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1巻【三】
1 筆供養
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【三】
パンパン。
手を打ち鳴らす音が快晴に吸い込まれた。筆の奉納箱の前で両手を合わせて目を瞑る。心の中で「ありがとう」と礼を言うと、朔也は目を開けた。清々しい空気に気持ちがすっきりとする。正月の空にたなびく雲は真っ白で、見上げる朔也の口からも白い息が出た。
始業式を翌日に控えた一月七日の初詣は多くの人で混雑していた。老若男女入り乱れ、拝殿に向かう幅十メートルほどの道がごった返している。破魔矢や熊手を持つ人、華やかな着物の後ろ姿も見えて、三が日を過ぎたとは言え、突き抜けるような青空の下には新年の空気が残っていた。
「御朱印の二人はどこまで行ったかな。折原君、見える?」
背伸びした部長の言葉に朔也はそちらに目線を向けた。だが、社務所の前は満員電車並みに人が集まっており、背の高い朔也でもオレンジのマフラーの今井たちを見つけられない。
筆供養の初詣に集まった書道部員は朔也を含めて五人だった。筆を納める三人と御朱印をもらう二人に分かれたのだが、なにせ人混みがすごすぎる。
「人が多すぎて見えないですね」
「それじゃあ集合場所のお守りのところに行こうか。先輩もそれでいいですか」
部長の言葉を聞いた三年生の先輩が頷く。
「いいんじゃないか。俺も合格祈願のお守りを見たいし」
あれ、先輩は推薦で付属大学に決まってたんじゃなかったっけ。その疑問が朔也の顔に出たらしい。こちらを見て彼はからっと笑った。
「弟が中三なんだ。もうすぐ入試だからさ」
それを聞いて朔也も朝早く予備校に出かけた姉のことを思い出した。姉のゆうは高校三年生で、国立を第一志望校にしている。朔也たちがお守りの並ぶところへ行くと、運よく御朱印をもらいに行った今井たち二人と合流できた。
「すっごく混んでましたよ! あ、朔ちゃん、これ」
笑顔の今井から朱印帳を「ありがと」と受け取る。紺色の表を捲ると、「お」と先輩が手元を覗き込んできた。
「袴の絵の印をもらえるのか。初めて来たから知らなかった」
「はい、おれ、ここに来るのが楽しみだったんです。袴なんて書道パフォーマンスに縁起がよさそうで」
今年こそ本戦で選手になりたい。そのためにも、卒業式のパフォーマンスを成功させなければ。
朱印帳を持つ手に自然と力がこもる。朔也は押されたばかりの印をじっと見つめた。
パンパン。
手を打ち鳴らす音が快晴に吸い込まれた。筆の奉納箱の前で両手を合わせて目を瞑る。心の中で「ありがとう」と礼を言うと、朔也は目を開けた。清々しい空気に気持ちがすっきりとする。正月の空にたなびく雲は真っ白で、見上げる朔也の口からも白い息が出た。
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「すっごく混んでましたよ! あ、朔ちゃん、これ」
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