どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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4巻【二】

3 部活の引退式

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「先輩、ありがとうございました」

 一年生が最後の一人に花束を渡したとき、放課後の書道室が拍手に包まれた。明るい作品で終わった文化祭でのパフォーマンスのように、引退する三年生は皆明るい顔で花束を受け取った。色違いのバラとガーベラが中心になった花束は、三年生に笑顔をもたらしている。涙を浮かべている先輩もいたが、口元は笑っていた。

 とうとう引退式が行われた。急遽昼休みに一年生が教室へ来て、「ぬいぐるみにメッセージを書き入れてください」と言ったので、中村が慌てて二年生を呼びに行って急いでそれらを書き込んだ。一年生の話し合いで決めたという寄せ書きのうさぎのぬいぐるみが一人ひとりに贈られる。顧問からは全員へ個別に手紙が渡された。

 先輩たちからは顧問へ感謝の色紙が渡され、顧問はそこで職員室へ戻った。先輩たちから後輩へのプレゼントは毎回お菓子で、このあと全員でわいわいとお喋りしながら時間を過ごすのだ。顧問もそれを分かっていて、お菓子持ち込み禁止の校則違反に目を瞑ってくれている。

「皆、本当にありがとう。中学の書道部よりずっと楽しかった。全員で書いた作品はどれもいい思い出」
「後輩がついてきてくれたから、書道パフォーマンスができたんだよ。楽しく活動できたのはここにいる一、二年生のおかげだから」
「私は付属大学に行く予定なの。大学でも書道部に入るつもり。また会えたら嬉しいな」

 先輩たちの挨拶を聞いていたら、朔也の鼻がつんとしてきた。頼もしい三年生がいてくれたから、今日までやってこられたのだと実感する。墨のにおいで落ち着いた書道室も、今日は色とりどりの花束のように華やかだ。部長が教卓の前に立って言う。

「二年生、少ない人数だけど後輩たちを引っ張っていってね。一年生、二年生を助けてあげてね。協力し合わないといけないのがうちの書道部だから。来年のパフォーマンス甲子園、皆の姿を見られるのを楽しみにしてる」

 パフォーマンス甲子園。その言葉に教室の後ろに置いてある紙袋のことを思い出す。昨日の放課後に本屋から引き取ってきた山月記の文庫本が入った袋だ。このあとの新部長発表後にそれを配る。

 新部長は三年生と顧問の推薦で決まり、発表前に打診されると聞いている。新部長は引き継ぎの挨拶をするので、それを考えておかなければならないからだ。

 泣きそうな顔で先輩を見つめている今井をちらりと見た。昨日の移動教室から帰ってきたとき、廊下で部長が今井と話しているのを見かけた。今井は去年に引き続き、今年もクラス委員長を務めている。クラス委員長と部長。大変そうではあるが、山月記の解説をすると意気込んだときの様子を思い出せば大丈夫だろう。山月記を読むのは山宮に頼ってしまったが、他のことは自分たちで補えばいい。朔也は小さな頃から今井と書道教室が同じだった。幼馴染みの手助けくらいはできるだろう。

 まずは山月記の解説。今井が上手くいかなかったら、補佐を頼まれているおれがなんとかしないと。そのためには試験後の勉強が大切で。

 頭の中で自分がやるべきことを考えていると、「それじゃあ新しい部長さんに早速動いてもらおうかな」と部長がにっこりとした。朔也が後ろにある袋を取りに行かなきゃと思ったとき、部長と目が合った。

「新部長は朔にお願いするから。あとは頼んだよ」

 そう言って教壇を降りた部長を含め、笑顔の三年生や周りから拍手があがった。浮かしかけた腰が変な態勢で止まる。
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