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5巻【四】
4 恋バナ
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男子たちは教室に戻ると机と椅子を廊下に運び出し、教室に敷いた布団の上で寝転がってのお喋りタイムに移った。首にタオルをかけてジャージ姿で男子とわいわいすると、去年のオリエンテーションを思い出させる。ドロケイが盛り上がったというのもあって、タイプの違うクラスメイトたちも全員で輪になった。最初に話題になったのは受験や勉強のことについてだったが、一人がため息をついて枕を抱えた。
「三年生になって一気に受験って空気が漂って、ちょっと焦ったかも。彼女にフラれた」
その言葉に皆が「えっ」と声をあげる。彼がぼすっと枕に顔をうずめた。
「元カノ、一個下なんだけど、デートの数が減ったら速攻でフラれた。予備校に通う日数増えて日曜日に模擬試験があっても仕方ねえじゃん? でも、高二には高三の焦りが分かってもらえなかったっぽい。現在進行形で傷心中」
するとそれぞれが「なるほど」と相槌を打つ。
「実際、高三になると別れるカップルって多いらしい。部活の先輩、どうせ違う大学に行くんだからって夏休み前に別れてた」
「俺、中学のときがそうだった。高校受験が終わった途端、違う高校に行くしそっちで新しい彼氏を作るから別れよって。すげえショックだった。女子ってサッパリしてんな」
「リア充が受験に向いてるかどうかは人に寄りけりだな」
「癒やしは必要だろ。受験の息抜き。優しい彼女の笑顔に癒やされる俺カッコ願望」
「だったら俺は犬と猫の動画を見て癒やされるわ」
「なんだその男らしい図」
最後に笑いが起きたので、朔也もははっと笑った。誰かが彼女持ちは手をあげろと言い、半数近くいたので朔也はかなり驚いた。
「え、皆、そんなに彼女いるの?」
思わず口にすると、逆に注目される。
「折原はなんでいないんだよ。見た目からしてモテそうじゃん」
「それ、身長の話? 背が高いとモテるってのは都市伝説だと思う。部活の女子に背が高すぎって言われたし、新入生にも怖がられたし」
「足速いくせに。今日、全然追いつけなかったぜ」
「とりあえず足が速けりゃモテるだろ」
それを聞いて頭を掻いた。
「だとしたら、おれのモテ期は小学校だよ。クラスで一番足速かった」
朔也の答えにどっと笑いが起きる。すると朔也とセットのイメージになっているのか、陸上部の彼が山宮を見た。
「俺、山宮がイケメンなの知ってるぞ。去年、オリエンテーションの風呂場で皆に言われてただろ。男子公認のイケメンって女子にモテそうじゃねえ?」
皆が風呂上がりに新しいマスクをつけた山宮のほうを見たので、面食らった顔をした山宮はそのままずるずると枕に突っ伏してしまった。
「いや、イケメンじゃねえわ……」
「おい、顔あげろ。マスクを外せ。借り物競走させるぞ」
「鬼畜じゃね。ハードルあげてから顔を見せろって、どんな鬼の所業だよ」
「時間が長引けば長引くほど全員期待するぞー。さあさあ面を上げぃ」
委員長の台詞に山宮ははあと息をついて布団に肘をつき、マスクを外した。
「んでさ、山宮の髪の毛をこう」
陸上部の彼が立ち上がり、山宮の後ろから前髪を斜め前から後ろへ掻き上げた。くっきりとした眉を見せた顔に周りがおおっと声を出す。
「な? 山宮、イケメンだろ?」
「なんでそっちがドヤ顔?」
山宮がそう言って彼の手をぱぱっと払うと、陸上部の彼は笑って山宮の頭を上からぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。
「というわけで、モテそうなのに彼女がいないやつがここにもいるわけ」
すると山宮はちらっとこちらを見てからふいと顔を逸らして言う。
「俺、圧倒的身長不足。折原、十センチくらいよこせ」
「あげてもいいけど、それなら山宮のイケメンさ、ちょっとちょうだい」
朔也の言葉に周りがちょっと笑って、山宮もリラックスしたように頬杖をついた。
「てか、折原は普通にかっこいいんじゃね? 好かれそうな顔してるし」
そこまで言って山宮がはっとしたように言葉を止めた。朔也は顔が赤くなりそうになり、「山宮のセンス、変わってるなあ」と枕の上で腕を組んでぼすっとそこに片頬を載せた。山宮がすぐに言葉を続ける。
「ほら、折原って犬っぽくね? 癒やされるとか言われそう。ゴールデンレトリーバーっぽくね?」
山宮の言葉に「あ、そうかも」と同意する声があがった。
「確かにゴールデンレトリーバー。茶色の温厚そうな大型犬」
「間違ってもチワワじゃねえな。ドーベルマンでもない」
「あ、聞きたい。俺、彼女にフクロウっぽいって言われたんだけど、そんなに似てるか?」
彫りの深い目のくりっとした男子の発言に皆が噴き出した。
「似てる! かなりフクロウ!」
「お前の彼女、センスの塊」
話の中心が山宮と朔也から逸れていき、朔也は適度に相槌を打ちながら高鳴る胸を抑えた。特別な時間に特別な場所というのは嫌が応にも心を浮き足立ててくる。
文系は四クラスに分散されるため、一クラスの男子の人数が少ない。小一時間のお喋りで一体感ができると、委員長が寝る前に写真を撮ろうと提案した。廊下や調理室、プールの更衣室など今日歩き回った場所をいくつかを巡って集合写真を撮る。お休み。パチンと教室の電気を消したときは十一時半を過ぎていた。
山宮のバカ!
布団を口元まで被って内心突っ込む。
おれがかっこいいとか、山宮しか思ってないだろ。山宮の基準が分かんない。……でも、すっごいにやける。
いつもより小さな布団の中で足を縮める。クラスの皆ともいい感じ。高校、すごく楽しい。あと一年、楽しく過ごしたい。今日撮った画像を明日共有アカウントに載せよう。そんなことを考えていたらいつの間にか眠っていた。
七時半の起床で調理室へ行き、大量のサンドウィッチとスープを作る。そのままお喋りしながらご飯を食べ、盛り上げてくれた委員長への拍手とともにクラス行事は終わった。日曜日の暖かくなってきた午前中に皆と別れ、自宅へ向かう。遅れて十五分、山宮が「お邪魔します」と家にやって来た。朔也は部屋着でそれを出迎えた。
「三年生になって一気に受験って空気が漂って、ちょっと焦ったかも。彼女にフラれた」
その言葉に皆が「えっ」と声をあげる。彼がぼすっと枕に顔をうずめた。
「元カノ、一個下なんだけど、デートの数が減ったら速攻でフラれた。予備校に通う日数増えて日曜日に模擬試験があっても仕方ねえじゃん? でも、高二には高三の焦りが分かってもらえなかったっぽい。現在進行形で傷心中」
するとそれぞれが「なるほど」と相槌を打つ。
「実際、高三になると別れるカップルって多いらしい。部活の先輩、どうせ違う大学に行くんだからって夏休み前に別れてた」
「俺、中学のときがそうだった。高校受験が終わった途端、違う高校に行くしそっちで新しい彼氏を作るから別れよって。すげえショックだった。女子ってサッパリしてんな」
「リア充が受験に向いてるかどうかは人に寄りけりだな」
「癒やしは必要だろ。受験の息抜き。優しい彼女の笑顔に癒やされる俺カッコ願望」
「だったら俺は犬と猫の動画を見て癒やされるわ」
「なんだその男らしい図」
最後に笑いが起きたので、朔也もははっと笑った。誰かが彼女持ちは手をあげろと言い、半数近くいたので朔也はかなり驚いた。
「え、皆、そんなに彼女いるの?」
思わず口にすると、逆に注目される。
「折原はなんでいないんだよ。見た目からしてモテそうじゃん」
「それ、身長の話? 背が高いとモテるってのは都市伝説だと思う。部活の女子に背が高すぎって言われたし、新入生にも怖がられたし」
「足速いくせに。今日、全然追いつけなかったぜ」
「とりあえず足が速けりゃモテるだろ」
それを聞いて頭を掻いた。
「だとしたら、おれのモテ期は小学校だよ。クラスで一番足速かった」
朔也の答えにどっと笑いが起きる。すると朔也とセットのイメージになっているのか、陸上部の彼が山宮を見た。
「俺、山宮がイケメンなの知ってるぞ。去年、オリエンテーションの風呂場で皆に言われてただろ。男子公認のイケメンって女子にモテそうじゃねえ?」
皆が風呂上がりに新しいマスクをつけた山宮のほうを見たので、面食らった顔をした山宮はそのままずるずると枕に突っ伏してしまった。
「いや、イケメンじゃねえわ……」
「おい、顔あげろ。マスクを外せ。借り物競走させるぞ」
「鬼畜じゃね。ハードルあげてから顔を見せろって、どんな鬼の所業だよ」
「時間が長引けば長引くほど全員期待するぞー。さあさあ面を上げぃ」
委員長の台詞に山宮ははあと息をついて布団に肘をつき、マスクを外した。
「んでさ、山宮の髪の毛をこう」
陸上部の彼が立ち上がり、山宮の後ろから前髪を斜め前から後ろへ掻き上げた。くっきりとした眉を見せた顔に周りがおおっと声を出す。
「な? 山宮、イケメンだろ?」
「なんでそっちがドヤ顔?」
山宮がそう言って彼の手をぱぱっと払うと、陸上部の彼は笑って山宮の頭を上からぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。
「というわけで、モテそうなのに彼女がいないやつがここにもいるわけ」
すると山宮はちらっとこちらを見てからふいと顔を逸らして言う。
「俺、圧倒的身長不足。折原、十センチくらいよこせ」
「あげてもいいけど、それなら山宮のイケメンさ、ちょっとちょうだい」
朔也の言葉に周りがちょっと笑って、山宮もリラックスしたように頬杖をついた。
「てか、折原は普通にかっこいいんじゃね? 好かれそうな顔してるし」
そこまで言って山宮がはっとしたように言葉を止めた。朔也は顔が赤くなりそうになり、「山宮のセンス、変わってるなあ」と枕の上で腕を組んでぼすっとそこに片頬を載せた。山宮がすぐに言葉を続ける。
「ほら、折原って犬っぽくね? 癒やされるとか言われそう。ゴールデンレトリーバーっぽくね?」
山宮の言葉に「あ、そうかも」と同意する声があがった。
「確かにゴールデンレトリーバー。茶色の温厚そうな大型犬」
「間違ってもチワワじゃねえな。ドーベルマンでもない」
「あ、聞きたい。俺、彼女にフクロウっぽいって言われたんだけど、そんなに似てるか?」
彫りの深い目のくりっとした男子の発言に皆が噴き出した。
「似てる! かなりフクロウ!」
「お前の彼女、センスの塊」
話の中心が山宮と朔也から逸れていき、朔也は適度に相槌を打ちながら高鳴る胸を抑えた。特別な時間に特別な場所というのは嫌が応にも心を浮き足立ててくる。
文系は四クラスに分散されるため、一クラスの男子の人数が少ない。小一時間のお喋りで一体感ができると、委員長が寝る前に写真を撮ろうと提案した。廊下や調理室、プールの更衣室など今日歩き回った場所をいくつかを巡って集合写真を撮る。お休み。パチンと教室の電気を消したときは十一時半を過ぎていた。
山宮のバカ!
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おれがかっこいいとか、山宮しか思ってないだろ。山宮の基準が分かんない。……でも、すっごいにやける。
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七時半の起床で調理室へ行き、大量のサンドウィッチとスープを作る。そのままお喋りしながらご飯を食べ、盛り上げてくれた委員長への拍手とともにクラス行事は終わった。日曜日の暖かくなってきた午前中に皆と別れ、自宅へ向かう。遅れて十五分、山宮が「お邪魔します」と家にやって来た。朔也は部屋着でそれを出迎えた。
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