どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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5巻【一】

2修学旅行

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「そうだけどさ、同い年がたった一日ってどういうこと? すごく置いてかれてる気がする」
「あやうく年の差が出るところだったんだぜ。これでよかったんじゃね」
「まあ、お互い一日ズレて高三と高一だったらもう学校で会えない運命だったわけだけど」
「卒業式で俺が書道パフォーマンスを上から見てたかもな。でけえゴールデンレトリーバーがいるな、とかって思ってよ」
「それに比べればマシだけど……いや、マシだな。じゃなきゃ修学旅行でも楽しいこともなかったわけだし」

 朔也が顔をあげると、山宮が思い出したように笑顔になって、アップルジュースを飲んだ。

 三月の終業式、文理系一位で成績をもらった朔也は、翌日に二年生全員で修学旅行先である沖縄へ飛んだ。朔也は母親の国に帰るときは国際線に乗るし、書道のパフォーマンス甲子園に行くときも飛行機に乗る。一方の山宮は飛行機が初めてだと言い、窓際の席で興味深げに外を眺めていた。

 三月の沖縄は長袖で過ごすのがちょうどいいくらいだった。だが、紫外線対策はしたほうがいいという学校側の推奨で、体育祭ぶりに二人で買った日焼け止めの出番が来る。朝部屋で取り出して塗るとき、買った日の相手の服の色で決めた日焼け止めをちらちらと見てしまったことにはお互い気づいていた。

 観光スポットや世界遺産を巡り、平和学習として平和祈念公園やひめゆりの塔などを訪れる。広い道路の分離帯に植わるヤシの木も、エメラルドグリーンの混ざる青い海も、御嶽などの特別な読み方をする語句や地名も、百年以上前には一つの王国であったと実感できるだけの異国情緒が溢れている。オリエンテーションのときとはまた違った高揚感があり、部屋はあのときと同じメンバーだったが皆のテンションは高かった。

 中一日、クラス別ではなくコース別行動の日があり、朔也と山宮は事前に決めていたとおり世界遺産を中心に沖縄文化に触れるコースを選んだ。すると山宮と仲の良い副委員長の水野が「協力してくれ」と手を合わせてきて、水野、水野の彼女で朔也の幼馴染みである今井はるか、山宮、朔也の四人でなんとなくのグループとなってそれらを回った。

 水野と今井は付き合っていることを大っぴらにしていない。そのカモフラージュだったわけだが、山宮との関係がバレてる今井には、「朔ちゃんにも山宮君にも利点はあるよね」などと笑顔で脅されてしまった。だが、一年生のときにクラスメイトだったメンバーだ。四人での行動は思った以上に楽しい。山宮との共有アカウントにあげるたくさんの笑顔の写真を撮ることができたので、今井の言ったことは正しかったのだろう。

「明日は全クラスが水族館だね。すっごく楽しみ!」

 宿泊施設に向かう帰りのバスで今井がそう言い、狭い座席に足を縮めた朔也は「だな」と頷いた。バスでの並び順は窓際から朔也、今井、通路を挟んで水野、山宮だ。できれば足を伸ばしたいので通路側がよかったのだが、今井たちの間に割り込むのはと思って遠慮した。今井の格好はお洒落で、片方に三つ編みを下ろし、ふんわりとした白いシャツに明るいレモン色のスカートを穿いていた。

「クラスで行ったことがある子が一人いたんだけど、びっくりして思わず声が出ちゃうくらい想像よりサメが大きいんだって」
「マンタも大きいってさ。水槽自体がすげえ大きいらしい。その水槽の隣に喫茶店があって、水槽を見ながらジュースとかが飲めるって聞いたけど、生徒は無理かも」

 水野の言葉に山宮が「ふうん」と相槌を打つ。オリエンテーションのときと同じライムグリーンのシャツを羽織ったマスクの横顔が、スマホをぽちぽちと打った。

「カピバラがいるらしいわ。なんで水族館にカピバラ?」
「えっかわいいじゃない! 山宮君、そこは深く考えず愛でようよ」
「おれ、イルカショーを見たい。水族館って言ったらイルカだろ」
「折原、安直だわ。沖縄でしか見られねえ魚がたくさんいるんだぜ。注目すべきはそっちじゃね」
「朔って案外そういうベタなのが好きそうだよな。モデルコースとかを選ぶタイプ」

 水野のベタ発言に山宮が窓のほうへ顔を向け、必死に笑いを堪えているのが分かった。山宮はよくベタが大好き折原君と朔也を呼んで、朔也がやりたいことを揶揄う。だが、そうやって積み上げてきた行動で今の自分たちがあるのだから、なにも責められることはない。
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