どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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3巻【五】

3 朔也の家へ

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 結局ボディシートも同じのを買った。商品が重なっても不思議ではないし、開封するタイミングも違うから目立たないだろう。体育祭に向けて万全の武器を揃え、会計して駅へ向かう。日差しの差し込む外のホームは暑かったが、電車に乗ると一気に体が冷えていくのが分かった。お手本のような入道雲が窓の外に見える。お盆のせいか車両内はガラガラで、二人で長い座席の端とその隣をゲットできた。戦利品の入ったビニール袋を膝に載せ、山宮がハンカチでぱたぱたと首をあおぐ。

「この路線は前にも乗ったけど、今日はなんだか人が少な、あ」

 途中で山宮がはっとしたように言葉を途切れさせた。その様子に、今井と付き合っていたときに乗ったんだなと分かる。だが、手元でがさがさと鳴るビニールの音を聞いていたら気にならなかった。明るい声で「山宮先輩にしては珍しい失言」と揶揄う。

「ばったり会うんじゃねって可能性、忘れてた。二人でいるときに会うのは気まずい」
「大丈夫、毎年この時期に帰省するから。部活でもそんなふうに言ってたし」
「幼馴染みは言うことが違えわ」

 最寄り駅で降りると西口の前に広がるバス停へと歩いていく。日差しの降り注ぐバスのロータリーを早足で歩き、並ぶところに設置されている屋根の下に入るとほっとした。

「知ってるかもしれないけど、十分以上乗るよ。山宮の家と違って交通の便が悪いから」
「それは知らねえわ。でも、都会じゃね。こっちのほうが東京に出るのに楽だろ」
「方角的にはそうかも」

 そう言えば放送の大会は東京か。そんなことを思い出しながらバスに乗る。頭をぶつけそうなつり革に掴まった。最寄りのバス停に着き、ステップから道の縁石を踏んで歩道へ降りる。すぐに人通りの少ない路地へと曲がり、脇に芙蓉の花が咲く玄関扉の鍵を開けて靴を脱いだ。「お邪魔します」と丁寧に言った山宮は、靴を脱いでからしゃがんで靴の向きを変えた。

 親は仕事、姉はアルバイトでいないはずだ。だが、リビングのほうから足音がして、カチャと廊下との間の扉が開いた。

「おかえり。……えっ、友だち?」

 肩にバッグをかけた姉が折りたたみの日傘を手にして出てくる。山宮を認めたその顔が驚きからぱっと明るくなって、もう久しく友人を家に呼んだことがないことに気づいた。

「姉ちゃん、バイトって言ってなかった?」
「今から行くところ。……こんにちは、朔也のお姉ちゃんです。ごめんね? 暑いのに冷たい飲み物も用意してなくて。お菓子とか果物があるから、好きなの食べてね。どれがいいか、朔也にリクエストしていいから」

 後半、朔也の後ろにいる山宮へ向けられた台詞に、山宮が慌てたように頭を下げた。

「折原君のクラスメイトの山宮です。お邪魔します。どうぞお構いなく」
「随分かっこいい友だちを連れてきちゃって、お姉ちゃんびっくりしちゃった」
「いえ! とんでもないです!」

 急いで手を振るかしこまった山宮と明るい姉の組み合わせに、なんだか笑ってしまう。

「お姉ちゃんはもう行くから。朔也、なにかお菓子を出しなさいよ。山宮君、ゆっくりしてってね! また来てね!」

 笑顔の姉を見送って二階にある自室に入ると、山宮が開口一番「びっくりした」と言って扉のほうを見た。そちらを見れば姉が見えるとでも言いたげだ。

「姉ちゃん、フレンドリーでしょ。一人称がお姉ちゃんなのだけ人前ではやめてほしい」
「いや、お前と姉ちゃん、顔似てんじゃね。そこに驚いたわ」
「え? 姉ちゃんはハーフ顔だけど、おれは違うでしょ」

 山宮がこちらの顔をまじまじと見る。

「いや、お前もそれっぽいところあるな。今気づいたけど」
「初めて言われた。髪とか目の色じゃなくて?」
「いや、違う。一年の頃より顔が変わったと思ってたけど、そういうとこなのか……?」

 山宮がじいっとこちらを見てくるので、刺さる視線に恥ずかしくなってきた。急いでエアコンのリモコンを操作する。

「座布団とかないけど、とりあえず座って」

 すると山宮は素直に向かい合わせに座った。広い山宮の部屋と違って、机とベッドを置いたらあとはベッドの隣に半切を三枚置けるかどうかの空間だ。しかも書道をすぐにできるようにしているので、床に紙や道具の入った大きな袋がいくつか置いてある。だが、山宮はきょろきょろと見回し、「なんかお前っぽい」と感想を述べた。

「ベッドがでかくね。パねえ存在感」
「これ、高身長用だから。おかげで足元のクローゼットの扉が半分しか開かないよ」
「そんなのがあんのか? 初耳」
「おれがオリエンテーションや山宮の部屋の布団でどう寝てたか分かる? まっすぐじゃなくて対角線上に寝るの。これ、背が高い人あるある」

 想像したらしい山宮が噴き出した。

「気づいてなかったわ! よく見ときゃよかったぜ!」
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