どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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5巻【一】

5 山宮の誕生日

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 翌日も会うのだからとその日はカラオケで解散し、朔也は家に帰ってから買い込んだ文房具を机に並べた。ペンケースにシャーペンとボールペンを入れようとしたが、元々色ペンやマーカーを多く使う朔也のペンケースは既にパンパンだ。思いきってマーカー以外は机にある文房具が入った丸缶に刺し、今日買ったシャーペンやボールペンと入れ替えた。新しいノートに下敷きを挟み、忘れないようにとポストイットも鞄に収める。まだ制服を着るのは数日先なのになんだか気分が高揚し、山宮が歌っていた青春ソングを鼻歌で歌いながらクリーニングの袋を破ってエチケットブラシをかけた。

 翌日山宮は朔也の家へやって来た。姉はもう大学が始まっているため、今回は出迎えはなしだ。今日は山宮の家には親がいるらしく、一人年が離れているために家族に甘やかされている山宮は、「このまま家にいたら盛大に祝われるから助けろ」と言う。

「助けろって言ったくせに」

 朔也は玄関へやってきた山宮を見て笑ってしまった。手に明らかにケーキが入った白い箱を持っていたからだ。

「誕生日おめでと! でも、ケーキはお腹いっぱいって言ってなかった?」

 すると山宮が「やっぱり一緒に食いたいなと思って」と頭を掻いた。

「なに買ったの。ピスタチオ?」
「当然。お前がなにがいいか分かんなかったんだけど、桜のケーキっていうのがあったから買ってきた」
「えっすごい、春! 共有アカウントのアイコンだね」

 今日の山宮は春に合わせたのか、昨年のオリエンテーションでも見かけたピンクの襟つきシャツを羽織っていた。昨日白のパーカーだったこちらも今日は白シャツにグレーのカーディガンだ。

 ケーキ代は出すねと言ってから冷蔵庫にしまい、昼食はリビングで親が用意してくれたちらし寿司を食べた。折原家では誕生日はちらし寿司と決まっている。家に来る友だちが誕生日なんだと言うと、二日連続になるけどと言って用意してくれた。

「うま。お前のお母さん、すごくね」

 普段なら父親が座っている向かいの席に着いた山宮が箸を動かしながら言う。

「ちらし寿司って、来日してから知ったんだろ?」
「そうだと思う。でも、結構和食も好きで、そこまで洋食とか母親の国の料理とか食べてるわけじゃないよ」

 すると山宮は改まったようにこちらをじろじろと眺めた。

「和食でそんなにでかくなる? 一八六センチって、お母さんの国に帰ったら平均身長くらいなのか?」
「向こうでも背は高いほう。日本人で言うところの百八十センチくらいのイメージじゃない? 大きいけどまあいるよね、くらい。母方の家族が高身長だから、多分それ」
「でも、姉ちゃんはそんなに大きくないんじゃね。俺より小さかったと思ったけど」
「姉ちゃんは今井よりちっちゃいよ。なんで私は背が高くならないんだろうとか不思議がってたけど、おれが服に困ってるのを見てこれくらいでいいわって言ってた」

 朔也が笑うと、山宮もつられたように笑った。山宮の箸が錦糸卵を掴む。

「逆に山宮のお姉さん、背が高くない? 葵さん、平均身長を超えてるでしょ。文化祭のときに背が高いなって思った」

 山宮の姉二人は親と同じく医者で、十歳以上年が離れている。下の姉は朔也たちの学校が母校だということもあり、昨年の文化祭にわざわざ来てくれたのだ。山宮が不満げに口をとがらす。

「葵ちゃん、一六三あるんだよ。茜ちゃんも一六〇超えてる。おかしくね? 親は二人とも背は高くないのに。姉貴の身長をやっと追い抜いたと思ったら俺が止まったわ」
「身体測定に期待するしかないな」
「期待できねえわ。お前はあんまり伸びんなよ」
「立ってるときにお互い顔が遠くて声が聞き取りづらくなるもんね」

 背が高い人あるあるだが、背丈が離れている人と喋ると声が届かないし聞こえない。山宮と立って喋っているときにお互いの声が聞こえないことはよくあって、「え、なに?」と聞き返すというやり取りはこれまで何回もやっている。朔也は女子と話すときによくあるので慣れているが、山宮は最初戸惑っていた。隣に立つ山宮が視界から消えることもよくあって、たまに側にいるのに探してしまう。
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