どうあがいても恋でした。

タリ イズミ

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1巻【二】

8 下校時刻2

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「……ごめん」

 朔也が謝ると、山宮がきょとんとしたようにこちらを見た。

「おれ、山宮がこういうことをしてるって知らなかったし、書道部に関わってたことも知らなかった。他人に興味ないって、この間言われた通りだった。反省した」

 するとそのときの会話を思い出したのか、山宮が「あー……」と少し俯いた。さらりと垂れた髪からぴょんと耳が覗き、かりかりと頭を掻く。

「そんなふうに言われたら恥ずいわ。あんときちょっといらいらしててさ、俺も言い過ぎたし」

 室内の空気が緩む。防音の部屋は学校内にいるのにそれを感じさせる音が聞こえてこない。だからこそ、山宮の感情が部屋いっぱいに広がるのだ。

 台本を「ありがとう」と返すと、山宮は大切そうに鞄にしまった。

「改めて山宮のすごさが分かった。ホント反省。文化祭での書道パフォーマンスもここで音楽を流してたのか」
「正解。すごいのは設備だけどな。俺はただ部活を楽しんでるだけ」
「それってすごいな……おれが書道してたってなんの役にも立たないし」
「それは違くね。お前の字を見て書道やりたくなるやつがいるかもしんねえし、いつ誰の役に立つかなんて分かんねえだろ」

 そこで山宮がにやっとする。

「自分の名前が線対称って知ったやつもいるぜ」

 その言葉に朔也は笑ってしまった。今更ながらはしゃいだ自分が照れくさい。

「だって、山宮基一って書体を変えれば完璧に線対称になるから、すごい発見だと思ったんだって」
「大発見したところ悪いな。俺の名前、『きいち』じゃねえんだわ。『もとい』。始めは基だけでもといだったんだけど、じいちゃんが長男に一を入れたいって言って、基一でもといになった」
「えっ、ごめん! 人の名前を間違えるとか、おれ、すごく失礼じゃん! きいちって連呼したし」
「たいしたことじゃねえわ。よく間違われるから俺も普段は訂正しねえし。知ってんの、担任と英語の先生くらいじゃ」

 そこで山宮の言葉が不自然に途切れた。一瞬考え込んだ様子に、朔也もはっとする。

「あ」
「あ!」

 二人の声が重なった。

『MOTOI、線対称!!』

 顔を見合わせ、同時に噴き出した。機械に囲まれた無機質な空間に二つの笑い声が重なる。

「ははっ、山宮はいいなあ。漢字圏でも英語圏でも線対称!」
「線対称に美意識感じてんの、お前だけだから。でも、自分の名前がどっちも線対称とか、全然気づかなかったわ」

 しみじみと噛みしめるように山宮が頷く。

「おれの中学に春岡先生っていう先生がいたんだけど、下の名前も美しい南でみなみでさ。憧れだったよ、名前が」
「名前が」

 折原ってやべえ。くくっと山宮が笑う。今日初めて見た山宮の笑顔は教室に溶け込んでいる人物とは別人のようだった。

「……もう一つ発見があった。山宮って結構笑うんだ」
「俺も発見があった。お前が結構面白れえやつってこと」

 再び二人でぷっと噴き出す。

「ちなみに、他にお勧めの名字はあんの?」
「小林さんは王道で好き。東出さんは明るくて高市さんは渋い!」
「小はちょっと違くね」
「それは楷書で考えてるから。中谷さんはどう?」
「お、いいな。俺でも分かる線対称だわ」
「下の名前に真とか文とかあると更にいいと思う」
「姉貴二人いるけど、一文字で茜と葵。微妙にぽくね?」
「それすごい! 山宮の家ってきょうだい皆すごいじゃん! おれも姉ちゃんいるんだけど、夕方生まれだからひらがなでゆう」
「折原ん家の名づけって面白いよな。姉ちゃん、夜に生まれたらどうなったんだよ」
「さよ、だったらしい。真夜中ならまよ、朝ならあさひ、昼ならまひる」
「そのセンス最高だわ」

 そこで山宮がなにかに気づいたようにミキサーの隣の棚を見た。それを目で追うと、一つの黒いデッキに白字で時刻が浮かんでいるのに気づく。17:28:46。
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