撃ち抜けヴァージン

タリ イズミ

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飲み物制覇-2

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 あたしの言葉に和泉が宇宙人でも見るような目つきになった。そこで気づいたが、右目の下に泣きぼくろがある。和泉はすぐに目尻を下げた。

「姫宮さんが大勢に囲まれてる理由が分かる気がする」
「そう? とにかく、アイコンは好きな画像に設定したら。次に誰かと連絡先を交換すときもこの状態で教えるつもり?」

 あたしの言葉に和泉はくすりと笑い、「考えておくよ」とスマホをしまった。その場で画像を探さないところは、案外頑固者か、あるいはマイペースなのかもしれない。

 あたしは和泉をまじまじと見つめた。毛量の多いくせっ毛の黒髪に顔立ちを隠すような太いフレームの眼鏡、二重の目が左右で少しバランスが違って、泣きぼくろがその補強をしているようだ。あまり見た目にこだわりがないのか、耳にかかる髪が野暮ったい感じがするが、それがどこか薄幸そうな空気を出している。

「俺、なんか変?」

 和泉が自分の体を見下ろす。あたしがじろじろと見ているのを勘違いしたらしい。

「ううん、別に」
「じゃあ、俺、バイトに行くから帰るね」

 和泉はそう言うと、「ジュースありがとね」と言って教室から出て行く。なぜかその白シャツの背中が目蓋の裏にくっきりと跡を残し、あたしは自分も帰るために席を立った。

 その後、あたしはおいしいものとまずいもの、つまり、毎日飲んだ飲み物の感想を画像付きで和泉に送った。「マジうま」「鬼まず」「水は裏切らない」「炭酸で口が飛んだ」等、一言だけ。和泉が返事をしないのでただ画像をアップするのと殆ど変わらなかったが、梨ジュースを飲んだ日に「俺も飲んだけど味薄いよね」とメッセージが返ってきた。

『マ? 梨は固形が最強説』
『ラ・フランスならおいしいかもしれないよ』
『そんな高級そうなジュースないっしょ』

 数回のラリーで話は終わったが、あたしは満足して自室もベッドに寝転がってやり取りを眺めた。和泉とは例の掃除の日以来言葉を交わしていない。というより、和泉自身があまり人と交流しないのだ。新作のカラコンの話題で友人らと盛り上がりつつ見る和泉の背中は、教室のどこよりも空気が薄かった。たまに碓氷が教室へ来て「千尋」と呼び出したときに女子が騒ぐから、彼の色彩が濃くなるだけ。碓氷と向き合う和泉はいつも白い顔をしていて、彼氏が来ているというのに嬉しそうには見えなかった。

「和泉碓氷カップルってどこで遊んでんだろ」

 なにげなく友人らに聞いてみたが、「リア充のことなんか分かんない」と返ってきた。高校生活も落ち着いてきたが、友人に彼氏ができた子はまだいない。アルバイトに精を出したりファッションに夢中だったりと、皆が自分の青春に忙しいのだ。

「璃々子、それより宿題教えてよ」
「五月考査まで勉強漬けかあ。だっるー」
「つか、うちら高校受験したばっかなんですけど」

 口々に文句を言う友人らに、あたしは和泉は誰と勉強するんだろうと思った。
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