127 / 145
5巻【一】
5 山宮の誕生日
しおりを挟む
翌日も会うのだからとその日はカラオケで解散し、朔也は家に帰ってから買い込んだ文房具を机に並べた。ペンケースにシャーペンとボールペンを入れようとしたが、元々色ペンやマーカーを多く使う朔也のペンケースは既にパンパンだ。思いきってマーカー以外は机にある文房具が入った丸缶に刺し、今日買ったシャーペンやボールペンと入れ替えた。新しいノートに下敷きを挟み、忘れないようにとポストイットも鞄に収める。まだ制服を着るのは数日先なのになんだか気分が高揚し、山宮が歌っていた青春ソングを鼻歌で歌いながらクリーニングの袋を破ってエチケットブラシをかけた。
翌日山宮は朔也の家へやって来た。姉はもう大学が始まっているため、今回は出迎えはなしだ。今日は山宮の家には親がいるらしく、一人年が離れているために家族に甘やかされている山宮は、「このまま家にいたら盛大に祝われるから助けろ」と言う。
「助けろって言ったくせに」
朔也は玄関へやってきた山宮を見て笑ってしまった。手に明らかにケーキが入った白い箱を持っていたからだ。
「誕生日おめでと! でも、ケーキはお腹いっぱいって言ってなかった?」
すると山宮が「やっぱり一緒に食いたいなと思って」と頭を掻いた。
「なに買ったの。ピスタチオ?」
「当然。お前がなにがいいか分かんなかったんだけど、桜のケーキっていうのがあったから買ってきた」
「えっすごい、春! 共有アカウントのアイコンだね」
今日の山宮は春に合わせたのか、昨年のオリエンテーションでも見かけたピンクの襟つきシャツを羽織っていた。昨日白のパーカーだったこちらも今日は白シャツにグレーのカーディガンだ。
ケーキ代は出すねと言ってから冷蔵庫にしまい、昼食はリビングで親が用意してくれたちらし寿司を食べた。折原家では誕生日はちらし寿司と決まっている。家に来る友だちが誕生日なんだと言うと、二日連続になるけどと言って用意してくれた。
「うま。お前のお母さん、すごくね」
普段なら父親が座っている向かいの席に着いた山宮が箸を動かしながら言う。
「ちらし寿司って、来日してから知ったんだろ?」
「そうだと思う。でも、結構和食も好きで、そこまで洋食とか母親の国の料理とか食べてるわけじゃないよ」
すると山宮は改まったようにこちらをじろじろと眺めた。
「和食でそんなにでかくなる? 一八六センチって、お母さんの国に帰ったら平均身長くらいなのか?」
「向こうでも背は高いほう。日本人で言うところの百八十センチくらいのイメージじゃない? 大きいけどまあいるよね、くらい。母方の家族が高身長だから、多分それ」
「でも、姉ちゃんはそんなに大きくないんじゃね。俺より小さかったと思ったけど」
「姉ちゃんは今井よりちっちゃいよ。なんで私は背が高くならないんだろうとか不思議がってたけど、おれが服に困ってるのを見てこれくらいでいいわって言ってた」
朔也が笑うと、山宮もつられたように笑った。山宮の箸が錦糸卵を掴む。
「逆に山宮のお姉さん、背が高くない? 葵さん、平均身長を超えてるでしょ。文化祭のときに背が高いなって思った」
山宮の姉二人は親と同じく医者で、十歳以上年が離れている。下の姉は朔也たちの学校が母校だということもあり、昨年の文化祭にわざわざ来てくれたのだ。山宮が不満げに口をとがらす。
「葵ちゃん、一六三あるんだよ。茜ちゃんも一六〇超えてる。おかしくね? 親は二人とも背は高くないのに。姉貴の身長をやっと追い抜いたと思ったら俺が止まったわ」
「身体測定に期待するしかないな」
「期待できねえわ。お前はあんまり伸びんなよ」
「立ってるときにお互い顔が遠くて声が聞き取りづらくなるもんね」
背が高い人あるあるだが、背丈が離れている人と喋ると声が届かないし聞こえない。山宮と立って喋っているときにお互いの声が聞こえないことはよくあって、「え、なに?」と聞き返すというやり取りはこれまで何回もやっている。朔也は女子と話すときによくあるので慣れているが、山宮は最初戸惑っていた。隣に立つ山宮が視界から消えることもよくあって、たまに側にいるのに探してしまう。
翌日山宮は朔也の家へやって来た。姉はもう大学が始まっているため、今回は出迎えはなしだ。今日は山宮の家には親がいるらしく、一人年が離れているために家族に甘やかされている山宮は、「このまま家にいたら盛大に祝われるから助けろ」と言う。
「助けろって言ったくせに」
朔也は玄関へやってきた山宮を見て笑ってしまった。手に明らかにケーキが入った白い箱を持っていたからだ。
「誕生日おめでと! でも、ケーキはお腹いっぱいって言ってなかった?」
すると山宮が「やっぱり一緒に食いたいなと思って」と頭を掻いた。
「なに買ったの。ピスタチオ?」
「当然。お前がなにがいいか分かんなかったんだけど、桜のケーキっていうのがあったから買ってきた」
「えっすごい、春! 共有アカウントのアイコンだね」
今日の山宮は春に合わせたのか、昨年のオリエンテーションでも見かけたピンクの襟つきシャツを羽織っていた。昨日白のパーカーだったこちらも今日は白シャツにグレーのカーディガンだ。
ケーキ代は出すねと言ってから冷蔵庫にしまい、昼食はリビングで親が用意してくれたちらし寿司を食べた。折原家では誕生日はちらし寿司と決まっている。家に来る友だちが誕生日なんだと言うと、二日連続になるけどと言って用意してくれた。
「うま。お前のお母さん、すごくね」
普段なら父親が座っている向かいの席に着いた山宮が箸を動かしながら言う。
「ちらし寿司って、来日してから知ったんだろ?」
「そうだと思う。でも、結構和食も好きで、そこまで洋食とか母親の国の料理とか食べてるわけじゃないよ」
すると山宮は改まったようにこちらをじろじろと眺めた。
「和食でそんなにでかくなる? 一八六センチって、お母さんの国に帰ったら平均身長くらいなのか?」
「向こうでも背は高いほう。日本人で言うところの百八十センチくらいのイメージじゃない? 大きいけどまあいるよね、くらい。母方の家族が高身長だから、多分それ」
「でも、姉ちゃんはそんなに大きくないんじゃね。俺より小さかったと思ったけど」
「姉ちゃんは今井よりちっちゃいよ。なんで私は背が高くならないんだろうとか不思議がってたけど、おれが服に困ってるのを見てこれくらいでいいわって言ってた」
朔也が笑うと、山宮もつられたように笑った。山宮の箸が錦糸卵を掴む。
「逆に山宮のお姉さん、背が高くない? 葵さん、平均身長を超えてるでしょ。文化祭のときに背が高いなって思った」
山宮の姉二人は親と同じく医者で、十歳以上年が離れている。下の姉は朔也たちの学校が母校だということもあり、昨年の文化祭にわざわざ来てくれたのだ。山宮が不満げに口をとがらす。
「葵ちゃん、一六三あるんだよ。茜ちゃんも一六〇超えてる。おかしくね? 親は二人とも背は高くないのに。姉貴の身長をやっと追い抜いたと思ったら俺が止まったわ」
「身体測定に期待するしかないな」
「期待できねえわ。お前はあんまり伸びんなよ」
「立ってるときにお互い顔が遠くて声が聞き取りづらくなるもんね」
背が高い人あるあるだが、背丈が離れている人と喋ると声が届かないし聞こえない。山宮と立って喋っているときにお互いの声が聞こえないことはよくあって、「え、なに?」と聞き返すというやり取りはこれまで何回もやっている。朔也は女子と話すときによくあるので慣れているが、山宮は最初戸惑っていた。隣に立つ山宮が視界から消えることもよくあって、たまに側にいるのに探してしまう。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。


【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

婚約破棄された王子は地の果てに眠る
白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。
そして彼を取り巻く人々の想いのお話。
■□■
R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。
■□■
※タイトルの通り死にネタです。
※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。
※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移要素はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる