どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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1巻【三】

5 凍てついた空気

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 山宮のてのひらが痛いくらいぐぐっと力を込めて朔也の口を押さえつけてくる。口を塞ぐように当たるマスクのせいで息苦しい。学ランの袖を引っ張ると、はっとした表情に変わった山宮の手からふっと力が消えた。反動で吸い込んだ冷たい空気が肺の奥まで入り込む。

「びっくりした! いきなりどうしたの?」
「……そういうのは、聞きたくない」

 黒髪の頭が垂れて力なく同じ言葉を繰り返す。すぐに察してにやっとする山宮を想像していた朔也は、予想外の反応に戸惑った。

「え? どうしたの? 山宮、散々同じ罰ゲームしてきたのに」
「……それは、否定できねえけど」
「おれを利用しておいて、自分はされたくないってこと? それってちょっとずるくない?」
「……そう、だな。悪りい」

 謝罪の声が暗い。朔也は気まずくなった空気の中、山宮の頭を見つめた。が、暫し待っても彼は顔をあげない。朔也はその居心地の悪さを振り切るように膝を曲げて彼の顔を覗き込んだ。

「山宮ってばバカだな! 好きって言われると思った? 違うって。本当は」

 バシッ。先ほどよりも大きな音がして視界が揺れた。凍てついた空気が朔也の頬を撫で、そこがじんじんと痛み出す。

 山宮に、叩かれた。

 一拍遅れて理解した朔也の目が見開いた。頬をはたいた山宮の右手が宙に浮いている。

「てめえ、ふざけんなよ!」

 語気の荒い口調がこちらの心をも引っぱたいた。ひりひりとする頬に手を当てながら、山宮の突然の変わり様に唖然とする。ぎりっと噛みしめた歯の隙間から荒い呼吸が漏れ、怒りに顔を赤くさせた山宮がこちらを睨み上げていた。

「聞きたくねえっつったろ! 人の話を聞かねえやつだな!」

 そして一転、怒気を孕んだ目が見る見るうちに赤くなっていく。ぐっと握った手の甲に浮いた筋が見えた。薄いくちびるの間から漏れる白い息が二人の間を抜ける風に揺れて消える。なにかを言おうとして開いた口が躊躇うようにゆっくりと閉じ、伏せられた目は前髪に隠れた。

「……俺、部活、行かなきゃなんねえから」
「え? 山宮、ちょっと待って」
「もう、行くわ」

 小さな捨て台詞とともに学ランの背が踵を返した。濃紺の後ろ姿がこちらの視線を振り切るように遠ざかる。早足で校舎へと消えた背中に朔也はぽかんとした。

――そういうのは聞きたくねえ。

 なに言ってんの。山宮、何度もおれに同じことを言ってきたのに。なんで、そんな、怒るんだよ……。

 渡せなかったお守りの袋が朔也の手の中でくしゃりと曲がった。
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