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しおりを挟む顔を洗ってリビングに行くと、香ばしい匂いが鼻を掠めた。
テーブルの上には、パンやら目玉焼きやら、しまいには牛乳まであって、慣れない光景につい目を疑って立ち尽くしてしまう。
「どうした、そんなとこで突っ立って。おいで」
「は、はい」
キッチンから出てきた先生に手招きされるまま、席に着く。先生も向かいに座って、手を合わせた。
「いただきます」
「いた、だきます......」
そう言ったはいいが、なかなか手を出せない。あまりにキラキラした光景に戸惑って、身体がついていかない。
「どうした?」
俺を心配する先生の優しい瞳と声。
それだけで罪悪感が募って、胸がぎゅっと痛くなる。
「ごめ、なさ......迷惑、かけて......」
冷蔵庫にこんな食材はなかったはずだから、きっとわざわざコンビニかどこかで買ってきたに違いない。
一晩過ごす予定も準備もなかった先生にわがままを言ってしまって、すごく困ったに違いない。
いっときの感情で人様に迷惑をかけただなんて、申し訳なさすぎて目も合わせられなくて、俯きながらズボンを握りしめること数秒。
「心」
その瞬間、ドキッと胸が跳ねた。
先生に下の名前で呼ばれたのは初めてで驚いて、顔を上げると、先生は真面目な顔をして俺を見ていた。
「迷惑じゃない」
俺が首を傾げれば、先生は小さく微笑んで言葉を続ける。
「これからは一緒に朝ごはんを食べよう。いや、朝だけじゃなくて、夜も」
「え......?」
それが何を意味するか。それは分かっているけれど、意図は理解出来なくて。でもこんな馬鹿な俺でも、先生は愛想を尽かすことなく、やっぱり優しい声を出す。
「俺達、家族になろう」
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