どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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3巻【一】

5 お前マジ?

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「お前、マジ? 音痴じゃね? 曲、ちゃんと聞いてるか?」
「えっ、音痴だった? 自分じゃ分かんない」

 指摘に顔が熱くなったが、山宮は首を傾げて難しそうな顔つきになった。

「そもそもキーが合ってねえわ。原曲キーで入れたら男子にはきついだろ」
「キーってなに? 習ったアルトとは違うってこと?」

 こちらの返しに山宮が唸る。

「お前の弱点を見つけた気がするわ……。とりあえずお前が歌いやすい低さにして後半を俺が歌うから、一緒に歌ってみろよ。自分の外れるところが分かると思うぜ。お前、歌うスピードがずれるときもあるから、俺に合わせろ」 

 ピピピと音がして、再び曲が流れ出した。先ほどより音が低い気がする。山宮の声を聞いて音楽と音が合っているというのは理解できた。それにつられて歌うと、確かに自分が違うメロディーを口ずさもうとしているのが分かる。歌いきってほっとしたが、山宮は再び難しい顔でパネルを操作した。すると「採点」という文字が画面に映る。

「採点って書いてあるけど、点数はどうでもいいわ。音程バーっていうのが出るから、それを見ると自分が音が外れるところが目に見える。まず俺がやってみる。声を出すタイミングも分かるんじゃね」

 山宮は再び同じ曲を入れた。画面の上に五線譜が表れて横棒が記されている。山宮が歌い出すと、そこが連動して色が変わるのが分かった。金色や虹色にキラキラと光り、たまに出る丸や波線などの不思議な形の印はなんだろうと思って画面を見つめる。終わって採点の点数が出て驚いた。九十六点だった。

「えっ、九十六ってすごいんじゃない⁉ 普通ってそんな点数が出るの?」

 山宮が「それは分かんねえけど」と困った顔になる。再び同じ曲名が予約一覧に表示された。

「音程バーの仕組みは分かっただろ? それを見ながら歌ってみろよ。自分が外れてる場所がはっきりするし、歌うスピードが分かるんじゃね」

 言われて汗を掻いたマイクを握り直す。だが、一人で歌い始めると横棒と色がつくところが全く合わない。高いのか低いのか分かっても直すことができない。そもそも、歌詞と五線譜を同時に見ることができないのだ。焦っているうちに曲が終わり、点数が表示されて思わず手で顔を覆った。六十六点だった。

「六十六……」

 山宮の呟きにテーブルに突っ伏したくなった。ちらっと画面に映った全国平均の数値にがくりとうなだれる。

「おれ、点数が低いってことだよな? 自分が音痴って知らなかった」
「でも、中学のときに行ったことがねえんだし、声変わりしてからのカラオケは初めてなんじゃねえの。カラオケに慣れれば変わるんじゃね」

 とりなすように山宮が言ったが、朔也はマイクを置いてため息をついた。

 山宮、フォローをありがとう。でも、おれ、小学生高学年のときには声変わりしてたよ。

 頭を振って体を起こすと、山宮がパネルをいじっていた。その横顔がちょっと笑っていて、くっと小さく笑い声を出す。

「音楽が必修だったらいいのにな。折原のおもしろいところが見られそうじゃね」
「書道選択でよかったよ。歌なんて絶対無理」
「でも、今は授業じゃねえし、楽しけりゃいいだろ。次はお前が歌ってみたい曲を入れようぜ。俺が知ってたら一緒に歌うわ」
「そうして。助けてもらわないとおれの音は外れっぱなし」

 その後朔也は山宮が歌えるという曲を探し、二人一緒に歌えるものと山宮が一人で歌うものを一曲ずつ予約した。山宮はこちらが歌が下手でも嫌な顔はしなかった。これ懐かしいなと笑顔で言い、敢えてなのかこちらが知っている有名曲を一人で歌う。それがラブソングだと気づき、朔也は膝に肘をついて口元を隠した。

 これ、おれに宛てて歌ってるって思って聞くとにやける。

 山宮が校内放送よりも低い声や普段よりかなり高い声が出ることも分かって、知らなかった一面に音痴の衝撃も忘れて楽しくなってきた。氷の少し溶けたカルピスでくちびるを湿らせ、歌い終わった山宮に尋ねる。

「もしかして女性の曲も歌える?」
「いけるのもあると思うけど、無理ならキーを下げればいいんじゃね」
「そのキーが分からない」
「簡単に言うと、音の高さを自分の声に合わせるってこと。自分に合う高さが分かると歌いやすくなるぜ。さっき歌った曲はマイナス5ってメモっとけ」

 言われるままメモアプリを起動し、曲名と一緒にメモをする。

「次、お前が選ぶ番。まだ学校で歌った曲はあるだろ」
「あ、『手紙』って中学の卒業式で歌わなかった?」
「ああ、『拝啓十五の君へ』な。十五歳ってあるし卒業式では定番じゃね。また低くして入れるわ」

 パネルを任せ、マイクを握る。最初はしっとりと始まったが、途中から山宮の声が大きくなった。ちらっとそちらを見ると、山宮が手で上を指す。声を大きくしろという合図にマイクを握り直し、思い切って声を出した。山宮が嬉しそうな表情になり、二人で画面を見つめる。五線譜のバーがキラキラと光って、目に明るさを残していく。

 途中の音が高くなる部分で朔也は声が出なくなったが、山宮は最後まで歌いきった。九十三の点数に足を引っ張ってるなと思ったが、恥ずかしさは吹っ切れた。マイクをテーブルに戻して額に滲んだ汗をハンドタオルで拭くと、山宮が小さく笑ってソファにもたれた。

「すげえおもしれえ。お前が歌ってるのを見るのも初めてだし、普段歌わねえ曲ばっかりだから変な感じだわ」
「普段歌わない曲なのにあの点数が出るってどういうこと。上手くて驚かれない? 高校で誰かとカラオケに行ったことないの」
「一年のときに行ったことがあるな。確かにびっくりしたとは言われた」
「普段物静かな山宮があれだけ声を出せて上手かったらびっくりするよ」

 朔也の言葉にまたもふふっと笑った山宮が、パネルをスクロールした。それを見ながら思い出したように言う。
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