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4巻【三】
4 あーあ、泣かしちゃった
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「山宮君ってそんなに文章を読むのが上手なの? すごいよ!」
「ホントにすごいです……びっくりしました」
一年生が目を丸くして拍手をしている。山宮が我に返ったように表情を取り戻し、慌てて「いや全然!」と普段通りの声をあげた。
「練習してきたから! そんだけ! たいしたことじゃねえわ」
「でも書道部のために練習してくれたんでしょ? すごいよ。ホントにありがとう!」
渡辺の賞賛に山宮が「いや、こちらこそ」と俯く。そのままポケットのマスクで顔を隠してしまった。
「皆、分かった? 今の山宮君の声で山月記がどういう話なのか各自が改めて読んで書けば、字にも気持ちが出ると思う」
今井が真剣に続け、皆が「はい!」と声を揃える。山宮の声が皆の心を動かした。その事実が朔也を感動させ、興奮に頬が赤くなりそうになった。だが、その思いは胸に秘め、落ち着いた声で付け加える。
「山宮の今の声を覚えておいて。本を読むときに蘇るはずだから」
すると山宮が「えっと、折原」と言いにくそうに切り出した。
「その……もしかしたらと思って朗読した音源を持ってきたんだけど、いる……? いらねえなら」
「ホント⁉」
今井が言葉を遮って笑顔で席を立ち上がった。ポニーテールが翻る。
「山宮君、いいの? また聞かせてもらえたらすごく嬉しい!」
「山宮、ありがとう」
朔也も声を揃え、山宮の朗読の音源をスマホにダウンロードした。スピーカーで再生すると、再び山宮の声で「山月記」と声が流れ出す。
「それ、ちょっと下手じゃね」
山宮がすぐに眉根を寄せた。
「一番マシなのを選んだつもりだったんだけど、あんまよくねえわ。俺、本を読むのが得意なわけじゃねえから」
だが、中村は笑顔で「そんなことないよ」と嬉しそうな声を出した。
「勉強してた私も泣きそうになっちゃった。声で悲しみを表現するなんて、私には絶対にできない。すごい時間をありがとう」
「山宮、充分すぎるよ。引き受けてくれて本当にありがとう」
朔也の言葉に二年生がすぐにありがとうと口を揃え、山宮が急いで首を振る。
「いや、俺はただ読んだだけだから」
「そんなことを言ったら私たちも同じ。ただ書いてるだけだよ」
すると山宮が口に弧を描いて目を細めた。
「それはねえだろ。文化祭のパフォーマンス、楽しそうにやってたよな。あれを見て書道部に入りたいっていう受験生も出てくるんじゃね。これが書道なんだってびっくりして、すげえなってそれしか言えなかった。俺には書道のことは分かんねえけど、すげえってことは分かったわ」
すると一人の一年生が急に俯いた。そこから泣き声がして、山宮が目を丸くする。
「そんなふうに言ってもらえると思わなかったです。先輩の足を引っ張らないようにするのが精一杯で」
そう、一年生にとっては初めてのパフォーマンスだったのだ。しかも今年は例年と違う全員参加の作品。一年生から三年生の書道部全員が思いを一つにした今年初めてのパフォーマンスだ。経験の浅い一年生がどれだけ必死だったか、朔也も気づいていた。
「あーあ、山宮君が一年生を泣かしちゃった」
今井が大袈裟にそう言って、山宮が慌てふためいて宥めるように手を広げた。
「いや、ちょっと、そんなつもり、なかったんだけど」
「いえ! 嬉しいです、ありがとうございます!」
泣き顔の一年生が顔をあげ、皆がそれぞれに礼を口にした。
「ホントにすごいです……びっくりしました」
一年生が目を丸くして拍手をしている。山宮が我に返ったように表情を取り戻し、慌てて「いや全然!」と普段通りの声をあげた。
「練習してきたから! そんだけ! たいしたことじゃねえわ」
「でも書道部のために練習してくれたんでしょ? すごいよ。ホントにありがとう!」
渡辺の賞賛に山宮が「いや、こちらこそ」と俯く。そのままポケットのマスクで顔を隠してしまった。
「皆、分かった? 今の山宮君の声で山月記がどういう話なのか各自が改めて読んで書けば、字にも気持ちが出ると思う」
今井が真剣に続け、皆が「はい!」と声を揃える。山宮の声が皆の心を動かした。その事実が朔也を感動させ、興奮に頬が赤くなりそうになった。だが、その思いは胸に秘め、落ち着いた声で付け加える。
「山宮の今の声を覚えておいて。本を読むときに蘇るはずだから」
すると山宮が「えっと、折原」と言いにくそうに切り出した。
「その……もしかしたらと思って朗読した音源を持ってきたんだけど、いる……? いらねえなら」
「ホント⁉」
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「山宮君、いいの? また聞かせてもらえたらすごく嬉しい!」
「山宮、ありがとう」
朔也も声を揃え、山宮の朗読の音源をスマホにダウンロードした。スピーカーで再生すると、再び山宮の声で「山月記」と声が流れ出す。
「それ、ちょっと下手じゃね」
山宮がすぐに眉根を寄せた。
「一番マシなのを選んだつもりだったんだけど、あんまよくねえわ。俺、本を読むのが得意なわけじゃねえから」
だが、中村は笑顔で「そんなことないよ」と嬉しそうな声を出した。
「勉強してた私も泣きそうになっちゃった。声で悲しみを表現するなんて、私には絶対にできない。すごい時間をありがとう」
「山宮、充分すぎるよ。引き受けてくれて本当にありがとう」
朔也の言葉に二年生がすぐにありがとうと口を揃え、山宮が急いで首を振る。
「いや、俺はただ読んだだけだから」
「そんなことを言ったら私たちも同じ。ただ書いてるだけだよ」
すると山宮が口に弧を描いて目を細めた。
「それはねえだろ。文化祭のパフォーマンス、楽しそうにやってたよな。あれを見て書道部に入りたいっていう受験生も出てくるんじゃね。これが書道なんだってびっくりして、すげえなってそれしか言えなかった。俺には書道のことは分かんねえけど、すげえってことは分かったわ」
すると一人の一年生が急に俯いた。そこから泣き声がして、山宮が目を丸くする。
「そんなふうに言ってもらえると思わなかったです。先輩の足を引っ張らないようにするのが精一杯で」
そう、一年生にとっては初めてのパフォーマンスだったのだ。しかも今年は例年と違う全員参加の作品。一年生から三年生の書道部全員が思いを一つにした今年初めてのパフォーマンスだ。経験の浅い一年生がどれだけ必死だったか、朔也も気づいていた。
「あーあ、山宮君が一年生を泣かしちゃった」
今井が大袈裟にそう言って、山宮が慌てふためいて宥めるように手を広げた。
「いや、ちょっと、そんなつもり、なかったんだけど」
「いえ! 嬉しいです、ありがとうございます!」
泣き顔の一年生が顔をあげ、皆がそれぞれに礼を口にした。
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