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4巻【二】
5 新書道部、始動!
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「改めて、朔、新部長就任おめでとう! スムーズなスタートだったね!」
お菓子パーティーとなった部活を終えて戻ってきた二年生の教室で、女子たちに拍手をされる。そこでようやく朔也は体の力が抜けるのを感じた。思わず膝に手をつく。
「おれ、できてた……? いきなり名指しされてパニックだったんだけど。汗がやばかった。ああ、今更足が震えてきたよ」
すると四人が顔を見合わせて笑う。
「できてたでしょ! 全然動揺してなかったし」
「そうそう、堂々としてて見てて安心できたけど」
「山月記のこともいい滑り出しだったじゃない?」
「朔ちゃん、前から考えてたの? どういう順番でプリントを配るとか」
今井の質問にはあとため息をつく。
「これを先に配ったほうが分かりやすいかなとかは思ったけど、まさか自分がやるとは思ってなかったから……もう、なに話したのか覚えてないよ。頭の中が真っ白」
額から頭を掻き上げると、汗が滲み出した。ハンカチで拭うと、中村が「そんなふうに見えなかったけど」とふふっと笑う。汗の引かない朔也はぱたぱたと顔をあおいだ。
「部長がおどおどしてたら、ついていくのが不安になるじゃん。そんなんじゃ、パフォーマンス甲子園を目指せないと思って。っていうか、なんでおれ? どう考えても違うだろ。先輩たち、なに考えてたんだ? あ、もしかして今井が推薦してくれたとか、そういうこと? 部長と喋ってるところを見たけど」
すると女子たちは目を合わせてくすくすと笑い、今井がにっこりした。
「実は先輩には聞かれた」
ああ、やっぱり。朔也はため息をついてハンカチをしまった。推薦してくれただけで、やっぱり実力じゃないんだな。そう思ったが、今井が笑顔で続ける。
「新しい部長を朔ちゃんにしたいんだけど、どうかなって聞かれたの。女子全員が同じ質問をされた。あたしたちは賛成ですって答えた」
思わず目を見開いた。白のセーラー服を見回す。
「え、なんで? おれが部長なんて役に向いてないことくらい、皆も分かってるだろ? おれ、人前に立ってなにかするタイプじゃないよ」
ところが渡辺が「そう?」とにっこりして首を傾げた。二つに分かれたロングヘアの毛先が跳ねる。
「朔が言いたいことも分かるよ? 性格的に向いてないとか、そういうことを言いたいんだよね? でも、泣くくらいつらいことがあって、それでも努力し続けて、予選落ちしたときに真っ先に来年のことを考えて二年生をまとめたのは朔だった。なにかあったときに一年生や新一年生に寄り添えるのも朔でしょ」
それを聞いて頬が熱くなったが、「泣いたとか忘れて」と頭を掻くと女子たちが思い出したように笑った。長谷川があとを引き継ぐ。
「そういうの、先輩たちは全部見てたし、分かってたんだよ。朔は自分のマイナス面を考えがちなんだろうけど、いいところだっていっぱいあるじゃない。成長したっていうのは最大の武器だと思う」
「朔ちゃんなら部長をやろうと思ったら成長する。先輩たちはそう思ったんだと思うよ」
「そういうこと! なにかあったら私たちがいるし、一緒に頑張ろ!」
中村の明るい声が胸にぐっと来る。朔也はこぶしを握り締めた。二年女子の気持ちは分かった。だが、一年生がどう受け止めたかは分からない。部長の挨拶のあとは無礼講で、ポテトチップスやらチョコレートやらいろいろ広げてたわいもない話しか交わさなかった。朔也はお菓子の味が分からず、ただひたすら笑顔を保つことだけを考えていた。
「今井は、知ってるけど」
気づいたらそれを口にしていた。
「おれ、中学のときに不登校だった時期があるんだよ。夏休みの最後、部活を休んだのも似たようなものなんだ。頑張ろうって言っておきながら、真っ先に約束を破ってごめん」
せめてこの四人には助けを求められるようにしておかなければ。でなければ、また一人殻にこもって周りを困らせてしまう。
「できないと思ったらちゃんと言うようにするから、そのときは助けてほしい」
すると渡辺が「大袈裟!」と笑い出した。
「なに深刻そうな口調で言ってんの! 五人で協力しようって言ったのは朔だったんじゃないの? そんなの当たり前じゃない」
すると長谷川が「ごめんね」と眉根を寄せた。
「私、朔が不登校だったって知ってた。なにかのときに、職員室で先生たちが朔はそういうことがあったから、気をつけて見守らないとって言ってるのを聞いちゃったの。すごくびっくりした。でも、これからは五人で考えればいいじゃない」
中村が肩をすくめる。
「そうそう、一人で男子トイレに閉じこもらない限りはね」
またそのネタを引っ張り出されて、「それ言わないで!」と叫んだら女子たちはケラケラと笑った。
「とにかく! 新部長は朔! 変わらず五人で力を合わせてこ!」
「優勝して達磨に目を入れるって約束、忘れてないよね?」
「あたしたちなら予選を突破できる。信じてる!」
「ほら、新部長、ここは一言!」
中村に促され、朔也はパフォーマンス前のように前に手を出した。すぐに察した四人が円を作るように指先を合わせる。
やってやる。この五人で力を合わせて夢を掴んでみせる。おれたちの夢は来年の夏のパフォーマンス甲子園で優勝することだ。
朔也は声に力を込めた。
「新書道部、本日より始動! 頑張るぞ!」
おー! 手をあげた五人の声が重なり、全員がハイタッチをした。放課後の校舎にパチンと弾ける音が爽やかに響く。女子たちの明るい笑みにようやく心が温まるのを感じた。
お菓子パーティーとなった部活を終えて戻ってきた二年生の教室で、女子たちに拍手をされる。そこでようやく朔也は体の力が抜けるのを感じた。思わず膝に手をつく。
「おれ、できてた……? いきなり名指しされてパニックだったんだけど。汗がやばかった。ああ、今更足が震えてきたよ」
すると四人が顔を見合わせて笑う。
「できてたでしょ! 全然動揺してなかったし」
「そうそう、堂々としてて見てて安心できたけど」
「山月記のこともいい滑り出しだったじゃない?」
「朔ちゃん、前から考えてたの? どういう順番でプリントを配るとか」
今井の質問にはあとため息をつく。
「これを先に配ったほうが分かりやすいかなとかは思ったけど、まさか自分がやるとは思ってなかったから……もう、なに話したのか覚えてないよ。頭の中が真っ白」
額から頭を掻き上げると、汗が滲み出した。ハンカチで拭うと、中村が「そんなふうに見えなかったけど」とふふっと笑う。汗の引かない朔也はぱたぱたと顔をあおいだ。
「部長がおどおどしてたら、ついていくのが不安になるじゃん。そんなんじゃ、パフォーマンス甲子園を目指せないと思って。っていうか、なんでおれ? どう考えても違うだろ。先輩たち、なに考えてたんだ? あ、もしかして今井が推薦してくれたとか、そういうこと? 部長と喋ってるところを見たけど」
すると女子たちは目を合わせてくすくすと笑い、今井がにっこりした。
「実は先輩には聞かれた」
ああ、やっぱり。朔也はため息をついてハンカチをしまった。推薦してくれただけで、やっぱり実力じゃないんだな。そう思ったが、今井が笑顔で続ける。
「新しい部長を朔ちゃんにしたいんだけど、どうかなって聞かれたの。女子全員が同じ質問をされた。あたしたちは賛成ですって答えた」
思わず目を見開いた。白のセーラー服を見回す。
「え、なんで? おれが部長なんて役に向いてないことくらい、皆も分かってるだろ? おれ、人前に立ってなにかするタイプじゃないよ」
ところが渡辺が「そう?」とにっこりして首を傾げた。二つに分かれたロングヘアの毛先が跳ねる。
「朔が言いたいことも分かるよ? 性格的に向いてないとか、そういうことを言いたいんだよね? でも、泣くくらいつらいことがあって、それでも努力し続けて、予選落ちしたときに真っ先に来年のことを考えて二年生をまとめたのは朔だった。なにかあったときに一年生や新一年生に寄り添えるのも朔でしょ」
それを聞いて頬が熱くなったが、「泣いたとか忘れて」と頭を掻くと女子たちが思い出したように笑った。長谷川があとを引き継ぐ。
「そういうの、先輩たちは全部見てたし、分かってたんだよ。朔は自分のマイナス面を考えがちなんだろうけど、いいところだっていっぱいあるじゃない。成長したっていうのは最大の武器だと思う」
「朔ちゃんなら部長をやろうと思ったら成長する。先輩たちはそう思ったんだと思うよ」
「そういうこと! なにかあったら私たちがいるし、一緒に頑張ろ!」
中村の明るい声が胸にぐっと来る。朔也はこぶしを握り締めた。二年女子の気持ちは分かった。だが、一年生がどう受け止めたかは分からない。部長の挨拶のあとは無礼講で、ポテトチップスやらチョコレートやらいろいろ広げてたわいもない話しか交わさなかった。朔也はお菓子の味が分からず、ただひたすら笑顔を保つことだけを考えていた。
「今井は、知ってるけど」
気づいたらそれを口にしていた。
「おれ、中学のときに不登校だった時期があるんだよ。夏休みの最後、部活を休んだのも似たようなものなんだ。頑張ろうって言っておきながら、真っ先に約束を破ってごめん」
せめてこの四人には助けを求められるようにしておかなければ。でなければ、また一人殻にこもって周りを困らせてしまう。
「できないと思ったらちゃんと言うようにするから、そのときは助けてほしい」
すると渡辺が「大袈裟!」と笑い出した。
「なに深刻そうな口調で言ってんの! 五人で協力しようって言ったのは朔だったんじゃないの? そんなの当たり前じゃない」
すると長谷川が「ごめんね」と眉根を寄せた。
「私、朔が不登校だったって知ってた。なにかのときに、職員室で先生たちが朔はそういうことがあったから、気をつけて見守らないとって言ってるのを聞いちゃったの。すごくびっくりした。でも、これからは五人で考えればいいじゃない」
中村が肩をすくめる。
「そうそう、一人で男子トイレに閉じこもらない限りはね」
またそのネタを引っ張り出されて、「それ言わないで!」と叫んだら女子たちはケラケラと笑った。
「とにかく! 新部長は朔! 変わらず五人で力を合わせてこ!」
「優勝して達磨に目を入れるって約束、忘れてないよね?」
「あたしたちなら予選を突破できる。信じてる!」
「ほら、新部長、ここは一言!」
中村に促され、朔也はパフォーマンス前のように前に手を出した。すぐに察した四人が円を作るように指先を合わせる。
やってやる。この五人で力を合わせて夢を掴んでみせる。おれたちの夢は来年の夏のパフォーマンス甲子園で優勝することだ。
朔也は声に力を込めた。
「新書道部、本日より始動! 頑張るぞ!」
おー! 手をあげた五人の声が重なり、全員がハイタッチをした。放課後の校舎にパチンと弾ける音が爽やかに響く。女子たちの明るい笑みにようやく心が温まるのを感じた。
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