どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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5巻【二】

3 自己紹介

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 始業式を終えて帰ってくると、山宮も戻ってきた。学ランを脱いでキャメル色のカーディガンに袖を通すとロングホームルームに入り、学年最初の自己紹介が始ると全員が一斉にぴりっとした。七クラスあるだけあって、三年間クラス替えをしていても名前も知らない生徒が多数を占めているのだ。一番の子が少し小さな声で名前と去年のクラス、一言付け加えてぺこりと頭を下げる。朔也は迫る自己紹介について考えたが、結局いつも通りのことしか思い浮かばない。

「去年B組の折原朔也です」

 朔也が立ち上がったとき、「え、背でか」と小さな声が聞こえた。威圧感ある印象になる。それを悟った朔也はすぐさま「去年、体育祭の借り物競走でとんでもない勘違いをして学校中を笑わせたのはおれです! おっちょこちょいですが、よろしくお願いします!」と明るく言って頭を掻いた。

 するとそれまでどこか緊張していた空気が一気に笑いに変わって、それぞれが「そう言えば」とか「ああ、マスクね」「そんなことあったな」などと言い出す。隣の陸上部の彼が「あんときのお前は最高だった!」と大笑いしたので、朔也は「照れちゃうなあ」と笑みを浮かべ、お決まりの茶髪天パが地毛であることや朔と呼んでくれ等を付け加え、席に座った。そこからは砕けた自己紹介が続き、山宮の番になる。

「去年B組の山宮基一です」

 紺色のセーター姿になっていた山宮は当たり障りのない口調でそう言ったが、はあとマスクの中で大きなため息をついて突然こちらを指さした。

「去年体育祭の借り物競走で、どっかの誰かの勘違いで走らされました。当人は皆を笑わせたとか言ってましたがこっちは笑ってません。今年は勘違いに巻き込まれないことを願ってます」

 山宮がよろしくお願いしますと言った途端、また教室が笑い出した。

「被害者もこのクラスなのか!」
「でもそのおかげでうちの学年はあのとき一位とれたもんね!」

 わっと明るい空気になったので、朔也は少しだけ不満を滲ませた声で「根に持ちすぎじゃない?」と教室の反対側へ声を投げかけた。

「おれ、山宮を怪我させたわけじゃないじゃん」

 すると頬杖をついた山宮がこちらをちらっと見てからふいと顔を背ける。

「あのときの筋肉痛が折原を許してねえんだよ。お前と借り物競走の相性最悪だわ」
「じゃあ今年は別競技に出ようかな」
「今年は被害者を出すなよ」

 顔を逸らした山宮の横顔に内心にやにやしてしまう。嬉しい。自然に言葉を交わせた。これなら教室で当たり前のように話しかけてもおかしくは見えないはず。もしかしたら、山宮もそんなふうに考えて話を振ってくれたのかもしれない。高校最後の一年。せっかくなら、クラスメイトとしてもっと接することができたら嬉しい。

 自己紹介でクラスが温まると、教科書や時間割等の配布、クラスの委員会や係決め、学部受験組として進路の話などを聞く。三月の学年末考査のあとに受けた模擬試験の結果は明日らしい。外部受験組では、朔也が去年からやっている模擬試験の結果と次の目標を書き入れる進路のノートを全員が始めることになるという。その様子は去年までの空気とは違い、全員が勉強に関しての意識が高まったのを感じた。

「明日は午前中は新入生歓迎会で終わりだが、明後日から授業に入る。外部受験組は授業のスピードが速い。明日の午後は二年生の復習や予習に使うのがお勧めだぞ」

 担任が生真面目にそう言ったが、最後はにっこりとした。

「もう最高学年だ。月末のクラス別行事から始まるいろんな行事も最後になる。勉強もあるが、思いきり楽しんでくれ」

 担任の言葉に全員が笑顔で「はい!」と返事をした。
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