないと会えないじゃないっ」
そう言って頬を膨らませている恋人とは、付き合って半年になる。最近は俺の仕事が忙しくて一緒の時間を過ごせていなかったから、いつも通り自然消滅するかもとか思ってたけど、そうはならなかったみたいだ。
彼女の要件を聞いたらすぐに帰るつもりだけど、さすがに何も注文しないわけにはいかないし、注文を聞きに来た店員さんに飲みきるつもりのないコーヒーを頼む。
「連絡してなくてごめんな。ちょっと、ゴタゴタしてて」
「仕事忙しいんだ?」
「んー、まあ」
確かに忙しかったけど無理をすれば会えないことはなかった。その罪悪感から煮え切らない返答になってしまったが、一応付き合ってるわけだし詳しいことを話すべきだろうと、話を切り出す。
「それがさ……」
全て説明し終わると彼女は腑に落ちない様子で頬杖をついた。
「でもさー、広君がそんなに親切にする必要あるかなぁ。従兄弟って言っても、今まで全然関わりなかったんでしょ?」
「だからってほっとけないだろ」
「んー、お人好しすぎぃ」
彼女は呆れた様子でため息をつき、ご自慢の可愛い瞳で俺のことをジッと見つめる。
「それに、その子がいたら私たち益々会えなくなるじゃない」
その言葉に胸が騒ついた。
本来はそうなのだろう。全く関わってこなかった従兄弟より彼女の方が大事で、彼女と会えなくなるのは寂しいはずだし物足りないはずだ。けど俺は、どんなことも心より大切だとは思えなかった。
担任になって二ヶ月。つまりは出会って二ヶ月。毎日のように心を見ていて分かったことがある。
心はすごく良い子だ。
課題のプリントはどの生徒よりも丁寧にやってくる。廊下で教師とすれ違うたびに軽く頭を下げて会釈する。
バイトに対する責任感は人一倍だし、人を気遣うために自分を押し殺しちゃうような、そんな子なんだ。
「別に虐待受けてるわけじゃないんだし、家に帰したほうがいいんじゃない?その子だって、窮屈な思いするだろうしさぁ」
お前が心の何を知っているんだって言ってやりたい。
俺に帰らないでって縋った、あの儚い子どもを一人になんて出来るわけがない。
何より俺が心と一緒に居たいって思ったんだ。あの子の笑顔を見たいって、俺が笑わせてやりたいって思ったんだ。
俺はまた笑顔の仮面を貼り付けて、席を立った。
「とにかくそういうことだから、しばらくまた会えなくなる」
「え……ちょっと、本気?広く──」
彼女の言葉を聞き終える前に、テーブルにお金を置いて店を出た。その直後に彼女から別れのメッセージが届いたが、特に何も感じず、ただ早く家に帰りたいと思うばかりだった。
メッセージに記してあった喫茶店に入り、先に着いていた彼女の向かいに腰を下ろす。
「驚いたよ。いきなり近くに来てるだなんて」
「だって、そうでもしないと会えないじゃないっ」
そう言って頬を膨らませている恋人とは、付き合って半年になる。最近は俺の仕事が忙しくて一緒の時間を過ごせていなかったから、いつも通り自然消滅するかもとか思ってたけど、そうはならなかったみたいだ。
彼女の要件を聞いたらすぐに帰るつもりだけど、さすがに何も注文しないわけにはいかないし、注文を聞きに来た店員さんに飲みきるつもりのないコーヒーを頼む。
「連絡してなくてごめんな。ちょっと、ゴタゴタしてて」
「仕事忙しいんだ?」
「んー、まあ」
確かに忙しかったけど無理をすれば会えないことはなかった。その罪悪感から煮え切らない返答になってしまったが、一応付き合ってるわけだし詳しいことを話すべきだろうと、話を切り出す。
「それがさ……」
全て説明し終わると彼女は腑に落ちない様子で頬杖をついた。
「でもさー、広君がそんなに親切にする必要あるかなぁ。従兄弟って言っても、今まで全然関わりなかったんでしょ?」
「だからってほっとけないだろ」
「んー、お人好しすぎぃ」
彼女は呆れた様子でため息をつき、ご自慢の可愛い瞳で俺のことをジッと見つめる。
「それに、その子がいたら私たち益々会えなくなるじゃない」
その言葉に胸が騒ついた。
本来はそうなのだろう。全く関わってこなかった従兄弟より彼女の方が大事で、彼女と会えなくなるのは寂しいはずだし物足りないはずだ。けど俺は、どんなことも心より大切だとは思えなかった。
担任になって二ヶ月。つまりは出会って二ヶ月。毎日のように心を見ていて分かったことがある。
心はすごく良い子だ。
課題のプリントはどの生徒よりも丁寧にやってくる。廊下で教師とすれ違うたびに軽く頭を下げて会釈する。
バイトに対する責任感は人一倍だし、人を気遣うために自分を押し殺しちゃうような、そんな子なんだ。
「別に虐待受けてるわけじゃないんだし、家に帰したほうがいいんじゃない?その子だって、窮屈な思いするだろうしさぁ」
お前が心の何を知っているんだって言ってやりたい。
俺に帰らないでって縋った、あの儚い子どもを一人になんて出来るわけがない。
何より俺が心と一緒に居たいって思ったんだ。あの子の笑顔を見たいって、俺が笑わせてやりたいって思ったんだ。
俺はまた笑顔の仮面を貼り付けて、席を立った。
「とにかくそういうことだから、しばらくまた会えなくなる」
「え……ちょっと、本気?広く──」
彼女の言葉を聞き終える前に、テーブルにお金を置いて店を出た。その直後に彼女から別れのメッセージが届いたが、特に何も感じず、ただ早く家に帰りたいと思うばかりだった。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる