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第34話 魔王ですけど今夜は余所の国の王子の護衛してます
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よく考えるとおかしな話だ。魔王であるこのオレが、人間の国の王子の護衛をしてやるなどというのは。
オレが引き受けたのは、ガーゴイルの討伐。結果的に王子の護衛をすることになっただけだ。ただのついでなのだ。
オレは自分のプライドを守るために、頭の中で必死でそんな言い訳を考えていた。
そうなのだ。本来オレは、こんな王子などよりもはるかに身分の高い、魔王という至高の存在なのだ。心の広いオレが、弱小な人間を守ってやっているのだ。そこのところだけは、はき違えてはいけない。
「いやーヴォルト殿、そなたが僕の言う事を信じてくれて良かった。ところでそなたは、この国の騎士団でも倒せなかったガーゴイルを倒すために呼ばれたのだよな?だとしたら騎士団以上に強いということか?」
この男は、オレの今夜の護衛対象であるシャンダライズ王国第四王子マクシミリアン。
騎士団長スカーレットは、この男はずる賢いということで良い感情を抱いていなかった。オレも気を付けねばなるまい。
「その通りだ。先ほど練習場でスカーレットと手合わせをしてきたが、やつごときではこのオレに触れることもできなかったな。それにしても、この国の騎士団は弱すぎるようだな。オレが強すぎるというのもあるが」
「その通りかもしれん。戦争もないし、魔物退治は主に冒険者ギルドが行っているし、実戦経験のない者も多いのだろう。それよりもヴォルト殿。そなたそれだけの使い手というのであれば、僕の下で働かないか?給料ははずむぞ」
「勘違いするなよ?貴様何様のつもりだ?このオレがなぜ貴様ごときの下で働かねばならんのだ?」
オレが寛大すぎるのがいけないのか、たまに調子に乗る輩もいて、イラっとさせられてしまうことがある。
この男にも苛立ちを覚えてしまい、つい殺気を向けてしまう。
第四王子はオレの視線に震えあがり、そして前言を撤回する。
「や……やめたまえ!暴力はよくない。気に障ったのなら謝る。僕はただ、腕の立つ部下が欲しかっただけなのだ」
ふん、まあ許してやろう。勘違いし続けていたら、第一王子のように再起不能にしてやるところだった。
それにしてもオレの殺気を浴びても態度を崩さなかった第一王子は、逆にすごい男だったのかもしれないな。鈍感という意味で。
第四王子はそこまで鈍い男ではないようだ。
それはさておき、オレはこの第四王子の寝室を見て回る。
ガーゴイルが侵入できるとしたら扉からか、窓からということになる。
出入口の扉には兵士が二人立っているため、何かあったらすぐに知らせてくれるだろう。
窓には丈夫な鉄製の格子が、石壁に取り付けられている。ガーゴイルがこの鉄柵をガンガン叩いていたというが、それでも入ってこれないのであろう。もし今夜この窓に現れたら、鉄格子の隙間から≪魔法の矢≫を打ち込んでやろう。
「ど……どうだ?ガーゴイルがもし来たとしても大丈夫そうかな?」
部屋の中を確認していると、第四王子がまた話しかけて来た。
不安で仕方ないのだろう。
「ああ。むしろ早くガーゴイルに出て来てほしいくらいだ。さっさと討伐して終わらせたい」
「そなたはずいぶん自信があるようだな。本当にそなたのような部下がほしいところだ。国内にあるものなら金でもある程度思い通りにはなるのだが、この国には強い戦士というのがいないのだ」
「そうか……。ところでお前は国王になりたがっていたようだが、なぜだ?第二王子は体力面できつそうだからやりたがらないし、第三王子は知恵が足りないため難しいことがわからないからできないと言う。確かに国王になれば面倒なことばかりだろう。なのにお前はなぜなりたがる?」
「そんなの決まっているじゃないか。権力だ。国王というのはこの国で一番偉いのだぞ?何でも思い通りになるんだ。オズワルド兄者は何でも完璧にやろうとする性格のため、それをやるには体力がもたんのだ。僕はテディ兄者より知恵はあるし、そもそも知力がなくとも仕事は部下にやらせればいい。王たるものは椅子に座って命令するだけでいいのだ。逆にあの二人がなんでやりたがらないのかが不思議だよ」
「お前は権利には義務が付いてくるという事は知っているか?国王としての様々な権利を手に入れた時、国王として責任を取るという義務も一緒について来るのだぞ?むしろ権力よりも責任の方が重いくらいだ。信頼関係のある優秀な部下をたくさん持てれば楽かもしれないが、今のお前にそういう人脈はなさそうに見えるな。お前は第二王子のように政治には関わっていないのか?」
「な……何を?王子たるもの兄者たちのように働く必要なんかない!毎日遊んでいてもいいんだ!」
「だがそれだと、自分の代わりに仕事をさせる部下ががんばってくれないだろう。第二王子のように政務に携わっていれば、誰がどんな仕事をさせればいいかだんだん分かって来るものだしな。そう言えばお前の妹になる第一王女も政務に携わっているそうだな。年上として恥ずかしくないのか?」
「カーラは女だから王位につけないため、結婚するか働くかしかないのだ。良い婚約相手が見るかった時に困るから、あいつは必死で働いているのだ」
「だとしても魔法省のトップとか言っただろう?大したもんじゃないか。おまえも多少見習ったらどうだ?」
「ふん!あれのように若くて能力もない者がトップに立つと、やっかむ者も多いようだぞ。あれで務まってるのかどうか。少し前にも、魔法省の関連部門の魔法使いギルドで、魔石がテロリストに盗まれるという事件があったばかりだが、カーラは責任を取れと随分責められたようだぞ。まあそれについては騎士団が動いてくれて、国中探して魔石を取り戻してくれたから良かったものの。あれ一人では責任も取れないわ」
そう言えばサラから聞いたが、そんな事があったらしいな。
魔石は魔法使いギルドが高い金を出して買ったものらしいが、人間たちの手に余る物なのかもしれん。
それにしても、第四王子は国王という職業を甘く見ているようだ。これは魔界の王として、一つの国を統べる大変さを説教してやらないといけないなと思っていた時、窓の外にちらちらと空を飛ぶ物体が見えた。
オレが引き受けたのは、ガーゴイルの討伐。結果的に王子の護衛をすることになっただけだ。ただのついでなのだ。
オレは自分のプライドを守るために、頭の中で必死でそんな言い訳を考えていた。
そうなのだ。本来オレは、こんな王子などよりもはるかに身分の高い、魔王という至高の存在なのだ。心の広いオレが、弱小な人間を守ってやっているのだ。そこのところだけは、はき違えてはいけない。
「いやーヴォルト殿、そなたが僕の言う事を信じてくれて良かった。ところでそなたは、この国の騎士団でも倒せなかったガーゴイルを倒すために呼ばれたのだよな?だとしたら騎士団以上に強いということか?」
この男は、オレの今夜の護衛対象であるシャンダライズ王国第四王子マクシミリアン。
騎士団長スカーレットは、この男はずる賢いということで良い感情を抱いていなかった。オレも気を付けねばなるまい。
「その通りだ。先ほど練習場でスカーレットと手合わせをしてきたが、やつごときではこのオレに触れることもできなかったな。それにしても、この国の騎士団は弱すぎるようだな。オレが強すぎるというのもあるが」
「その通りかもしれん。戦争もないし、魔物退治は主に冒険者ギルドが行っているし、実戦経験のない者も多いのだろう。それよりもヴォルト殿。そなたそれだけの使い手というのであれば、僕の下で働かないか?給料ははずむぞ」
「勘違いするなよ?貴様何様のつもりだ?このオレがなぜ貴様ごときの下で働かねばならんのだ?」
オレが寛大すぎるのがいけないのか、たまに調子に乗る輩もいて、イラっとさせられてしまうことがある。
この男にも苛立ちを覚えてしまい、つい殺気を向けてしまう。
第四王子はオレの視線に震えあがり、そして前言を撤回する。
「や……やめたまえ!暴力はよくない。気に障ったのなら謝る。僕はただ、腕の立つ部下が欲しかっただけなのだ」
ふん、まあ許してやろう。勘違いし続けていたら、第一王子のように再起不能にしてやるところだった。
それにしてもオレの殺気を浴びても態度を崩さなかった第一王子は、逆にすごい男だったのかもしれないな。鈍感という意味で。
第四王子はそこまで鈍い男ではないようだ。
それはさておき、オレはこの第四王子の寝室を見て回る。
ガーゴイルが侵入できるとしたら扉からか、窓からということになる。
出入口の扉には兵士が二人立っているため、何かあったらすぐに知らせてくれるだろう。
窓には丈夫な鉄製の格子が、石壁に取り付けられている。ガーゴイルがこの鉄柵をガンガン叩いていたというが、それでも入ってこれないのであろう。もし今夜この窓に現れたら、鉄格子の隙間から≪魔法の矢≫を打ち込んでやろう。
「ど……どうだ?ガーゴイルがもし来たとしても大丈夫そうかな?」
部屋の中を確認していると、第四王子がまた話しかけて来た。
不安で仕方ないのだろう。
「ああ。むしろ早くガーゴイルに出て来てほしいくらいだ。さっさと討伐して終わらせたい」
「そなたはずいぶん自信があるようだな。本当にそなたのような部下がほしいところだ。国内にあるものなら金でもある程度思い通りにはなるのだが、この国には強い戦士というのがいないのだ」
「そうか……。ところでお前は国王になりたがっていたようだが、なぜだ?第二王子は体力面できつそうだからやりたがらないし、第三王子は知恵が足りないため難しいことがわからないからできないと言う。確かに国王になれば面倒なことばかりだろう。なのにお前はなぜなりたがる?」
「そんなの決まっているじゃないか。権力だ。国王というのはこの国で一番偉いのだぞ?何でも思い通りになるんだ。オズワルド兄者は何でも完璧にやろうとする性格のため、それをやるには体力がもたんのだ。僕はテディ兄者より知恵はあるし、そもそも知力がなくとも仕事は部下にやらせればいい。王たるものは椅子に座って命令するだけでいいのだ。逆にあの二人がなんでやりたがらないのかが不思議だよ」
「お前は権利には義務が付いてくるという事は知っているか?国王としての様々な権利を手に入れた時、国王として責任を取るという義務も一緒について来るのだぞ?むしろ権力よりも責任の方が重いくらいだ。信頼関係のある優秀な部下をたくさん持てれば楽かもしれないが、今のお前にそういう人脈はなさそうに見えるな。お前は第二王子のように政治には関わっていないのか?」
「な……何を?王子たるもの兄者たちのように働く必要なんかない!毎日遊んでいてもいいんだ!」
「だがそれだと、自分の代わりに仕事をさせる部下ががんばってくれないだろう。第二王子のように政務に携わっていれば、誰がどんな仕事をさせればいいかだんだん分かって来るものだしな。そう言えばお前の妹になる第一王女も政務に携わっているそうだな。年上として恥ずかしくないのか?」
「カーラは女だから王位につけないため、結婚するか働くかしかないのだ。良い婚約相手が見るかった時に困るから、あいつは必死で働いているのだ」
「だとしても魔法省のトップとか言っただろう?大したもんじゃないか。おまえも多少見習ったらどうだ?」
「ふん!あれのように若くて能力もない者がトップに立つと、やっかむ者も多いようだぞ。あれで務まってるのかどうか。少し前にも、魔法省の関連部門の魔法使いギルドで、魔石がテロリストに盗まれるという事件があったばかりだが、カーラは責任を取れと随分責められたようだぞ。まあそれについては騎士団が動いてくれて、国中探して魔石を取り戻してくれたから良かったものの。あれ一人では責任も取れないわ」
そう言えばサラから聞いたが、そんな事があったらしいな。
魔石は魔法使いギルドが高い金を出して買ったものらしいが、人間たちの手に余る物なのかもしれん。
それにしても、第四王子は国王という職業を甘く見ているようだ。これは魔界の王として、一つの国を統べる大変さを説教してやらないといけないなと思っていた時、窓の外にちらちらと空を飛ぶ物体が見えた。
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