2 / 24
罰掃除-2
しおりを挟む
「ちょっとー! 掃除するから出てって」
そう言いながら扉をガラガラと開け、目の前の光景に中へ入ろうとした足を止めた。
実験室の広い机の上に座らされているのはクラス委員長の眼鏡男子、和泉千尋。その和泉のネクタイを引っ張りながら今にも乗っかろうとしているのは、隣のクラスのイケメン男子だ。こちらを見た和泉がさっと青ざめ、あたしは彼の外れたベルトやファスナーが下りて広げられたズボンの前をまじまじと見てしまった。その机に正方形の薄い小さなピンクのパッケージが置かれている。思わず大きなため息が出た。
「そういうの、家に帰ってからにしてくんない?」
コンドームを指さすと、イケメンがにやっとした。
「邪魔すんなよ。これからだったのに」
あたしはそこでイケメンの名前を思い出した。碓氷だ。下の名前は知らない。
「姫宮、だっけ。ギャルなら放課後はさっさと遊びに行けよ」
根元が黒くプリンになってきた頭を指され、思わず口をとがらせる。
「ウチだって、掃除もアンタらと遭遇することも予定に入ってないし。とにかく、掃除しないとウチが帰れないから出てって」
語気を強めると、「はいはい」と碓氷が生返事をして和泉のネクタイを放した。和泉が慌てたようにズボンの前を直す。
碓氷と和泉は学年でも有名なカップルだ。碓氷は入学当初からその容姿で目立っていた。女ウケが良さそうな爽やかイケメンで高身長。これでスポーツもできるとなれば騒ぐ女子も出てくる。碓氷が体育をしている時間は女子の悲鳴がうるさいらしい。
だが、彼は近寄ってくる女子を「俺、幼馴染みの千尋と付き合ってるから」と遠ざける術を持っていた。
実験室の丸椅子を机の上にひっくり返しながら、あたしはちらりと和泉の様子を窺った。
和泉は線が細く、気弱そうなところが前面に出ている影の薄い男子だ。黒縁眼鏡とフレームにかかる野暮ったいくせっ毛の前髪がその印象に拍車をかけている。クラス委員長になったのも、「面倒くさそう」という役割をクラスの皆に押しつけられたからだ。あたしも委員長が決まったときは内心「ラッキー」と拍手をしたクチだ。
根が真面目なのか、和泉は多数決で決まったそれに「分かりました」と首肯し、一ヶ月たった今も黙々と委員長の仕事をこなしている。なかなか集まらないプリントの回収、体育館の朝礼に向かうやる気のないクラスメイトの人数確認、尿検査の運び役だってやらされていた。尿検査を提出しない女子に声をかけて「生理だから無理」とあっけらかんと答えた友人に、「ごめん」とたじろいだのもいかにもというイメージだ。
だが、今日の様子を見るに、地味で平凡を行く人物だと思っていたのはあたしの勘違いだったらしい。
そう言いながら扉をガラガラと開け、目の前の光景に中へ入ろうとした足を止めた。
実験室の広い机の上に座らされているのはクラス委員長の眼鏡男子、和泉千尋。その和泉のネクタイを引っ張りながら今にも乗っかろうとしているのは、隣のクラスのイケメン男子だ。こちらを見た和泉がさっと青ざめ、あたしは彼の外れたベルトやファスナーが下りて広げられたズボンの前をまじまじと見てしまった。その机に正方形の薄い小さなピンクのパッケージが置かれている。思わず大きなため息が出た。
「そういうの、家に帰ってからにしてくんない?」
コンドームを指さすと、イケメンがにやっとした。
「邪魔すんなよ。これからだったのに」
あたしはそこでイケメンの名前を思い出した。碓氷だ。下の名前は知らない。
「姫宮、だっけ。ギャルなら放課後はさっさと遊びに行けよ」
根元が黒くプリンになってきた頭を指され、思わず口をとがらせる。
「ウチだって、掃除もアンタらと遭遇することも予定に入ってないし。とにかく、掃除しないとウチが帰れないから出てって」
語気を強めると、「はいはい」と碓氷が生返事をして和泉のネクタイを放した。和泉が慌てたようにズボンの前を直す。
碓氷と和泉は学年でも有名なカップルだ。碓氷は入学当初からその容姿で目立っていた。女ウケが良さそうな爽やかイケメンで高身長。これでスポーツもできるとなれば騒ぐ女子も出てくる。碓氷が体育をしている時間は女子の悲鳴がうるさいらしい。
だが、彼は近寄ってくる女子を「俺、幼馴染みの千尋と付き合ってるから」と遠ざける術を持っていた。
実験室の丸椅子を机の上にひっくり返しながら、あたしはちらりと和泉の様子を窺った。
和泉は線が細く、気弱そうなところが前面に出ている影の薄い男子だ。黒縁眼鏡とフレームにかかる野暮ったいくせっ毛の前髪がその印象に拍車をかけている。クラス委員長になったのも、「面倒くさそう」という役割をクラスの皆に押しつけられたからだ。あたしも委員長が決まったときは内心「ラッキー」と拍手をしたクチだ。
根が真面目なのか、和泉は多数決で決まったそれに「分かりました」と首肯し、一ヶ月たった今も黙々と委員長の仕事をこなしている。なかなか集まらないプリントの回収、体育館の朝礼に向かうやる気のないクラスメイトの人数確認、尿検査の運び役だってやらされていた。尿検査を提出しない女子に声をかけて「生理だから無理」とあっけらかんと答えた友人に、「ごめん」とたじろいだのもいかにもというイメージだ。
だが、今日の様子を見るに、地味で平凡を行く人物だと思っていたのはあたしの勘違いだったらしい。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
国外追放されたのに
りこ
恋愛
これはわたしが篠原蝶子だったときの物語。
わたしはただあなたの特別になりたかっただけなのです。それは罪深いことだったのでしょうか?
誰にでも優しいあなたに一番に優しくされたかっただけなのです。
こんな特別、わたしは望んでいませんでした。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる