どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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2巻【二】

5 あわあわしそうだった

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「てか、なんで俺対複数よ?」
「一、山宮が普段孤高のシベリアンハスキーだから。二、おれを笑ったから」

 湯上がりの夕食前、飲み物を買いに行くと言って自販機前で落ち合った。幸い、来てみると誰もいなかった。こちらの顔を見た途端、水のペットボトルを開けた山宮が文句を言ってきたので言い返す。だが、山宮は思い出したように腹に手をやって笑い出した。

「笑うわ! 濡れた犬の毛がぺたんこになるのとそっくりだったわ!」

 自販機のボタンを押すとゴトンと音がしてペットボトルが落ちてくる。朔也は口をとがらせた。

「山宮のせいで髪を乾かす時間が減ったじゃん。髪の毛、いつもはなるべくくるくるしないように時間をかけてるのに」
「攻撃開始とか言ったのは誰だよ。余計なこと言い出したお前が悪いんじゃね」
「山宮にお湯をかけるのは楽しかった」
「こっちもずぶ濡れの犬を見るのは楽しかったわ」

 互いに笑う。朔也は内心風呂の時間が無事に過ごせたことにほっとした。ペットボトルを傾けると、ぽかぽかした体の内側に冷たいお茶が通り抜けていく。

 正直に言うと、山宮と一緒に風呂に入るとあわあわしそうだったからだ。桶などを片づけた朔也が気づいたときには山宮はとっくにジャージに着替えていて、新しいマスクを広げて顔を半分隠し、こちらを見ることなく部屋に戻っていった。体育の着替えとは違う妙な感じになりそうだった──朔也は、だが──ので、とりあえず一日目を乗り切ったことで緊張が解けた。

「おっ、白糸の滝写真組だ」

 そこへやって来たのは副委員長だった。彼は背の高い朔也にデコピン、小さい山宮の頭にチョップする。

「お前ら、風呂場で遊びすぎ」
「山宮が悪い」
「折原が悪りい」

 二人の声が重なって、副委員長は笑った。

「ま、皆が楽しそうだったからいっか。お前らも仲良くしろよ」

 彼はそれだけ言うと、お茶のペットボトルを買って戻っていく。

「……全然気づかれてないね」

 朔也がこそこそと言うと、山宮がちらりとこちらを見上げた。

「気づかれると普通じゃねえと思われる?」
「単純に恥ずかしい。あと、書道以外にも興味あったのって言われそう」

 朔也の返事に「それはあり得るわ」と山宮が小さく笑った。
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