どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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1巻【四】

2 俺とお前だけの秘密

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「え、えっと」

 途端に背に汗が噴き出した。

 昨日、呼び出したのはプレゼントしたいものがあっただけなんだ。本当にごめん。それに、今井と喋ってるのを聞いちゃったんだ。罰ゲームで好きって言うの、あれ、本気だったんだ。全然分からなかったよ。

 いろいろと言いたい言葉は浮かんでくるが、言葉にならない。朔也を見る彼は真顔で、自分に好意を寄せているようには見えなかった。

「あー……」

 朔也は頬を掻いて無理矢理言葉を捻り出した。

「山宮がすごく慌ててたから、なにかあったのかなと思っただけ」
「ああそう」

 山宮が飲み干したペットボトルを鞄に戻しながら言う。

「折原、模試に向けて勉強すんじゃねえの。教室で単語帳でも見てろよ」

 いつも通りの山宮の口調が今日はなんだか突き放すように聞こえる。だが、ここで逃げ出したら二度と山宮と向き合えないような気がした。腹をくくった朔也は唾を呑み込むと、思い切って「ここで見てもいい?」と尋ねた。

「あ? なんで」
「ええっと、ここ、静かで集中できそうだから」

 すると山宮が少し考えるふうな表情をし、「ま、いっか」と呟いた。

「折原、放送室で勉強したって誰にも言うなよ」
「え? うん、分かった、言わない」
「放送室っていろいろ高い機材があるからさ、部外者をあんまり入れないようにってことになってるから」

 そこで小さく山宮が笑った。

「だから、内緒な。俺とお前だけの秘密」

 俺とお前だけの。山宮の言葉に何故か顔が火照りそうになり、朔也は慌てて鞄を引き寄せた。その一方で安堵する。山宮が教室へ戻れと言ったのは、話したくないという意味ではなかったのだ。

「そ、そうなんだ。うん、分かった」
「……で? 模試、どこを対策しておけばいいわけ。ついでに教えろよ」
「模試の範囲なんてあってないようなもんだし、自分の苦手なところを見ておいたらいいんじゃない?」
「お前、俺の成績を知りながらよくもそんなことが言えんな。苦手だらけでどこから手をつけたらいいのか分かんねえわ」
「あはは、確かに」
「今のは否定するところじゃね」

 会話が順調に滑り出し、朔也は英単語帳を取り出そうと鞄を覗き込んでそれを思い出した。神社で買った、お守りの入った白い紙袋。

「……山宮、これ、あげる」

 驚いた表情で袋を受け取った山宮に、朔也は顔の前でぱんっと手を合わせた。

「昨日はふざけてごめん。ただそれを渡したかっただけなんだ」

 朔也の言葉に山宮が黙って袋からお守りを取り出した。その手の中に収まる紺色のお守りは、彼に似合っているように見えた。

「……健康祈願?」
「書道部で筆供養のために初詣に行ったんだ。そのときに買ったお守り」
「……なんで俺に?」
「それ見たときにマスクしてる山宮のこと思い出して。先生もインフルにかかってたし、ちょうどいいかなって思って買っちゃったんだ」

 とってつけたような理由だったが、お守りをじっと見つめた山宮が「サンキュ」と言った。その声が心なしかいつもよりも浮ついていて、朔也はちらりと覗く彼の耳が少し赤くなってることに気づいた。

――もしかして、照れてる?

 そこでようやく朔也は彼が自分を好きなのだということを少しだけ実感した。が、すぐに山宮の口がへの字に曲がった。すぐにこちら側の手が頭を掻き、学ランの袖で顔が隠れる。

「理由も聞かずに引っぱたいたのに、俺も謝ってなかったわ。悪りい」
「ああいうこと嫌だったんだもんね? それなのにふざけたおれが悪いって分かってるから」

 朔也の言葉に山宮の腕が下におりた。隠れていた顔が心なしかほっとしたような表情に変わる。

 マスクがないから、表情を読まれたくなくて隠したのか。山宮って、案外分かりやすいのかも。

「……で、フデクヨウってなに」

 山宮が再び顔を腕で隠すようにして頭を掻く。その口調もいつもより心なしかぶっきらぼうだ。

「使い終わった筆を神社に持っていって供養してもらうんだ。お札供養とかと同じ。書道部では毎年使い終わったのを初詣に行って供養してもらってるんだって」
「へえ。わざわざ行くなんて面倒じゃね」
「そう? 神社に行くと気分いいよ。初詣は混んでたけど、普段は静謐で、霊験あらたかって感じでおれは好き」

 そう言って少し笑うと、山宮が呆れ顔になる。

「折原ってジジくさ……。高校生で神社好きって、あんまいなくね」
「そう? 委員長も神社は好きって言ってたな」

 すると山宮が「確かに好きそう」と呟く。

「委員長はパタパタするノートに筆で書くやつ……あれを集めてそうじゃね」
「御朱印のこと? おれも書いてもらうよ。季節限定のものがあったりして、始めるとはまっちゃうんだよね」

 結局朝会直前まで朔也たちはお喋りをして過ごした。放送室を出るとき、彼がそっとお守りの入った袋をしまうのを見、心に爽やかな風が通り抜けるのを感じた。
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