どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

文字の大きさ
上 下
123 / 145
5巻【一】

1誕生日

しおりを挟む
【一】

「ハッピバースデートゥーユー」

 ブルーのチェックの上に白のカットソーを重ね着をした山宮基一もといの声がカラオケの狭い部屋に響く。

「ハッピバースデートゥーユー。ハッピバースデートゥーディア折原ー」

 折原朔也さくやはそのきれいな歌声にため息をついた。がたつく黒いテーブルに黒いビニールのL字型のソファ。画面に向き合うところに朔也が座り、斜めになる方向に山宮が座る。ビニールの安っぽいソファの黒さが、山宮と会ったときに相変わらずの白のパーカーに黒のデニム姿の自分に落ち込んだことを思い出させる。

「ハッピバースデートゥーユー」

 歌い終わってマイクを置いた山宮にぱちぱちと拍手をした。

 春休みの四月一日。学校は閉鎖期間に入っており、二人とも部活のない時期だった。朔也の誕生日は早生まれの四月一日、学年で一番誕生日が遅い。一方の山宮は四月二日生まれで学年で一番誕生日が早い。二人の誕生日祝いを兼ねて、今日は午前中からデートに出かけた。

 食べ歩きができる商店街でコロッケを始めとしたもので腹を満たし、四月から使える文具用品をリンクコーデで合わせるために大きな文房具屋へ足を伸ばした。五百円以内で買えるシャーペンやボールペン、替え芯、下敷きにポストイットまで揃える。テープで留められたビニール袋をがさごそと言わせて、これで受験勉強を頑張ろうと約束した。それだけでやる気が出てしまうのだから、お互いに「おれたちって単純」なんて笑い合った。

 そのあとは約束をしていたカラオケに来たのだが、山宮に歌で誕生日を祝われるとなんだか複雑な気分になった。ため息をついてオレンジジュースを口にする。

「明日十八歳になる人に、十七歳のお祝いをされてもな」
「お前、祝われるやつの態度じゃねえな。もっと誕生日を味わえよ。お前を生んでくれた親に感謝する日だぞ」

 ソファに座ってマイクを置いた山宮が呆れた声を出す。今日の山宮はボタンのない白いカットソーの下に少し裾の長い下のシャツを覗かせ、黒のチノパンという格好だった。自分とは違うストレートの黒髪で色がまとまっているのもあって、差し色のあるモノトーンのスタイルは清潔感がある。ちょっとカットソーが大きめのせいか、身長一六五センチを主張する彼は今日は一層小柄に見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

婚約破棄された王子は地の果てに眠る

白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。 そして彼を取り巻く人々の想いのお話。 ■□■ R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。 ■□■ ※タイトルの通り死にネタです。 ※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

処理中です...