124 / 145
5巻【一】
2修学旅行
しおりを挟む
「そうだけどさ、同い年がたった一日ってどういうこと? すごく置いてかれてる気がする」
「あやうく年の差が出るところだったんだぜ。これでよかったんじゃね」
「まあ、お互い一日ズレて高三と高一だったらもう学校で会えない運命だったわけだけど」
「卒業式で俺が書道パフォーマンスを上から見てたかもな。でけえゴールデンレトリーバーがいるな、とかって思ってよ」
「それに比べればマシだけど……いや、マシだな。じゃなきゃ修学旅行でも楽しいこともなかったわけだし」
朔也が顔をあげると、山宮が思い出したように笑顔になって、アップルジュースを飲んだ。
三月の終業式、文理系一位で成績をもらった朔也は、翌日に二年生全員で修学旅行先である沖縄へ飛んだ。朔也は母親の国に帰るときは国際線に乗るし、書道のパフォーマンス甲子園に行くときも飛行機に乗る。一方の山宮は飛行機が初めてだと言い、窓際の席で興味深げに外を眺めていた。
三月の沖縄は長袖で過ごすのがちょうどいいくらいだった。だが、紫外線対策はしたほうがいいという学校側の推奨で、体育祭ぶりに二人で買った日焼け止めの出番が来る。朝部屋で取り出して塗るとき、買った日の相手の服の色で決めた日焼け止めをちらちらと見てしまったことにはお互い気づいていた。
観光スポットや世界遺産を巡り、平和学習として平和祈念公園やひめゆりの塔などを訪れる。広い道路の分離帯に植わるヤシの木も、エメラルドグリーンの混ざる青い海も、御嶽などの特別な読み方をする語句や地名も、百年以上前には一つの王国であったと実感できるだけの異国情緒が溢れている。オリエンテーションのときとはまた違った高揚感があり、部屋はあのときと同じメンバーだったが皆のテンションは高かった。
中一日、クラス別ではなくコース別行動の日があり、朔也と山宮は事前に決めていたとおり世界遺産を中心に沖縄文化に触れるコースを選んだ。すると山宮と仲の良い副委員長の水野が「協力してくれ」と手を合わせてきて、水野、水野の彼女で朔也の幼馴染みである今井はるか、山宮、朔也の四人でなんとなくのグループとなってそれらを回った。
水野と今井は付き合っていることを大っぴらにしていない。そのカモフラージュだったわけだが、山宮との関係がバレてる今井には、「朔ちゃんにも山宮君にも利点はあるよね」などと笑顔で脅されてしまった。だが、一年生のときにクラスメイトだったメンバーだ。四人での行動は思った以上に楽しい。山宮との共有アカウントにあげるたくさんの笑顔の写真を撮ることができたので、今井の言ったことは正しかったのだろう。
「明日は全クラスが水族館だね。すっごく楽しみ!」
宿泊施設に向かう帰りのバスで今井がそう言い、狭い座席に足を縮めた朔也は「だな」と頷いた。バスでの並び順は窓際から朔也、今井、通路を挟んで水野、山宮だ。できれば足を伸ばしたいので通路側がよかったのだが、今井たちの間に割り込むのはと思って遠慮した。今井の格好はお洒落で、片方に三つ編みを下ろし、ふんわりとした白いシャツに明るいレモン色のスカートを穿いていた。
「クラスで行ったことがある子が一人いたんだけど、びっくりして思わず声が出ちゃうくらい想像よりサメが大きいんだって」
「マンタも大きいってさ。水槽自体がすげえ大きいらしい。その水槽の隣に喫茶店があって、水槽を見ながらジュースとかが飲めるって聞いたけど、生徒は無理かも」
水野の言葉に山宮が「ふうん」と相槌を打つ。オリエンテーションのときと同じライムグリーンのシャツを羽織ったマスクの横顔が、スマホをぽちぽちと打った。
「カピバラがいるらしいわ。なんで水族館にカピバラ?」
「えっかわいいじゃない! 山宮君、そこは深く考えず愛でようよ」
「おれ、イルカショーを見たい。水族館って言ったらイルカだろ」
「折原、安直だわ。沖縄でしか見られねえ魚がたくさんいるんだぜ。注目すべきはそっちじゃね」
「朔って案外そういうベタなのが好きそうだよな。モデルコースとかを選ぶタイプ」
水野のベタ発言に山宮が窓のほうへ顔を向け、必死に笑いを堪えているのが分かった。山宮はよくベタが大好き折原君と朔也を呼んで、朔也がやりたいことを揶揄う。だが、そうやって積み上げてきた行動で今の自分たちがあるのだから、なにも責められることはない。
「あやうく年の差が出るところだったんだぜ。これでよかったんじゃね」
「まあ、お互い一日ズレて高三と高一だったらもう学校で会えない運命だったわけだけど」
「卒業式で俺が書道パフォーマンスを上から見てたかもな。でけえゴールデンレトリーバーがいるな、とかって思ってよ」
「それに比べればマシだけど……いや、マシだな。じゃなきゃ修学旅行でも楽しいこともなかったわけだし」
朔也が顔をあげると、山宮が思い出したように笑顔になって、アップルジュースを飲んだ。
三月の終業式、文理系一位で成績をもらった朔也は、翌日に二年生全員で修学旅行先である沖縄へ飛んだ。朔也は母親の国に帰るときは国際線に乗るし、書道のパフォーマンス甲子園に行くときも飛行機に乗る。一方の山宮は飛行機が初めてだと言い、窓際の席で興味深げに外を眺めていた。
三月の沖縄は長袖で過ごすのがちょうどいいくらいだった。だが、紫外線対策はしたほうがいいという学校側の推奨で、体育祭ぶりに二人で買った日焼け止めの出番が来る。朝部屋で取り出して塗るとき、買った日の相手の服の色で決めた日焼け止めをちらちらと見てしまったことにはお互い気づいていた。
観光スポットや世界遺産を巡り、平和学習として平和祈念公園やひめゆりの塔などを訪れる。広い道路の分離帯に植わるヤシの木も、エメラルドグリーンの混ざる青い海も、御嶽などの特別な読み方をする語句や地名も、百年以上前には一つの王国であったと実感できるだけの異国情緒が溢れている。オリエンテーションのときとはまた違った高揚感があり、部屋はあのときと同じメンバーだったが皆のテンションは高かった。
中一日、クラス別ではなくコース別行動の日があり、朔也と山宮は事前に決めていたとおり世界遺産を中心に沖縄文化に触れるコースを選んだ。すると山宮と仲の良い副委員長の水野が「協力してくれ」と手を合わせてきて、水野、水野の彼女で朔也の幼馴染みである今井はるか、山宮、朔也の四人でなんとなくのグループとなってそれらを回った。
水野と今井は付き合っていることを大っぴらにしていない。そのカモフラージュだったわけだが、山宮との関係がバレてる今井には、「朔ちゃんにも山宮君にも利点はあるよね」などと笑顔で脅されてしまった。だが、一年生のときにクラスメイトだったメンバーだ。四人での行動は思った以上に楽しい。山宮との共有アカウントにあげるたくさんの笑顔の写真を撮ることができたので、今井の言ったことは正しかったのだろう。
「明日は全クラスが水族館だね。すっごく楽しみ!」
宿泊施設に向かう帰りのバスで今井がそう言い、狭い座席に足を縮めた朔也は「だな」と頷いた。バスでの並び順は窓際から朔也、今井、通路を挟んで水野、山宮だ。できれば足を伸ばしたいので通路側がよかったのだが、今井たちの間に割り込むのはと思って遠慮した。今井の格好はお洒落で、片方に三つ編みを下ろし、ふんわりとした白いシャツに明るいレモン色のスカートを穿いていた。
「クラスで行ったことがある子が一人いたんだけど、びっくりして思わず声が出ちゃうくらい想像よりサメが大きいんだって」
「マンタも大きいってさ。水槽自体がすげえ大きいらしい。その水槽の隣に喫茶店があって、水槽を見ながらジュースとかが飲めるって聞いたけど、生徒は無理かも」
水野の言葉に山宮が「ふうん」と相槌を打つ。オリエンテーションのときと同じライムグリーンのシャツを羽織ったマスクの横顔が、スマホをぽちぽちと打った。
「カピバラがいるらしいわ。なんで水族館にカピバラ?」
「えっかわいいじゃない! 山宮君、そこは深く考えず愛でようよ」
「おれ、イルカショーを見たい。水族館って言ったらイルカだろ」
「折原、安直だわ。沖縄でしか見られねえ魚がたくさんいるんだぜ。注目すべきはそっちじゃね」
「朔って案外そういうベタなのが好きそうだよな。モデルコースとかを選ぶタイプ」
水野のベタ発言に山宮が窓のほうへ顔を向け、必死に笑いを堪えているのが分かった。山宮はよくベタが大好き折原君と朔也を呼んで、朔也がやりたいことを揶揄う。だが、そうやって積み上げてきた行動で今の自分たちがあるのだから、なにも責められることはない。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。


婚約破棄された王子は地の果てに眠る
白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。
そして彼を取り巻く人々の想いのお話。
■□■
R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。
■□■
※タイトルの通り死にネタです。
※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。
※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる