どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

文字の大きさ
上 下
110 / 145
4巻【二】

4 なんでおれ?

しおりを挟む
 「ふえぇ、…」
 ふと唐突に、ヒナの声が聞こえてくる。
 すぐに俺は、顔を振り向いた。
 すると彼女は、表情をくしゃくしゃにしながら、声を殺して泣いているようだ。目の前で起きた事に、ショックを受けてしまっているようだ。
 「くっ。…」
 と俺は苦々しげに呟くと、歯をギリリと強く食い縛った。なんとか呼吸を整えて冷静さを保つ様に努めながら、ゆっくりと語りかけだす。
 「ヒナ。」
 「な、何?」
 「すまない。…俺も油断していた。だから、大変な事に。…」
 「う、ううん。」
 対してヒナも嗚咽を漏らしつつも、弱々しく返事をしており、次第に話に耳を傾けていた。
 「…今、ダフネが蛇達と戦っている。…このまま俺達は森の奥に向かえば、安全な場所に逃げ切れるだろうし。…あの女の強さなら、キリエも助けてくれるかもしれない。…」
 「……ぐすっ、…。」
 「でも、…その場合、全てが終わるまで、ただ黙って何もしないままだ。…これは俺の我が儘かもしれないけど、…黙って待っているなんて出来ない。」
 と、俺は最後に伝えると話を締めくくった。さらに再び彼女の様子を伺う。
 やがて一拍の間の後に、ーー
 「…あたし。…………あたしも、リエちゃんと、……また皆と、アイス食べたい。…」
 と、ヒナは小さな声で呟く。ついでに袖で涙を拭いだしたら、此方に顔を向けてきた。
 そうして互いに視線を交わらせると、頷いていた。同じ意思を感じている。
 俺は意を決すると自ずと立ち上り、思考を巡らせて考えを纏める。
 ほぼ同時に、ヒナも姿勢を変えながら此方の首に腕を回してしっかりと抱きつく。所謂は、おんぶする状態となる。
 そのまま俺達は小声で話をしていき、互いに作戦を伝えて擦り合わせた。ようやくして話が終わるや否や、遺跡の方に向かって走りだして行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

婚約破棄された王子は地の果てに眠る

白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。 そして彼を取り巻く人々の想いのお話。 ■□■ R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。 ■□■ ※タイトルの通り死にネタです。 ※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

処理中です...