どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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1巻【七】

3 終業式前日

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「現代文は」
「59」
「おれ、94。次、数学ね」
「44」
「お、少しあがったじゃん。92。次、家庭科」
「53」
「95。さあ、有終の美を飾る保健は?」
「……61」
「六十点台おめでとう! おれ、98」
「ああああクソ!!」

 山宮がばっと答案用紙を宙に放った。放送室内にひらひらと舞い落ちる答案用紙を朔也が拾い集めていると、山宮が悔しそうに頭を抱えた。

「なんで俺は勉強ができねえんだ。マジで意味分かんね……」
「放送部なら原稿を読むじゃん。国語関係はもっとできるんじゃない?」
「形容詞形容動詞が登場したときに俺は思った。国語はもう俺の知る国語じゃねえ」

 くしゅん、と山宮が何回目かのくしゃみをした。花粉症がつらいと言ってマスクはつけっぱなしだ。あまり扉の開閉を行わない放送室内にも彼の敵は入り込んでしまっているらしい。

 朔也は拾った古典の答案を眺めた。冬休みに教えた問題は全問正解だったが、三学期に習った部分は全滅している。他の答案用紙もぱらぱらと捲ったが、途中から真っ白になっている教科もあった。

「山宮って、納得するまで問題文を理解しようとして時間が足りなくなるんじゃ? 数学は明らかに時間配分を間違えてるよ。あとは暗記の仕方に問題があるな。exの単語を何度書いても、文章と一緒に覚えないとどう使うのか分からないだろ。つまり、山宮は勉強ができないんじゃなくて要領がよくないタイプね」

 すると前髪とマスクに挟まれた目がじとっと非難するようにこちらを見た。

「そこまで分かってんなら試験前にアドバイスしてくれてもよくね」
「分かったのは今だから。冬休みからの様子と今回の結果を見て考察しただけ」
「春休み花粉アンド宿題注意報。各教科から出されたプリントの量がやべえ」
「ん、頑張って」
「頑張って、じゃねえよ。誰かに教えてもらわねえとできねえわ。ちゃんと教えろよな」

 それを聞いた朔也の心がぽかぽかとした。明日の終業式で同じ教室で過ごした一年D組は終わる。だが、自分たちの関係は終わらない。

 そこでまた山宮がくしゃみをした。

「健康祈願のお守り、効かねえな……」

 山宮が鞄に揺れる紺色のお守りをつつく。
「花粉は守備範囲外じゃない? 薬は?」
「アレルギー科の姉貴に処方してもらったけど、眠くなるから飲みづれえんだわ」

 突然、山宮が足を向こう側に投げ出してカーペットの床にごろんと転がった。やれやれと言わんばかりにため息をつく。

「ようやく一年が終わった……赤点をとらずに終えられて気抜けたわ」
「赤点をとると家族に怒られるの?」
「家じゃなんも言われねえけど、この学校じゃ赤点とったら部活停止だろ」
「下校放送の一分ちょっとのために放課後放送室に残って、朝もなにかあったときのために待機して、その間に宿題や課題をやってたんだもんね。部活と勉強の両立を地で行ってるよ」
「朝で思い出した。明日の朝、俺ここにいねえから」
「えっなんで?」
「終業式だろ。マイクの準備やら式中の音響関連やんなきゃなんねえんだわ」
「そうか、それで十二月の終業式のときもクラスにいなかったのか」
「舞台の内側に小部屋があるから見てみ。出席番号順に並ぶなら折原からも見えるんじゃね」

 へえ、と朔也は思った。放送部のことも山宮のこともまだまだ知らないことがたくさんある。
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