どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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2巻【一】

7オリエンテーション

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「ま、一年生が入ってきて先輩になれるのもいいけどさ、やっぱり二年生と言ったら五月のオリエンテーションだろ」

 一人の言葉にその場の全員が「だよな!」と頷いた。急に皆のテンションがあがって声が明るくなる。

「学校所有のレジデンスがあるなんてすげえよ。さすが私立」
「宿泊施設だけじゃなくて体育館とかあるって」
「バドミントン部は夏休みに合宿で行ったらしいぜ」

 ゴールデンウィーク後から二泊三日、二年生はオリエンテーションと称した宿泊行事がある。五月考査の試験範囲が発表される二週間前を控え、進路を見据えた勉強に向かう姿勢を整えるという目的が一つ。そしてもう一つは生徒たちの交流らしい。二年生以降、理系や文系、選択科目などで人間関係が偏るため、クラスを超えて交流するというのが学校側の意図なのだそうだ。

 昨年それらを先輩から聞いたとき、朔也の胃はずっしりと重くなった。普段から悪目立ちしないよう人間関係に気を遣っている朔也にとって、「交流」なんてものは一番やりたくないものだったからだ。山宮はそんな朔也が素を出せばいいと背を押してくれた人物で、他のクラスメイトにも少しずつ本来の自分を出せているのだろう。それを受け入れてもらえる環境ができつつあることが嬉しい。

 キーンコーンカーンコーン。予鈴が鳴ってそれぞれが「お」と反応する。

 ちょっとトイレに行ってくるねと席を立ち、ハンカチで手を拭きながら戻ってくるとクラスメイトの殆どが席に着いていた。

「なんだ、お利口さんなクラスだな」

 チャイムとともにやって来たのは、昨年と同じく学年主任を務める担任の教師だった。

「今日のロングホームルームはオリエンテーションについてだ」

 タイムリーな話題に隣の席の男子と目が合う。にっと笑って親指を立ててきたので、笑顔を返した。いつもなら眠たい空気が漂う五時間目の教室内もざわつき、楽しみといった声があちらこちらからあがる。

「まず、しおりを配る」

 前の生徒から渡された冊子から一冊取り、残りを後ろへ回す。現代文の教科書と同じサイズの冊子をぱらぱらと捲ると、独特なインクのにおいがした。中には日程の他に施設内の地図なども載っている。渡り廊下を挟んでA館とB館があり、どちらも四階建てだ。大浴場がそれぞれ二つあったから、全七クラスの生徒数に合わせているのだろう。体育館やテニスコートと書かれたところもあり、敷地面積は広そうだ。

 担任から詳しい流れを聞く。一日目は主に観光と講話。学校からバスに乗り、レジデンスに向かう途中で数ヶ所の観光スポットに立ち寄る。進路について話を聞き、残りが自由時間となる。

 二日目はディベート大会。一本の映画を鑑賞し、その映画が取り上げた問題を賛成派と反対派に分かれて討論する。それが終わったら夜はレクリエーションだ。要は勉強と運動の両方をということだろう。ディベートのようなはっきりとした意見を言うのが苦手な朔也にとって、少し気が重い日になりそうだ。

 最終日の三日目は施設の掃除を行って帰途につく。昼過ぎに学校側の駅で解散だ。

 担任の話を聞きながら少し緊張してきた。朔也は中学のときに宿泊行事に参加していない。ちょうど学校に行かなくなっていた時期にあったので、こういったものは小学校以来だ。

「ではグループ分けをする。まず三人か四人の班を作り、二つの班を同じ部屋にする。施設での行動は基本的に部屋のメンバーと一緒。メンバーの名前を紙に書くこと」

 教師の言葉に一斉にガタガタッと椅子から立ち上がる音がした。

「ね、一緒の班になろ」
「すっごい楽しみ! 自由時間ってなにをするのかな」

 女子が華やいだ声を出して、急に教室中が騒がしくなった。出遅れた朔也が焦ったところへ、体操部の男子三人が「一緒の班になろうぜ」と笑顔でやってくる。

「あ、ありがとう。よろしく」

 ほっとした朔也の手元に「はい」と紙が差し出された。

「班員の名前。ここは書道部の出番だろ!」

 その言葉に笑って名前を書き出すと、机を囲む三人が「おお」と小さく声をあげた。

「字、上手すぎ」
「教科書かよ」
「人間の手で書いてる?」

 よくよく思い返してみれば、二年生になってまだ黒板になにかを書く場面には出会っていなかった。ありがとと言って自分の名前を最後に書いたとき、担任がぱんぱんと手を打った。

「そろそろ決まったか? 次は同部屋になる班を決めてくれ」

 体操部三人がどうすると目を合わせたとき、「朔ー!」と声が飛んできた。去年も同じクラスの副委員長だ。

「そっち四人? こっち三人。一緒にならない?」

 朔也が頷く前に、「あ、よろしく」と体操部員一人が返事をした。あっさりと班決めが終わって、緊張で心臓がどきどきしていたことが恥ずかしくなったくらいだ。

「そっちの班って誰?」
「俺と佐々木と山宮」

 副委員長の言葉に顔をあげてそちらを見た。山宮がもう一人の男子と喋っている横顔が見える。教室では孤高男子で静かな山宮も、出席番号の近い副委員長とは去年から話していた印象がある。今年も新たにそういう相手を見つけたらしい。

 山宮と同じ部屋。

 思ってもみなかった展開に一気に顔が熱くなって、別の意味で心臓が音を立て始めた。緊張から打って変わってわくわくする気持ちが込み上げてきて、我ながら現金だなと苦笑する。だが、施設の案内を見たときに、はたとその事実に気づいて体がかちんと固まった。

──お風呂の時間、山宮と一緒だ。
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