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4巻【四】
2 折原君、ファイトー
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体育祭が終わって役目を終えた日焼け止めは机の上にある。だが、お揃いで買ったボディシートはとっくになくなってしまったし、制汗スプレーの出番も夏ほどではない。なにかお揃いのものを。桜のアカウントに載せられたそれらの画像を見て、朔也は検索した。
「お前、リンクコーデなんて言葉、よく知ってるな。色違いでってことだろ?」
「クリスマスプレゼントのお勧めを調べたら、彼氏彼女とリンクコーデを持ってみては、なんてサイトを見つけちゃったんですよ」
恥ずい。そう言って嫌がるかなと思ったが、山宮は目をきらきらさせて朔也のスマホをスクロールした。爪のきれいに切られた細い人差し指が、スッスッと動く。
「おもしれえ。この商品だと二色選んで組み合わせるのか。斬新」
「そう! 三色組み合わせるのもあったよ」
「商品によって値段もバラバラだな。お小遣いで買える範囲」
朔也のスマホを見ながら話し合った結果、二色で作るパスケースに決めた。ベースを一色選び、ICカードが見える透明な面がはまった枠の色を選ぶ。無難に白と黒でも大人っぽくてシックな雰囲気になりそうだ。
「いいこと思いついたわ」
スマホをスクロールする山宮が明るい声になる。
「お互いの色を内緒にして注文しねえ? 当日になるまで何色と何色にしたかは内緒。相手にいいと思った色を選ぶ」
お洒落な服を着た山宮の言葉に、うっと言葉に詰まる。朔也は色に関してはさっぱりだ。文化祭のカラーポップな作品では、どうしていい組み合わせの色が分かるのか、全く理解できなかった。色のセンスがある中村に聞くと、「感覚だよ」なんて言われてしまい、頭を掻くしかなかった。
「おれが山宮の色を選ぶの? 重要な任務なのに、自信ない」
「そうか? 白と黒がいいと思ったらそれでよくね」
山宮の一言で最初の選択肢を失った。これは白と黒では駄目だ。プレゼントを開けたときに、おっと思わせる色にしたい。
お互いにスマホでサイトを開き、あれこれと色の組み合わせを考える。山宮はあっさりしたもので、ものの五分もしないうちに「決めたわ」とスマホをタップした。黒と白から抜け出せない朔也の焦りが募る。
山宮と言えば、黒髪、白いマスク。でも、私服はもっといろんな色を取り入れている。お姉さんたちが選んだのも多いだろうけど、それに負けない色にしたい。
「……ちなみに、山宮は好きな色ってあるの?」
おずおずと尋ねると、山宮は「ふうん?」とにやっとして、湯呑みに茶を注いだ。それをこくんと一口飲む。
「それ、聞いちゃ駄目じゃね? まだ十六歳の折原君は色には自信がないのかな?」
図星を指されてぐっと言葉に詰まる。
「もっと気軽に選べよ。相手にいいと思ったものでいいんだって。お前の場合、制服の白と黒がいいとか考えてんじゃねえの。書道の色でもあるし、とか」
山宮の言葉がぐさぐさと刺さって、朔也は足を抱えてそこへ頭をうずめた。
「おれ、絶対に白黒は選ばないから!」
「俺が構わねえって言ってるんだから、いいんじゃね」
「絶対にやだ! 三十分時間ちょうだい!」
朔也は山宮からスマホの見えない壁際に移動し、組み合わせを考えるべくサイトの色を何度も見た。山宮は「頑張れよ」などと簡単に言って、ベッドで仰向けに寝そべって本を読み始める。採光のためか、密度の濃いレースカーテンが引かれていて、秋のやわらかな光が山宮の片頬に落ちている。くすんだ青で統一されたベッドの上でリラックスしている姿を見て、山宮は普段はこんなふうに部屋で過ごしているんだなと思う。
朔也は山宮の服をじろじろと見た。今着てるセーターはオレンジの色が入ってるけど、普段はオレンジって感じはしない。山宮は明るい色というより落ち着いた色。性格的にもそのほうが合ってそう。
そこで山宮が学校で紺色のセーターを着ていることを思い出した。朔也の学校では男子のシャツの上に羽織るものには何種類かあって、朔也のキャメル色のカーディガンもその一つだ。ということは、山宮にとってキャメル色よりは紺色のほうが好みだということだろう。ベッドのシーツなども青だ。青系が好きなのかもしれない。
とりあえず、ベースを紺にしてみよう。白以外に何色と似合うだろうか。
二十種類以上ある色が今は恨めしい。プレビュー画面の紺に赤という組み合わせが意外にもきれいなことに気づいておやと思ったが、ランドセルによくある色だと気づいて頭を振った。こちらがうんうん唸っているのを見たのか、山宮がくすっと笑って本のページを捲る。
「折原君、ファイトー」
「先輩、おれ頑張ってます!」
「お前、リンクコーデなんて言葉、よく知ってるな。色違いでってことだろ?」
「クリスマスプレゼントのお勧めを調べたら、彼氏彼女とリンクコーデを持ってみては、なんてサイトを見つけちゃったんですよ」
恥ずい。そう言って嫌がるかなと思ったが、山宮は目をきらきらさせて朔也のスマホをスクロールした。爪のきれいに切られた細い人差し指が、スッスッと動く。
「おもしれえ。この商品だと二色選んで組み合わせるのか。斬新」
「そう! 三色組み合わせるのもあったよ」
「商品によって値段もバラバラだな。お小遣いで買える範囲」
朔也のスマホを見ながら話し合った結果、二色で作るパスケースに決めた。ベースを一色選び、ICカードが見える透明な面がはまった枠の色を選ぶ。無難に白と黒でも大人っぽくてシックな雰囲気になりそうだ。
「いいこと思いついたわ」
スマホをスクロールする山宮が明るい声になる。
「お互いの色を内緒にして注文しねえ? 当日になるまで何色と何色にしたかは内緒。相手にいいと思った色を選ぶ」
お洒落な服を着た山宮の言葉に、うっと言葉に詰まる。朔也は色に関してはさっぱりだ。文化祭のカラーポップな作品では、どうしていい組み合わせの色が分かるのか、全く理解できなかった。色のセンスがある中村に聞くと、「感覚だよ」なんて言われてしまい、頭を掻くしかなかった。
「おれが山宮の色を選ぶの? 重要な任務なのに、自信ない」
「そうか? 白と黒がいいと思ったらそれでよくね」
山宮の一言で最初の選択肢を失った。これは白と黒では駄目だ。プレゼントを開けたときに、おっと思わせる色にしたい。
お互いにスマホでサイトを開き、あれこれと色の組み合わせを考える。山宮はあっさりしたもので、ものの五分もしないうちに「決めたわ」とスマホをタップした。黒と白から抜け出せない朔也の焦りが募る。
山宮と言えば、黒髪、白いマスク。でも、私服はもっといろんな色を取り入れている。お姉さんたちが選んだのも多いだろうけど、それに負けない色にしたい。
「……ちなみに、山宮は好きな色ってあるの?」
おずおずと尋ねると、山宮は「ふうん?」とにやっとして、湯呑みに茶を注いだ。それをこくんと一口飲む。
「それ、聞いちゃ駄目じゃね? まだ十六歳の折原君は色には自信がないのかな?」
図星を指されてぐっと言葉に詰まる。
「もっと気軽に選べよ。相手にいいと思ったものでいいんだって。お前の場合、制服の白と黒がいいとか考えてんじゃねえの。書道の色でもあるし、とか」
山宮の言葉がぐさぐさと刺さって、朔也は足を抱えてそこへ頭をうずめた。
「おれ、絶対に白黒は選ばないから!」
「俺が構わねえって言ってるんだから、いいんじゃね」
「絶対にやだ! 三十分時間ちょうだい!」
朔也は山宮からスマホの見えない壁際に移動し、組み合わせを考えるべくサイトの色を何度も見た。山宮は「頑張れよ」などと簡単に言って、ベッドで仰向けに寝そべって本を読み始める。採光のためか、密度の濃いレースカーテンが引かれていて、秋のやわらかな光が山宮の片頬に落ちている。くすんだ青で統一されたベッドの上でリラックスしている姿を見て、山宮は普段はこんなふうに部屋で過ごしているんだなと思う。
朔也は山宮の服をじろじろと見た。今着てるセーターはオレンジの色が入ってるけど、普段はオレンジって感じはしない。山宮は明るい色というより落ち着いた色。性格的にもそのほうが合ってそう。
そこで山宮が学校で紺色のセーターを着ていることを思い出した。朔也の学校では男子のシャツの上に羽織るものには何種類かあって、朔也のキャメル色のカーディガンもその一つだ。ということは、山宮にとってキャメル色よりは紺色のほうが好みだということだろう。ベッドのシーツなども青だ。青系が好きなのかもしれない。
とりあえず、ベースを紺にしてみよう。白以外に何色と似合うだろうか。
二十種類以上ある色が今は恨めしい。プレビュー画面の紺に赤という組み合わせが意外にもきれいなことに気づいておやと思ったが、ランドセルによくある色だと気づいて頭を振った。こちらがうんうん唸っているのを見たのか、山宮がくすっと笑って本のページを捲る。
「折原君、ファイトー」
「先輩、おれ頑張ってます!」
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