どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

文字の大きさ
上 下
118 / 145
4巻【四】

2 折原君、ファイトー

しおりを挟む
 体育祭が終わって役目を終えた日焼け止めは机の上にある。だが、お揃いで買ったボディシートはとっくになくなってしまったし、制汗スプレーの出番も夏ほどではない。なにかお揃いのものを。桜のアカウントに載せられたそれらの画像を見て、朔也は検索した。

「お前、リンクコーデなんて言葉、よく知ってるな。色違いでってことだろ?」
「クリスマスプレゼントのお勧めを調べたら、彼氏彼女とリンクコーデを持ってみては、なんてサイトを見つけちゃったんですよ」

 恥ずい。そう言って嫌がるかなと思ったが、山宮は目をきらきらさせて朔也のスマホをスクロールした。爪のきれいに切られた細い人差し指が、スッスッと動く。

「おもしれえ。この商品だと二色選んで組み合わせるのか。斬新」
「そう! 三色組み合わせるのもあったよ」
「商品によって値段もバラバラだな。お小遣いで買える範囲」

 朔也のスマホを見ながら話し合った結果、二色で作るパスケースに決めた。ベースを一色選び、ICカードが見える透明な面がはまった枠の色を選ぶ。無難に白と黒でも大人っぽくてシックな雰囲気になりそうだ。

「いいこと思いついたわ」

 スマホをスクロールする山宮が明るい声になる。

「お互いの色を内緒にして注文しねえ? 当日になるまで何色と何色にしたかは内緒。相手にいいと思った色を選ぶ」

 お洒落な服を着た山宮の言葉に、うっと言葉に詰まる。朔也は色に関してはさっぱりだ。文化祭のカラーポップな作品では、どうしていい組み合わせの色が分かるのか、全く理解できなかった。色のセンスがある中村に聞くと、「感覚だよ」なんて言われてしまい、頭を掻くしかなかった。

「おれが山宮の色を選ぶの? 重要な任務なのに、自信ない」
「そうか? 白と黒がいいと思ったらそれでよくね」

 山宮の一言で最初の選択肢を失った。これは白と黒では駄目だ。プレゼントを開けたときに、おっと思わせる色にしたい。

 お互いにスマホでサイトを開き、あれこれと色の組み合わせを考える。山宮はあっさりしたもので、ものの五分もしないうちに「決めたわ」とスマホをタップした。黒と白から抜け出せない朔也の焦りが募る。

 山宮と言えば、黒髪、白いマスク。でも、私服はもっといろんな色を取り入れている。お姉さんたちが選んだのも多いだろうけど、それに負けない色にしたい。

「……ちなみに、山宮は好きな色ってあるの?」

 おずおずと尋ねると、山宮は「ふうん?」とにやっとして、湯呑みに茶を注いだ。それをこくんと一口飲む。

「それ、聞いちゃ駄目じゃね? まだ十六歳の折原君は色には自信がないのかな?」

 図星を指されてぐっと言葉に詰まる。

「もっと気軽に選べよ。相手にいいと思ったものでいいんだって。お前の場合、制服の白と黒がいいとか考えてんじゃねえの。書道の色でもあるし、とか」

 山宮の言葉がぐさぐさと刺さって、朔也は足を抱えてそこへ頭をうずめた。

「おれ、絶対に白黒は選ばないから!」
「俺が構わねえって言ってるんだから、いいんじゃね」
「絶対にやだ! 三十分時間ちょうだい!」

 朔也は山宮からスマホの見えない壁際に移動し、組み合わせを考えるべくサイトの色を何度も見た。山宮は「頑張れよ」などと簡単に言って、ベッドで仰向けに寝そべって本を読み始める。採光のためか、密度の濃いレースカーテンが引かれていて、秋のやわらかな光が山宮の片頬に落ちている。くすんだ青で統一されたベッドの上でリラックスしている姿を見て、山宮は普段はこんなふうに部屋で過ごしているんだなと思う。

 朔也は山宮の服をじろじろと見た。今着てるセーターはオレンジの色が入ってるけど、普段はオレンジって感じはしない。山宮は明るい色というより落ち着いた色。性格的にもそのほうが合ってそう。

 そこで山宮が学校で紺色のセーターを着ていることを思い出した。朔也の学校では男子のシャツの上に羽織るものには何種類かあって、朔也のキャメル色のカーディガンもその一つだ。ということは、山宮にとってキャメル色よりは紺色のほうが好みだということだろう。ベッドのシーツなども青だ。青系が好きなのかもしれない。

 とりあえず、ベースを紺にしてみよう。白以外に何色と似合うだろうか。

 二十種類以上ある色が今は恨めしい。プレビュー画面の紺に赤という組み合わせが意外にもきれいなことに気づいておやと思ったが、ランドセルによくある色だと気づいて頭を振った。こちらがうんうん唸っているのを見たのか、山宮がくすっと笑って本のページを捲る。

「折原君、ファイトー」
「先輩、おれ頑張ってます!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

婚約破棄された王子は地の果てに眠る

白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。 そして彼を取り巻く人々の想いのお話。 ■□■ R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。 ■□■ ※タイトルの通り死にネタです。 ※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移要素はありません。

処理中です...