どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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5巻【二】

2 新学期2

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 体に緊張が走り、手に汗を掻いてきた。今年の人間関係はまたここからだ。三年C組。もう一度室名札を確認すると、朔也は深呼吸して教室の後ろの扉を開けた。既に数人が席に着いていて、中には楽しそうにお喋りしているセーラー服もいる。朔也はもう一度深呼吸し、後ろの席から一列目の机の角に張られた名前のシールを確認していく。

 すると窓際から二列目に座っていた白シャツの背中がこちらを見て「おっ」と声をあげた。朔也も思わず「偶然!」と声をあげてしまった。そこに座っていたのは去年同じクラスの陸上部の男子だった。その隣の席に自分の名前のシールが貼られた机がある。

「すごい! 隣の席だ」
「折原、今年もよろしく!」

 明るい彼の笑顔にさっと自分の椅子に腰かける。教室に入ってきたときの緊張感が急に解けて、肩から力を抜いた。

「文系外部受験組だったんだ? よかった、去年のクラスメイトがいて」
「文理系は皆バラバラになるもんな。あ!」

 彼はそこで座席を先頭から数えてにやっとした。

「俺ら、どっちも出席番号が偶数じゃん。体育のスポーツテストのシャトルラン、また一緒にやるんじゃねえ? 今年は勝つからな」

 朔也は去年を思い出して笑ってしまった。去年スポーツテストのシャトルランで、最後まで一緒に走ったのは彼だった。そのシャトルランを通じて話すことができるようになり、体育祭のスウェーデンリレーの際はコツまで教えてもらった。

「陸上部がいると追いつかなきゃって頑張れるから嬉しい」
「それじゃ折原には絶対に負けられねえな。今から練習しとこ」
「去年より上を行きたい。だって高校最後のスポーツテストだし」
「全力でやろうぜ。つっても、俺、体が固いんだよな。長座体前屈とかは無理かも」

 あははと笑いながら話していると、教室の後ろからきちっとした学ランにマスク姿の山宮がやって来たのが見えた。ゆっくりと窓際の席い張られたシールを確認しながら歩き、前から三つ目の席に鞄を提げて腰かける。

 ぱらぱらと生徒が集まり、朔也はちらちらとその様子を見た。二年生のときに同じクラスだった女子が一人いるが、去年仲良くしていた体操部は一人もいない。だが、一年生のときに同じクラスだった男子が一人いて、山宮と同じように三年間同じクラスの女子が一人いた。

 すぐにチャイムが鳴って担任が「とうとう三年生だな」と菜の花色のネクタイとスーツ姿でやって来た。一年生のときから持ち上がりの学年主任なだけあって、生徒側も教師に対する緊張感はあまりなく、「先生よろしくお願いしまーす」などと明るい声をあげる生徒もいる。

「じゃあまずは体育館で始業式だ。全員廊下に二列に並ぶこと」

 朔也は脱いでいた学ランを椅子の背から持って立ち上がった。すると案の定いつの間にか山宮の姿が消えている。年に数回ある式典で放送機材を扱うのは放送部なのだ。今日から放送部も本格的に始動か。そう思うと、生き生きとした山宮の姿が思い浮かんで、なんだか嬉しくなって口元が緩んでしまう。
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