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3巻【一】
3 初の放課後デート
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その目に、朔也は今の生活が楽しいのは彼女たちのおかげなのだということを改めて認識した。大好きな書道の楽しさを分かち合い、「朔」と気軽に呼んで自分を受け入れてくれる仲間たち。男子一人の自分を当たり前のように受け止めてくれる。いつものように本音を隠している自分では同じ気持ちで目標に立ち向かえない。せめてこの四人には積極的に自分の意見を言えるようにしたい。今日から自分を変えなければ。朔也はぐっと息を呑み、鞄を開けた。
「あの、すごく余計なことなんだけど」
朔也は鞄から袋を取り出した。手に汗が滲む。
「いらなかったら捨ててくれればいいんだけど」
煮え切らないこちらの態度に今井がくすっと笑った。
「なあに? 朔ちゃん、考えすぎてなにか渡すと迷惑なんじゃないかって思ってるでしょ。あたしたちになにをくれるの」
今井のフォローにほっとして、皆の手に一つずつ「これ」と達磨を渡した。
「優勝したら達磨に目を入れない? 縁起担ぎで買っちゃったんだけど」
すると指先で小さな達磨を揺らした中村が「かわいい」と口元をほころばせた。
「こういうのを買うのって朔っぽい! 嬉しいよ。ありがと!」
「押しつけがましかったらごめん」
朔也の返しに「そんなことないでしょ」と別の女子が笑った。
「朔が真剣なのが分かった! 手始めに五人で達磨つけてアイス食べに行こ!」
するとすぐに今井がさっと朔也の鞄を持った。天井に向かってこぶしをあげる。
「よーし、五人で放課後アイスしよー!」
「なんだかんだ五人で寄り道って初めてじゃない? 行こ行こ!」
女子の結束力に押されて朔也はモールのアイス屋に参戦した。全員ダブルを食べようと言い、看板の一覧を眺める。ハニーモカ、ベリーアンドベリー、宇治抹茶。組み合わせを考えていると、ポケットでスマホが振動した。山宮から「線上で動きすぎる俺の点P」というメッセージが来ている。放送室で数学に苦戦している姿を想像し、噴き出しそうになる。きっと椅子を机代わりにして宿題に励んでいるのだろう。
放送室は重い扉で閉ざされた、学校で唯一季節の入り込めない部屋だ。防音扉だからカラスの声も入ってこないし、外廊下に面した横長の窓はカーテンで閉め切られていて外も見えない。閉め切られた小さな空間は閉ざされすぎて、外からも興味を持たれない。多くの生徒はそこが放送室だと知らないし、下校放送が流れるまで山宮がそこにいると分からない。更に下校放送をしているのが山宮だということもほぼ知られていない。放送室は、マイクやミキサーなど普段学校生活では触れない機材が揃った、山宮自慢の隠し部屋と言っていいだろう。
朔也はメニューのアイスの味を調べるふりをして、「アイスは全二十種類。ダブルを食べる部員の人数は五人。組み合わせは何通り?」と送った。すぐに「書道部は初日から夏休みを満喫してるな」と返事が来る。
結局水色のチョコミントとピンクのパッションフルーツを選び、五人ベンチで横並びになってお喋りをした。夏休みの書道部は月水金の午前中で、他は自主練だ。毎週土曜日は全クラス登校日となっており、文化祭や体育祭について準備を進める。朔也は自主練にも参加するつもりなので、山宮が学校に来さえすれば会える。山宮は基本的に毎日登校して放送室で宿題をこなし、下校放送をしてから帰る予定だと言っていた。
山宮とおれ、放課後に遊んだことがないな。公園に行ったことがあるだけ。
口の中で溶ける爽やかなミントを感じながら考える。
夏休みに私服デートしようとは言った。でも、放課後に制服デートもしてみたい。
時間を見れば五時半を回っている。山宮が下校放送をするのは六時半だ。あと少し待てば会える。
手洗いに行った隙に勇気を出して部活が終わったら遊ばないかとメッセージを送る。すると即座に「行く」と返ってきた。親に遅く帰るとメッセージを送ると、アイスを食べ終わった皆で少しモールを歩いて回り、いつもどおりの時間に駅に向かった。そして、山宮との初放課後のデートにこぎつけたのだ。
「あの、すごく余計なことなんだけど」
朔也は鞄から袋を取り出した。手に汗が滲む。
「いらなかったら捨ててくれればいいんだけど」
煮え切らないこちらの態度に今井がくすっと笑った。
「なあに? 朔ちゃん、考えすぎてなにか渡すと迷惑なんじゃないかって思ってるでしょ。あたしたちになにをくれるの」
今井のフォローにほっとして、皆の手に一つずつ「これ」と達磨を渡した。
「優勝したら達磨に目を入れない? 縁起担ぎで買っちゃったんだけど」
すると指先で小さな達磨を揺らした中村が「かわいい」と口元をほころばせた。
「こういうのを買うのって朔っぽい! 嬉しいよ。ありがと!」
「押しつけがましかったらごめん」
朔也の返しに「そんなことないでしょ」と別の女子が笑った。
「朔が真剣なのが分かった! 手始めに五人で達磨つけてアイス食べに行こ!」
するとすぐに今井がさっと朔也の鞄を持った。天井に向かってこぶしをあげる。
「よーし、五人で放課後アイスしよー!」
「なんだかんだ五人で寄り道って初めてじゃない? 行こ行こ!」
女子の結束力に押されて朔也はモールのアイス屋に参戦した。全員ダブルを食べようと言い、看板の一覧を眺める。ハニーモカ、ベリーアンドベリー、宇治抹茶。組み合わせを考えていると、ポケットでスマホが振動した。山宮から「線上で動きすぎる俺の点P」というメッセージが来ている。放送室で数学に苦戦している姿を想像し、噴き出しそうになる。きっと椅子を机代わりにして宿題に励んでいるのだろう。
放送室は重い扉で閉ざされた、学校で唯一季節の入り込めない部屋だ。防音扉だからカラスの声も入ってこないし、外廊下に面した横長の窓はカーテンで閉め切られていて外も見えない。閉め切られた小さな空間は閉ざされすぎて、外からも興味を持たれない。多くの生徒はそこが放送室だと知らないし、下校放送が流れるまで山宮がそこにいると分からない。更に下校放送をしているのが山宮だということもほぼ知られていない。放送室は、マイクやミキサーなど普段学校生活では触れない機材が揃った、山宮自慢の隠し部屋と言っていいだろう。
朔也はメニューのアイスの味を調べるふりをして、「アイスは全二十種類。ダブルを食べる部員の人数は五人。組み合わせは何通り?」と送った。すぐに「書道部は初日から夏休みを満喫してるな」と返事が来る。
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山宮とおれ、放課後に遊んだことがないな。公園に行ったことがあるだけ。
口の中で溶ける爽やかなミントを感じながら考える。
夏休みに私服デートしようとは言った。でも、放課後に制服デートもしてみたい。
時間を見れば五時半を回っている。山宮が下校放送をするのは六時半だ。あと少し待てば会える。
手洗いに行った隙に勇気を出して部活が終わったら遊ばないかとメッセージを送る。すると即座に「行く」と返ってきた。親に遅く帰るとメッセージを送ると、アイスを食べ終わった皆で少しモールを歩いて回り、いつもどおりの時間に駅に向かった。そして、山宮との初放課後のデートにこぎつけたのだ。
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