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4巻【四】
3 スイッチ、今入った
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結局三十分以上かけて決め、注文のボタンをタップした。大きなため息とともに疲れがどっと押し寄せる。
「やーまーみーやー」
ベッドのところへ行くと、その前に膝をついてぼすっと顔だけベッドに突っ伏した。
「おれ、頑張ったと思う……」
「おう、当日を楽しみにしてるわ」
その言葉にプレッシャーがずしんと乗っかってきたが、もう注文してしまったのだ。もうどうとでもなれと吹っ切るしかない。
「山宮で使った体力気力は山宮からもらう。くっついてやる」
朔也はベッドに乗っかり、寝そべっている山宮に跨がって膝をつくとそのまま抱きついた。背中に手を回してぐりぐりと額を胸に押しつけると、山宮がははっと噴き出してこちらの頭をぐしゃぐしゃと触ってくる。やめろと押しのけられるかと思っていたので、その手つきの優しさに頬が緩んだ。
「こういうのいるわ。主人にじゃれつく大型犬。ゴールデンレトリーバー折原」
「シベリアンハスキーの山宮もじゃれてよ。種族を超えた物語とかテレビであるじゃん」
「そういや、俺、もう赤点スレスレチビマスクハスキーじゃねえわ」
「確かに。チビマスクハスキーなだけだな」
「チビ言うな。お前に比べりゃ、誰でもチビじゃね」
「そうだね、一六五センチさん」
「一八六センチは黙ってろ」
温かい温度を感じていたらだんだんと心がぽかぽかしてきた。このあとは二人で映画を見てだらだらする予定だったのだが、先にだらだらしたい。
朔也は山宮の読んでいた本を閉じ、枕の横に押しやりながら丁寧なキスをした。青いカバーの枕に頭を載せた山宮の前髪を掻き上げて、顔の横に肘をついてもう一度口を重ねる。すると山宮はこちらを見上げ、なにかに気づいたような顔をした。
「今日のお前の目、ちょっと緑が強め」
「光の問題だと思うよ。多分、窓から離れると違う色に見えると思う」
「調べたけど、ヘーゼルって日本人に多い茶色より光が眩しく見えるんだろ?」
「小さい頃写真で目を瞑ってるのが多くて自分が下手なのかと思ってたけど、おれが眩しいときでも皆はそこまででもないんだなって気づいた。体育祭の練習、ポールの上を見るのがきつかった」
「あれは俺でも眩しかったわ」
さえずる口をちゅっちゅっとついばむと、お互いに照れて口元が笑ってしまう。
半年前のオリエンテーションのとき、連続でキスをすると山宮は「レジデンスの霹靂」と言っていたし、朔也は二人きりの部屋で手を繋ぐだけで汗を掻いた。重ねていった日々が二人の距離感を取り払って、光に浮かぶ二人きりの部屋で笑ってキスができるまでになっている。全く違うタイプなのに、二年生になってからも大きな喧嘩はしていない。
「なんか、おれたち、仲良いな」
思わず気持ちが口に出た。山宮が横を向いて噴き出す。
「そうじゃねえと困る! ……だけど、一年前の俺だったら信じられねえと思うわ」
「おれも。自分の素を出せる誰かができるなんて想像もできなかったよ」
目が合うと、山宮がふっと真剣な顔つきになってベッドに肘をついた。少しだけ起き上がって、こちらに口づけてくる。
山宮からしてくれた。一ヶ月ぶりの行為に顔が熱くなる。山宮のキスは優しい。ほんの掠めるようなキスで、くちびるのふわふわした感触が伝わってくる。もう空気が乾燥する季節だ。キスのためにはリップクリームを買うのもいいのかもしれない。
「山宮」
朔也はジーンズのポケットに忍ばせておいたタブレットを振って、一粒舌先に載せた。
「受け取って」
くちびるを舐めながらミントのタブレットを山宮の口に押し込む。朔也自身も一粒と口に放ったが、山宮は「タブレットをそこから出してくるところが折原なんだよな」と呆れたようにミントをがりりと噛んだ。
「前々回に必要性を知り、前回は学校の鞄にあって、今回入ってたのはポケット。お前の用意周到さ、怖くね」
「さっと取り出せるようにしておくのがエチケットですよ、山宮先輩」
「折原君の学習意欲に俺は降参だわ」
「じゃ、キスしていいですよね?」
山宮が目を瞑ったところへ軽く二度キスをして、下くちびるを食んだ。前回感じたときと同じく、ミントの爽やかな香りと弾力のあるぬるいくちびるの感触が相反していて不思議な感じがする。
下くちびるを何度もついばむと、ちゅっちゅっと小さな音がする。そればかりしていたら「くすぐってえ」と恥ずかしそうに山宮が動いた。だが、朔也の腕と膝の間に挟まれた空間でもどかしそうに身をよじらせただけだ。
「お前、これ、なに」
「山宮のくちびるのやわらかさを味わってるの。マシュマロを食べたくなる」
「……タブレットを渡すのにあんなエロい舌の使い方しておいて……」
山宮からのエロいの言葉に一瞬くちびるを離して動きを止めた。そんなこちらの様子に気づかず、耳を赤くさせた山宮が目を逸らして口をごしごしと拭う。
「お前のスイッチがよく分かんねえ……」
次の瞬間、思わず山宮の両頬を包んでいた。驚きに眉をあげた山宮とぴたりと目が合う。
「スイッチ、今入った」
(以下R18表現を含むため後略。アルファポリスでは巻ごとに年齢制限がかけられないため、全年齢部分のみ記載しています。pixivとエブリスタではR18部分も公開しています。関連リンク先から飛んでください)
「やーまーみーやー」
ベッドのところへ行くと、その前に膝をついてぼすっと顔だけベッドに突っ伏した。
「おれ、頑張ったと思う……」
「おう、当日を楽しみにしてるわ」
その言葉にプレッシャーがずしんと乗っかってきたが、もう注文してしまったのだ。もうどうとでもなれと吹っ切るしかない。
「山宮で使った体力気力は山宮からもらう。くっついてやる」
朔也はベッドに乗っかり、寝そべっている山宮に跨がって膝をつくとそのまま抱きついた。背中に手を回してぐりぐりと額を胸に押しつけると、山宮がははっと噴き出してこちらの頭をぐしゃぐしゃと触ってくる。やめろと押しのけられるかと思っていたので、その手つきの優しさに頬が緩んだ。
「こういうのいるわ。主人にじゃれつく大型犬。ゴールデンレトリーバー折原」
「シベリアンハスキーの山宮もじゃれてよ。種族を超えた物語とかテレビであるじゃん」
「そういや、俺、もう赤点スレスレチビマスクハスキーじゃねえわ」
「確かに。チビマスクハスキーなだけだな」
「チビ言うな。お前に比べりゃ、誰でもチビじゃね」
「そうだね、一六五センチさん」
「一八六センチは黙ってろ」
温かい温度を感じていたらだんだんと心がぽかぽかしてきた。このあとは二人で映画を見てだらだらする予定だったのだが、先にだらだらしたい。
朔也は山宮の読んでいた本を閉じ、枕の横に押しやりながら丁寧なキスをした。青いカバーの枕に頭を載せた山宮の前髪を掻き上げて、顔の横に肘をついてもう一度口を重ねる。すると山宮はこちらを見上げ、なにかに気づいたような顔をした。
「今日のお前の目、ちょっと緑が強め」
「光の問題だと思うよ。多分、窓から離れると違う色に見えると思う」
「調べたけど、ヘーゼルって日本人に多い茶色より光が眩しく見えるんだろ?」
「小さい頃写真で目を瞑ってるのが多くて自分が下手なのかと思ってたけど、おれが眩しいときでも皆はそこまででもないんだなって気づいた。体育祭の練習、ポールの上を見るのがきつかった」
「あれは俺でも眩しかったわ」
さえずる口をちゅっちゅっとついばむと、お互いに照れて口元が笑ってしまう。
半年前のオリエンテーションのとき、連続でキスをすると山宮は「レジデンスの霹靂」と言っていたし、朔也は二人きりの部屋で手を繋ぐだけで汗を掻いた。重ねていった日々が二人の距離感を取り払って、光に浮かぶ二人きりの部屋で笑ってキスができるまでになっている。全く違うタイプなのに、二年生になってからも大きな喧嘩はしていない。
「なんか、おれたち、仲良いな」
思わず気持ちが口に出た。山宮が横を向いて噴き出す。
「そうじゃねえと困る! ……だけど、一年前の俺だったら信じられねえと思うわ」
「おれも。自分の素を出せる誰かができるなんて想像もできなかったよ」
目が合うと、山宮がふっと真剣な顔つきになってベッドに肘をついた。少しだけ起き上がって、こちらに口づけてくる。
山宮からしてくれた。一ヶ月ぶりの行為に顔が熱くなる。山宮のキスは優しい。ほんの掠めるようなキスで、くちびるのふわふわした感触が伝わってくる。もう空気が乾燥する季節だ。キスのためにはリップクリームを買うのもいいのかもしれない。
「山宮」
朔也はジーンズのポケットに忍ばせておいたタブレットを振って、一粒舌先に載せた。
「受け取って」
くちびるを舐めながらミントのタブレットを山宮の口に押し込む。朔也自身も一粒と口に放ったが、山宮は「タブレットをそこから出してくるところが折原なんだよな」と呆れたようにミントをがりりと噛んだ。
「前々回に必要性を知り、前回は学校の鞄にあって、今回入ってたのはポケット。お前の用意周到さ、怖くね」
「さっと取り出せるようにしておくのがエチケットですよ、山宮先輩」
「折原君の学習意欲に俺は降参だわ」
「じゃ、キスしていいですよね?」
山宮が目を瞑ったところへ軽く二度キスをして、下くちびるを食んだ。前回感じたときと同じく、ミントの爽やかな香りと弾力のあるぬるいくちびるの感触が相反していて不思議な感じがする。
下くちびるを何度もついばむと、ちゅっちゅっと小さな音がする。そればかりしていたら「くすぐってえ」と恥ずかしそうに山宮が動いた。だが、朔也の腕と膝の間に挟まれた空間でもどかしそうに身をよじらせただけだ。
「お前、これ、なに」
「山宮のくちびるのやわらかさを味わってるの。マシュマロを食べたくなる」
「……タブレットを渡すのにあんなエロい舌の使い方しておいて……」
山宮からのエロいの言葉に一瞬くちびるを離して動きを止めた。そんなこちらの様子に気づかず、耳を赤くさせた山宮が目を逸らして口をごしごしと拭う。
「お前のスイッチがよく分かんねえ……」
次の瞬間、思わず山宮の両頬を包んでいた。驚きに眉をあげた山宮とぴたりと目が合う。
「スイッチ、今入った」
(以下R18表現を含むため後略。アルファポリスでは巻ごとに年齢制限がかけられないため、全年齢部分のみ記載しています。pixivとエブリスタではR18部分も公開しています。関連リンク先から飛んでください)
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