撃ち抜けヴァージン

タリ イズミ

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罰掃除-2

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「ちょっとー! 掃除するから出てって」

 そう言いながら扉をガラガラと開け、目の前の光景に中へ入ろうとした足を止めた。

 実験室の広い机の上に座らされているのはクラス委員長の眼鏡男子、和泉千尋いずみちひろ。その和泉のネクタイを引っ張りながら今にも乗っかろうとしているのは、隣のクラスのイケメン男子だ。こちらを見た和泉がさっと青ざめ、あたしは彼の外れたベルトやファスナーが下りて広げられたズボンの前をまじまじと見てしまった。その机に正方形の薄い小さなピンクのパッケージが置かれている。思わず大きなため息が出た。

「そういうの、家に帰ってからにしてくんない?」

 コンドームを指さすと、イケメンがにやっとした。

「邪魔すんなよ。これからだったのに」

 あたしはそこでイケメンの名前を思い出した。碓氷うすいだ。下の名前は知らない。

姫宮ひめみや、だっけ。ギャルなら放課後はさっさと遊びに行けよ」

 根元が黒くプリンになってきた頭を指され、思わず口をとがらせる。

「ウチだって、掃除もアンタらと遭遇することも予定に入ってないし。とにかく、掃除しないとウチが帰れないから出てって」

 語気を強めると、「はいはい」と碓氷が生返事をして和泉のネクタイを放した。和泉が慌てたようにズボンの前を直す。

 碓氷と和泉は学年でも有名なカップルだ。碓氷は入学当初からその容姿で目立っていた。女ウケが良さそうな爽やかイケメンで高身長。これでスポーツもできるとなれば騒ぐ女子も出てくる。碓氷が体育をしている時間は女子の悲鳴がうるさいらしい。

 だが、彼は近寄ってくる女子を「俺、幼馴染みの千尋と付き合ってるから」と遠ざける術を持っていた。

 実験室の丸椅子を机の上にひっくり返しながら、あたしはちらりと和泉の様子を窺った。

 和泉は線が細く、気弱そうなところが前面に出ている影の薄い男子だ。黒縁眼鏡とフレームにかかる野暮ったいくせっ毛の前髪がその印象に拍車をかけている。クラス委員長になったのも、「面倒くさそう」という役割をクラスの皆に押しつけられたからだ。あたしも委員長が決まったときは内心「ラッキー」と拍手をしたクチだ。

 根が真面目なのか、和泉は多数決で決まったそれに「分かりました」と首肯し、一ヶ月たった今も黙々と委員長の仕事をこなしている。なかなか集まらないプリントの回収、体育館の朝礼に向かうやる気のないクラスメイトの人数確認、尿検査の運び役だってやらされていた。尿検査を提出しない女子に声をかけて「生理だから無理」とあっけらかんと答えた友人に、「ごめん」とたじろいだのもいかにもというイメージだ。

 だが、今日の様子を見るに、地味で平凡を行く人物だと思っていたのはあたしの勘違いだったらしい。
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