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1巻【二】
1 クリスマスホームルーム1
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【二】
「おーいチャイム鳴ったぞ、座れー」
自宅学習期間明けのクリスマス、終業式のために登校すると朔也たちのクラスに学年主任の教師がやって来た。
「あれ、先生どうしたんですか?」
「舞子先生は?」
「今日は茂先生かあ」
教室に生徒の声が飛び交う。朔也たちの担任は高橋舞子という女性教師だ。同じ名字の学年主任がいるため、皆それぞれを下の名前で呼んでいる。
「コラ、悪かったな俺で。舞子先生はインフルエンザでお休みだ。お前たちに移していないか心配なさってたぞ」
「はいっ、今井、出席確認しました! 皆元気です!」
明るい今井の声に学年主任が笑顔になる。
「体調に異変を感じたら言うんだぞ。このあとは体育館で終業式が始まるから、全員廊下で出席番号順に並べ」
はい、と皆がそれぞれ立ち上がった。朔也もいつものカーディガンから学ランに着替え、日直の持つ貴重品袋にスマホと財布を入れる。廊下で二列に並ぶと、中庭に接した窓のほうからひんやりとした空気が漂ってくる。
今井や副委員長が人数を数えている間、朔也は寒さに首を縮めながら何気なく中庭を見下ろした。何日か前、そこで告白されたことを思い出して苦笑する。食堂で言葉を交わして以来、山宮とは話していない。あれから昼休みに食堂に行っても彼に会わなかったからだ。
補習や部活がなかったのか、それとも別の事情なのか分からなかったが――そういえば、放送部ってどんな部活なんだ? 朔也が首をひねったところへ、副委員長の「あれ」という声が聞こえてきた。
「一人足りないんだけど?」
「山宮君でしょ、終業式だし」
「そうか。じゃあ人数オーケー。報告よろしく」
二人のひそひそとした会話のあと、今井が学年主任にそれを告げる。すぐに声がかかり、朔也たちのクラスは廊下を歩き出した。目の前の揺れるポニーテールの肩をつつく。
「山宮、休みなの?」
「うん? いるよ、先に体育館に行ってる」
「なんで?」
「式のときはいつもそうでしょ」
今井が続きを言おうとしたところへ「今井と折原」と学年主任がちらりと振り返った。
「お喋りは禁止。廊下は静かにな」
「はい、すみません」
すぐに朔也たちは口をぴたりと閉じた。乱れる足音の中体育館へ入る。表につながる扉から隙間風が入っているのか、まるで外にいるような寒さだ。
「さっむ」
「早く終われ……」
「なんでセーター着ちゃいけないの」
「冬の正装嫌い」
学ランとセーラー服が集まる中、小さく不満の声がここそこと聞こえる。朔也もさむ、と声を漏らしながらなんとなく体育館を見回して山宮を探した。身長のおかげで視界が開けている。が、きょろきょろとしていると再び「折原」と学年主任の小さな声が飛んできたので、小さく頭を下げてまっすぐ前を向いた。
校長訓話や校歌斉唱等お決まりの流れをこなすと、生徒たちは教室に戻った。そこからは答案返却や冬休みの課題配布等のホームルームになる。
クラスメイトの多くが正装を解いてセーターなどを着るのに倣い、朔也も学ランを脱いで楽なカーディガンを羽織った。
ずいぶん寒いが今日は天気がもつだろうか。
そう思って外窓を見やると、自席にちょこんと山宮が座っていた。いつも通りマスクをつけて、なにを考えているのか頬杖をついて外を眺めている。いつ山宮がクラスメイトの元に戻ってきたのか、朔也は全く気づいていなかった。
前の席に座る副委員長が山宮に何事か話しかけた。山宮がマスクのままそれに答える。なにか楽しい話でもしているのだろうか、少し笑ったように見えた。
――いいよな、いかにも男子高校生って感じ。
長めの黒い髪に小さな顔、濃紺の詰め襟でいつもより小さく見える体。力を入れれば壊れてしまう人形のようにも見えるが、芯の強さがぴっと伸びた背筋に表れている。
「おーいチャイム鳴ったぞ、座れー」
自宅学習期間明けのクリスマス、終業式のために登校すると朔也たちのクラスに学年主任の教師がやって来た。
「あれ、先生どうしたんですか?」
「舞子先生は?」
「今日は茂先生かあ」
教室に生徒の声が飛び交う。朔也たちの担任は高橋舞子という女性教師だ。同じ名字の学年主任がいるため、皆それぞれを下の名前で呼んでいる。
「コラ、悪かったな俺で。舞子先生はインフルエンザでお休みだ。お前たちに移していないか心配なさってたぞ」
「はいっ、今井、出席確認しました! 皆元気です!」
明るい今井の声に学年主任が笑顔になる。
「体調に異変を感じたら言うんだぞ。このあとは体育館で終業式が始まるから、全員廊下で出席番号順に並べ」
はい、と皆がそれぞれ立ち上がった。朔也もいつものカーディガンから学ランに着替え、日直の持つ貴重品袋にスマホと財布を入れる。廊下で二列に並ぶと、中庭に接した窓のほうからひんやりとした空気が漂ってくる。
今井や副委員長が人数を数えている間、朔也は寒さに首を縮めながら何気なく中庭を見下ろした。何日か前、そこで告白されたことを思い出して苦笑する。食堂で言葉を交わして以来、山宮とは話していない。あれから昼休みに食堂に行っても彼に会わなかったからだ。
補習や部活がなかったのか、それとも別の事情なのか分からなかったが――そういえば、放送部ってどんな部活なんだ? 朔也が首をひねったところへ、副委員長の「あれ」という声が聞こえてきた。
「一人足りないんだけど?」
「山宮君でしょ、終業式だし」
「そうか。じゃあ人数オーケー。報告よろしく」
二人のひそひそとした会話のあと、今井が学年主任にそれを告げる。すぐに声がかかり、朔也たちのクラスは廊下を歩き出した。目の前の揺れるポニーテールの肩をつつく。
「山宮、休みなの?」
「うん? いるよ、先に体育館に行ってる」
「なんで?」
「式のときはいつもそうでしょ」
今井が続きを言おうとしたところへ「今井と折原」と学年主任がちらりと振り返った。
「お喋りは禁止。廊下は静かにな」
「はい、すみません」
すぐに朔也たちは口をぴたりと閉じた。乱れる足音の中体育館へ入る。表につながる扉から隙間風が入っているのか、まるで外にいるような寒さだ。
「さっむ」
「早く終われ……」
「なんでセーター着ちゃいけないの」
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校長訓話や校歌斉唱等お決まりの流れをこなすと、生徒たちは教室に戻った。そこからは答案返却や冬休みの課題配布等のホームルームになる。
クラスメイトの多くが正装を解いてセーターなどを着るのに倣い、朔也も学ランを脱いで楽なカーディガンを羽織った。
ずいぶん寒いが今日は天気がもつだろうか。
そう思って外窓を見やると、自席にちょこんと山宮が座っていた。いつも通りマスクをつけて、なにを考えているのか頬杖をついて外を眺めている。いつ山宮がクラスメイトの元に戻ってきたのか、朔也は全く気づいていなかった。
前の席に座る副委員長が山宮に何事か話しかけた。山宮がマスクのままそれに答える。なにか楽しい話でもしているのだろうか、少し笑ったように見えた。
――いいよな、いかにも男子高校生って感じ。
長めの黒い髪に小さな顔、濃紺の詰め襟でいつもより小さく見える体。力を入れれば壊れてしまう人形のようにも見えるが、芯の強さがぴっと伸びた背筋に表れている。
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