どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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2巻【三】

4 二人きりの部屋で

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 たまに不思議に思う。山宮がどうして自分を好きでいてくれるのか。自分は人に壁を作ってばかりで、クラスメイトともようやく距離感が掴めてきたくらい人間関係を築くのが下手だ。人目を気にしてばかりいるし、当たり障りなく振る舞っているから平凡な高校生でしかない。人に褒められるところと言ったら書道くらい。だが、山宮は書道に興味があるわけではない。

「……すごく不思議」

 いつかのように、山宮の肩に頭を載せる。男らしいしっかりした肩の温かさが心地いい。そこから山宮の見ている画像の中の笑顔を見た。

「山宮はどうしておれなんかが好きなんだろ。おれ、山宮になにもしてないのに。どうしてそんな画像で喜んでくれるのか不思議」
「そんなん、こっちが聞きてえわ」

 山宮の声が体の振動で伝わってきた。その近さに口元がほころんでしまう。

「お前、俺がバカに見えねえの? やってることは地味だし、放送なんて分かんなくね」
「バカって……テストの話? 成績なんて、なんの物差しにもならないよ。ただこの学校でどうかっていうだけじゃん」
「達観しすぎじゃね。それなのに点数がいいの、なんで」
「おれは人に負けたくないから頑張ってるけど、もっと上の学校に行ってたら太刀打ちできないと思う。なんていうか、たまたまだよ。学校の成績の順位とか、社会に出たら役に立たないんじゃないかな」
「社会に出るには成績が必要だろ」
「でも、成績だけあげてもどうしようもないことがあるって、おれは中学のときに知ったから」

 中学の頃あがいていたことを思い出して言うと、山宮は「そっか」と呟いた。

「で、山宮はおれのなにが好きなの」
「……それ、よくあるめんどくせえ彼女が言う質問じゃね」
「それは、私と部活のどっちが大事なの、じゃない?」
「お前は部活だろ」
「どっちもだと思うけど。おれは山宮が部活に一生懸命なところがいいと思う。起床放送をしたのは俺だって言ってもいいのに、敢えて黙ってるなんてかっこいい」

 すると山宮が黙った。おやと目線だけあげて山宮を見ると、ちょっと照れたように口をむずむずとさせていた。

「俺はお前が書道に夢中なところがいいわ。シャトルランもそうだったけど、何事にも手を抜かねえって、俺にはできねえから」

 そしてくっと笑った。

「部活の邪魔だって一年女子を撃退した方法もお前らしくておもしれえし」
「山宮だって放送を邪魔されたら嫌でしょ」
「お前の書道好きに勝てるもんなんてねえか」
「……山宮が勝ってるじゃん」

 すると山宮は空咳をした。静かな部屋で山のほうからホウホウと鳥の声がする。どこかの部屋で誰かが笑っている声も聞こえた。同じ部屋の男子たちも今頃女子に混じって楽しく過ごしているに違いない。放送室以外で二人きりになるのが初めてだと気づいたら、急にどきどきし始めた。

「……折原、手汗がすげえ」
「いきなり緊張してきた」

 今更だわ、と呟いた山宮がちょっとだけ笑った。

「おれ、山宮がおれのことを理解してくれてるところが好き。ありのままでいていいって思われててほっとする」
「……多分、同じ。地味でクラスでもいないような俺なのに、見つけてくれてサンキュ」

 繋いだ手が温かい。そう言えば、初めて山宮の肩にこうして頭を載せた日、人のぬくもりに気づいたのだった。

「ちなみに、山宮がノートに他に書いた項目は?」

 いいな、肩枕って書いておけばよかったな。そんなふうに思いながら山宮の顔をちらっと見ると、なんだか頬を赤くさせていた。

「……かわいいこと書いたでしょ。なに」
「『二人きりの部屋でキスをする』」

 一息で早口に喋った言葉が部屋に消え、思わず体を起こした。キスという直接的な単語を山宮が発したのは初めてだ。山宮がこちらを見て慌てたように付け加える。

「いや、お前がそういうことしてきそうって思っただけ!」

 それを聞いてふふと笑ってしまった。頬が熱い。

「でも、できたらチェックをつけようと思ってたんでしょ」
「そ、そこまで、考えてねえわ」
「うーん、それを聞いたらしたくなっちゃった」

 つんつんとジャージの袖を引っ張ると、山宮がはあと息をついてこちらに向き直る。

「チェック、つけよ?」

 そう言って顔をそっと近づけると、山宮の目線が少し下に落ちて、自分の口を見たのが分かった。
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