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4巻【四】
1 クリスマスイブのデート計画
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【四】
山宮家の玄関前の庭は相変わらず花が多かった。近くに金木犀があるのか、その香りが秋の庭に彩りを添えている。ピンクのコスモス、ブルーのリンドウ、オレンジ白黄色といった華やかなダリア、ささやかに影を落とす紅葉、色とりどりのシクラメンの鉢植えが並んでいる。お母さんが花が好きなのかと聞くと、父親が好きなんだと返ってきた。
手土産のゼリーは冷蔵庫にしまい、代わりに地方の有名なまんじゅうが出てきた。折りたたみのテーブルを出してきて、親の学会出張で買ってきたからという名物をいただき、二人で書いているノートを広げる。
「ああ、チェックがつかなかった!」
朔也が文理系一位のところを指して出してきたローテーブルに突っ伏すると、向かいの山宮が忍び笑いをする。まんじゅうの包み紙をゴミ箱に捨てて温かい緑茶を飲んだ。
「俺もつかねえわ。英語も数学も平均点以下。でも、日本史は初めて平均点以上をとったぜ。やっぱり教科書を喋りながら読むと暗記できるみたいだわ」
「すごすぎる……山宮の点数の伸び具合がすごい。国語なんか八十一点だったじゃん」
「塾の先生の教え方がすげえんだよ。ひと夏で助動詞を覚えられたわ。でもよ、日本史の漢字の読み方が難しいんだわ。源頼朝ってなんでよりとも? ライチョウじゃね」
「おれは世界史の二世とか三世とかで頭がごちゃごちゃになって、間違えた。もう、なんで同じ名前をつけるんだ」
「じゃあなんで世界史選択にしたんだよ?」
「母親の国のことならなんとなく分かるし、書道も関係ある中国史を知りたいなって……甘かったな。おれが思ったより世界は広いし時間も長かった」
「俺は小学校でやったことが役に立つかなと思ったけど、よく考えたら小学校でも別に勉強は得意じゃなかったわ」
お互いにため息をつき、「でもやんなきゃね」と朔也は顔をあげた。改めてノートの「十二月考査で文理系一位をとる」と「英語と数学で平均点以上をとる」の項目を睨む。
「十二月考査まであと一ヶ月ちょっとだし、後悔してる暇はないよ」
「生き急ぎって言いてえけど、俺も生き急ぎ出したかもしんねえ疑惑」
「次こそお互いチェックつけよ」
今日の山宮は、制服と同じように襟つきのグリーンのシャツを着て、その上に白いニットを被っていた。Vネックと絞った手首のところだけオレンジの細いラインが入っていて、朔也には思いつかないお洒落な色の組み合わせだ。紺のパンツも清潔感がある。
一方の朔也と言えば、春のオリエンテーションのときと同じ、白のパーカーに黒のジーンズ。色つきの秋の服がないと気づいたのは前日で、ちょっとがっくりきたが山宮はなんとも思っていないようだった。そんなことよりも今日は大事な話し合いがあるのだ。
「さて、山宮先輩、本日の本題ですよ」
朔也が切り出すと、山宮が「恥っず」と言いながら湯呑みを置いた。
「クリスマスイブ計画な。手本みてえなイベントで恥ずかしいわ」
「今年は日曜日だなんてラッキー! 人は多そうだけど、外で会っても自然だし」
「クリスマスの月曜は部活だろ? 俺もクリスマスパーティーに行ってくるわ」
「あ、去年やってた校外のお手伝いか」
自分から山宮に話しかけたその日を思い出して笑うと、山宮もちらっと歯を見せた。
「山宮、イブにやる花火大会なんて、よく見つけたね?」
「電車で一時間半くらいかかるけど」
「山宮の家からなら二時間くらいかかっちゃうんじゃない。平気?」
「行きてえって言い出したのは俺だわ」
それじゃあと待ち合わせの駅や時間を調べ、情報を共有する。スケジュールアプリに花火大会と登録するとわくわくしてきた。カイロをいくつか持っていかないと。どこかコンビニで温かいお茶を買いたい。帰りは混みそうだから、電子マネーはチャージしておこう。
細々としたことを確認し、ノートにアンダーラインが引かれた花火大会の項目を見る。笑い合い、ノートをぱたんと閉じた。表紙の角がめくれて、小さな三角に折れている。四月は真新しいノートだったのに、いまやどの教科のノートよりも使い込んでいる一冊だ。朔也はそこでふふと笑ってスマホを取り出した。
「山宮先輩、おれ、クリスマスイブ計画に、プラスアルファーな提案をしたいんです」
訝しげにこちらを見上げた山宮に、朔也はスマホで保存してあったサイトを開いてそちらへ向けた。山宮がそれを見て目をぱちぱちさせる。
「プレゼント交換をしませんか。リンクコーデのものとか」
朔也が見せたのは文具や雑貨などの商品を、自分の選んだ色で注文できるサイトだった。選べる色は二十種類以上ある。赤や青のようなベースカラーもあるが、芥子色やモスグリーンなど、お洒落に見える色もラインナップに入っている。
山宮家の玄関前の庭は相変わらず花が多かった。近くに金木犀があるのか、その香りが秋の庭に彩りを添えている。ピンクのコスモス、ブルーのリンドウ、オレンジ白黄色といった華やかなダリア、ささやかに影を落とす紅葉、色とりどりのシクラメンの鉢植えが並んでいる。お母さんが花が好きなのかと聞くと、父親が好きなんだと返ってきた。
手土産のゼリーは冷蔵庫にしまい、代わりに地方の有名なまんじゅうが出てきた。折りたたみのテーブルを出してきて、親の学会出張で買ってきたからという名物をいただき、二人で書いているノートを広げる。
「ああ、チェックがつかなかった!」
朔也が文理系一位のところを指して出してきたローテーブルに突っ伏すると、向かいの山宮が忍び笑いをする。まんじゅうの包み紙をゴミ箱に捨てて温かい緑茶を飲んだ。
「俺もつかねえわ。英語も数学も平均点以下。でも、日本史は初めて平均点以上をとったぜ。やっぱり教科書を喋りながら読むと暗記できるみたいだわ」
「すごすぎる……山宮の点数の伸び具合がすごい。国語なんか八十一点だったじゃん」
「塾の先生の教え方がすげえんだよ。ひと夏で助動詞を覚えられたわ。でもよ、日本史の漢字の読み方が難しいんだわ。源頼朝ってなんでよりとも? ライチョウじゃね」
「おれは世界史の二世とか三世とかで頭がごちゃごちゃになって、間違えた。もう、なんで同じ名前をつけるんだ」
「じゃあなんで世界史選択にしたんだよ?」
「母親の国のことならなんとなく分かるし、書道も関係ある中国史を知りたいなって……甘かったな。おれが思ったより世界は広いし時間も長かった」
「俺は小学校でやったことが役に立つかなと思ったけど、よく考えたら小学校でも別に勉強は得意じゃなかったわ」
お互いにため息をつき、「でもやんなきゃね」と朔也は顔をあげた。改めてノートの「十二月考査で文理系一位をとる」と「英語と数学で平均点以上をとる」の項目を睨む。
「十二月考査まであと一ヶ月ちょっとだし、後悔してる暇はないよ」
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「次こそお互いチェックつけよ」
今日の山宮は、制服と同じように襟つきのグリーンのシャツを着て、その上に白いニットを被っていた。Vネックと絞った手首のところだけオレンジの細いラインが入っていて、朔也には思いつかないお洒落な色の組み合わせだ。紺のパンツも清潔感がある。
一方の朔也と言えば、春のオリエンテーションのときと同じ、白のパーカーに黒のジーンズ。色つきの秋の服がないと気づいたのは前日で、ちょっとがっくりきたが山宮はなんとも思っていないようだった。そんなことよりも今日は大事な話し合いがあるのだ。
「さて、山宮先輩、本日の本題ですよ」
朔也が切り出すと、山宮が「恥っず」と言いながら湯呑みを置いた。
「クリスマスイブ計画な。手本みてえなイベントで恥ずかしいわ」
「今年は日曜日だなんてラッキー! 人は多そうだけど、外で会っても自然だし」
「クリスマスの月曜は部活だろ? 俺もクリスマスパーティーに行ってくるわ」
「あ、去年やってた校外のお手伝いか」
自分から山宮に話しかけたその日を思い出して笑うと、山宮もちらっと歯を見せた。
「山宮、イブにやる花火大会なんて、よく見つけたね?」
「電車で一時間半くらいかかるけど」
「山宮の家からなら二時間くらいかかっちゃうんじゃない。平気?」
「行きてえって言い出したのは俺だわ」
それじゃあと待ち合わせの駅や時間を調べ、情報を共有する。スケジュールアプリに花火大会と登録するとわくわくしてきた。カイロをいくつか持っていかないと。どこかコンビニで温かいお茶を買いたい。帰りは混みそうだから、電子マネーはチャージしておこう。
細々としたことを確認し、ノートにアンダーラインが引かれた花火大会の項目を見る。笑い合い、ノートをぱたんと閉じた。表紙の角がめくれて、小さな三角に折れている。四月は真新しいノートだったのに、いまやどの教科のノートよりも使い込んでいる一冊だ。朔也はそこでふふと笑ってスマホを取り出した。
「山宮先輩、おれ、クリスマスイブ計画に、プラスアルファーな提案をしたいんです」
訝しげにこちらを見上げた山宮に、朔也はスマホで保存してあったサイトを開いてそちらへ向けた。山宮がそれを見て目をぱちぱちさせる。
「プレゼント交換をしませんか。リンクコーデのものとか」
朔也が見せたのは文具や雑貨などの商品を、自分の選んだ色で注文できるサイトだった。選べる色は二十種類以上ある。赤や青のようなベースカラーもあるが、芥子色やモスグリーンなど、お洒落に見える色もラインナップに入っている。
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