24 / 145
1巻【三】
5 凍てついた空気
しおりを挟む
山宮のてのひらが痛いくらいぐぐっと力を込めて朔也の口を押さえつけてくる。口を塞ぐように当たるマスクのせいで息苦しい。学ランの袖を引っ張ると、はっとした表情に変わった山宮の手からふっと力が消えた。反動で吸い込んだ冷たい空気が肺の奥まで入り込む。
「びっくりした! いきなりどうしたの?」
「……そういうのは、聞きたくない」
黒髪の頭が垂れて力なく同じ言葉を繰り返す。すぐに察してにやっとする山宮を想像していた朔也は、予想外の反応に戸惑った。
「え? どうしたの? 山宮、散々同じ罰ゲームしてきたのに」
「……それは、否定できねえけど」
「おれを利用しておいて、自分はされたくないってこと? それってちょっとずるくない?」
「……そう、だな。悪りい」
謝罪の声が暗い。朔也は気まずくなった空気の中、山宮の頭を見つめた。が、暫し待っても彼は顔をあげない。朔也はその居心地の悪さを振り切るように膝を曲げて彼の顔を覗き込んだ。
「山宮ってばバカだな! 好きって言われると思った? 違うって。本当は」
バシッ。先ほどよりも大きな音がして視界が揺れた。凍てついた空気が朔也の頬を撫で、そこがじんじんと痛み出す。
山宮に、叩かれた。
一拍遅れて理解した朔也の目が見開いた。頬をはたいた山宮の右手が宙に浮いている。
「てめえ、ふざけんなよ!」
語気の荒い口調がこちらの心をも引っぱたいた。ひりひりとする頬に手を当てながら、山宮の突然の変わり様に唖然とする。ぎりっと噛みしめた歯の隙間から荒い呼吸が漏れ、怒りに顔を赤くさせた山宮がこちらを睨み上げていた。
「聞きたくねえっつったろ! 人の話を聞かねえやつだな!」
そして一転、怒気を孕んだ目が見る見るうちに赤くなっていく。ぐっと握った手の甲に浮いた筋が見えた。薄いくちびるの間から漏れる白い息が二人の間を抜ける風に揺れて消える。なにかを言おうとして開いた口が躊躇うようにゆっくりと閉じ、伏せられた目は前髪に隠れた。
「……俺、部活、行かなきゃなんねえから」
「え? 山宮、ちょっと待って」
「もう、行くわ」
小さな捨て台詞とともに学ランの背が踵を返した。濃紺の後ろ姿がこちらの視線を振り切るように遠ざかる。早足で校舎へと消えた背中に朔也はぽかんとした。
――そういうのは聞きたくねえ。
なに言ってんの。山宮、何度もおれに同じことを言ってきたのに。なんで、そんな、怒るんだよ……。
渡せなかったお守りの袋が朔也の手の中でくしゃりと曲がった。
「びっくりした! いきなりどうしたの?」
「……そういうのは、聞きたくない」
黒髪の頭が垂れて力なく同じ言葉を繰り返す。すぐに察してにやっとする山宮を想像していた朔也は、予想外の反応に戸惑った。
「え? どうしたの? 山宮、散々同じ罰ゲームしてきたのに」
「……それは、否定できねえけど」
「おれを利用しておいて、自分はされたくないってこと? それってちょっとずるくない?」
「……そう、だな。悪りい」
謝罪の声が暗い。朔也は気まずくなった空気の中、山宮の頭を見つめた。が、暫し待っても彼は顔をあげない。朔也はその居心地の悪さを振り切るように膝を曲げて彼の顔を覗き込んだ。
「山宮ってばバカだな! 好きって言われると思った? 違うって。本当は」
バシッ。先ほどよりも大きな音がして視界が揺れた。凍てついた空気が朔也の頬を撫で、そこがじんじんと痛み出す。
山宮に、叩かれた。
一拍遅れて理解した朔也の目が見開いた。頬をはたいた山宮の右手が宙に浮いている。
「てめえ、ふざけんなよ!」
語気の荒い口調がこちらの心をも引っぱたいた。ひりひりとする頬に手を当てながら、山宮の突然の変わり様に唖然とする。ぎりっと噛みしめた歯の隙間から荒い呼吸が漏れ、怒りに顔を赤くさせた山宮がこちらを睨み上げていた。
「聞きたくねえっつったろ! 人の話を聞かねえやつだな!」
そして一転、怒気を孕んだ目が見る見るうちに赤くなっていく。ぐっと握った手の甲に浮いた筋が見えた。薄いくちびるの間から漏れる白い息が二人の間を抜ける風に揺れて消える。なにかを言おうとして開いた口が躊躇うようにゆっくりと閉じ、伏せられた目は前髪に隠れた。
「……俺、部活、行かなきゃなんねえから」
「え? 山宮、ちょっと待って」
「もう、行くわ」
小さな捨て台詞とともに学ランの背が踵を返した。濃紺の後ろ姿がこちらの視線を振り切るように遠ざかる。早足で校舎へと消えた背中に朔也はぽかんとした。
――そういうのは聞きたくねえ。
なに言ってんの。山宮、何度もおれに同じことを言ってきたのに。なんで、そんな、怒るんだよ……。
渡せなかったお守りの袋が朔也の手の中でくしゃりと曲がった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。


婚約破棄された王子は地の果てに眠る
白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。
そして彼を取り巻く人々の想いのお話。
■□■
R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。
■□■
※タイトルの通り死にネタです。
※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。
※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移要素はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる