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Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
第70話 貧民街の小悪党
しおりを挟む「怪我したら言ってくださいね!」
アルマはそう言ってロキたちを見送った。
アルマの言葉にルナが尋ねる。
「怪我をしたら?」
「あ、さっきの話の続きになるんですけど、私治癒魔法使いなんです。でも普段はだれも怪我しないんでほとんど出番ないんですけどね」
「まあ、珍しい!治癒魔法を使える人は神殿に仕えるものだと思っていたわ」
「それも考えたんですけど、何となく迷宮探索者の方がかっこよさそうだなと思って。実際はなかなか大変で、最初の頃は毎日泣きそうだったんですけど」
「今はどうなの?」
「ロキさんのレギオンに入れてもらってからは、毎日楽しいですよ!」
そう答えるアルマの笑顔につられ、ルナも自然と口角が上がる。
「そうなのね。良かった。それなら、神官になるよりそっちの方が絶対にいいわよ。神官になると恋愛も禁止だしね」
「えー!それは嫌ですねー、私は恋人作りたいですもん!」
「ウフフ、アルマちゃんは今は好きな人はいないの?」
「いないんですよ~。ルナさんはご結婚されているんですか?」
「私も独り身よ。恋人もいないわ」
「えー?そうなんですか?こんなにきれいなのに!」
「アルマちゃん、今日ずっとだけど、私の事めちゃくちゃ褒めてくれるわね」
「ルナさん、ロキさんとかどうです?」
「え?それは恋人候補としてどうかって意味で?」
「そうです」
「ロキさん若いでしょ?私みたいな行き遅れじゃロキさんに悪いわよ。私もう30過ぎよ」
「ロキさんは年上が好きらしいですよ」
「アルマちゃんは逆にロキさんはどうなの?ちょうどいい感じがするけど?」
「ロキさんはお父さんみたいな感じなんですよね。ルナさんはお姉さんって感じだから、二人がくっついたら嬉しいかもです」
「まあ!でも残念だけど、本当に私はそういう気持ちはないの」
「ロキさんまたフラれちゃいましたね。まだ告白もしてないのに」
★★★★★★★★
アルマとルナの二人が仲良く話をしている頃、広場から少し離れた貧民街にあるとある建物の中では、怪しい男たちがいた。
テーブルに座る男が、その前に立っている下っ端の男に対して罵声を飛ばす。。
「おい、どうなってるんだ?騒ぎを起こすんじゃなかったのか!いつまで待たせるつもりだ?まだ何も起きてないみたいだぞ」
「おかしいですね?」
「おかしいですねじゃねえ!あいつに暴れさせた後、壊れた資材とかの被害請求するんだろうが!そうじゃなきゃこのまま何もなく終わっちまうだろうが!」
「すいません……」
「こんな貧民街に、あんな上玉がノコノコ現れるなんてチャンスなんてねえぞ!とにかく何でもいいからあの女に払えないだけの金額を請求して、金を払えないなら体を売らせるようにするんだ!分かったらさっさと確認してこい!」
「へい」
下っ端の男がそう返事をした時、その部屋に入ってくる人影があった。
「なるほどそういう流れね」
「誰だ?」
その声に驚く男たち。
そこに現れたのはロキとココロの二人だった。
ロキはキョロキョロと室内を見回す。
「ふーん、外から見たら周りと同じトタンを張り付けただけのボロ屋敷だけど、中はなかなかしっかりした作りなんだな。偽装してるのか」
「お前は昨日の飛び蹴り男?!」
「あれ?よく見りゃ、あんた昨日のおじさんじゃん!確か商人の……デビッドさんだっけ?」
「貴様、何しにここに来た?いや、どうしてここが分かった?」
とそこで、会話の途中にもかかわらずココロがデビッドの机の上の書類を触ろうとする。
デビッドは慌ててココロからその書類を奪い返す。
「な、何を勝手に!」
「大事な書類みたいだな?」
そう言ってデビッドに近寄るロキは、その机の上に無造作に置かれている書類を覗き見る。
慌てて書類をかき集めるようにして、ロキの視界から隠そうとするデビッド。
だがその書類に書かれている言葉のいくつかはすでにロキの視界に入ってしまったようだ。
「売却奴隷?顧客リスト?」
「こ、こら!機密書類を勝手に見るな!」
「あんた、この貧民街で人身売買やってんの?商人って奴隷商人?」
「な、何の話だ?!おいアラン、ぼーっとしてないでこいつを追い出せ!」
「へい!」
デビッドはアランと呼ばれた下っ端にそう命令する。
すると部屋の隅で、ガチャという音がした。
デビッドが音のする方を見ると、そこには金庫を勝手に開けていたココロがいた。
「開いた!」
「ば、バカ野郎!勝手に開けるんじゃない!そこには裏帳簿が……」
「裏帳簿?悪いことやってる証拠だらけじゃん」
そう言うロキはアランの後ろに回って両手で首を絞めていた。アランはじたばたしたが、すぐに失神する。
「おまえ……、そこまで知ったら生きては帰さないぞ?おい!侵入者だ!こいつを殺せ!」
全てを知られたデビッドは大声を上げて手下を呼ぶ。この建物には多くの彼の部下がいる。その中には争いごとに長けた荒くれ者も少なくない。
だがデビッドが期待していた部下たちは、誰一人そこに現れることがなかった。援軍のないことに、デビッドはだんだんを焦り始める。
「おい!何をしている!誰でもいいから早く来い!」
いつもであれば大声を上げればすぐに部下が集まったはずだが、今日に限ってそれがない。
「何で誰も来ないんだ……」
さっきから大声で部下を呼ぶデビッドを、ニヤニヤしながら見ていたロキがその答えを告げる。
「それはここに来るまでに俺がすでに全員のしてきたから。あと昨日ルナさんがお金払えなくなったのだって、お前の差し金だろ?ルナさんの金を持ち逃げしたのって、お前の部下か何かだろ?俺が来なかったら、払えない金の代わりにルナさんを奴隷として売るとかそういう目論見だったんだろ?」
「な、何を証拠に……」
「証拠はないので今から尋問させてもらいまーす」
ロキはそう言うと指をボキボキ鳴らした。
★★★★★★★★
ロキたちが戻ってきたころには、炊き出しは無事に終わっていた。
片づけが始まっており、片付けに遅れたことを謝罪しながら手伝うロキとココロ。
デビッドの件は改めて言うまでもないと思い伏せておいた。
あの後、ほどほどに尋問したロキは、証拠書類を持って衛兵の詰め所に向かった。すぐにデビッドは衛兵に捕縛され、デビッドの持っていた書類から奴隷売買に関わった人間たちも今後検挙されていくだろう。
こんな貧民街の人間がいなくなっても誰も気にしなかったような治安の悪い場所だが、すぐに衛兵が動いたところを見ると王都の法律はそれなりにしっかりと機能しているのだろう。
炊き出しの片づけを終えたロキたちは、ルナに別れの挨拶を告げに行く。
ルナは深々と頭を下げ、ロキたちに礼の言葉を述べた。
「ロキさん、それにアルマちゃん、ココロちゃん、アポロ君。今日はみんな手伝ってくれてありがとう。貧しい人のためにできることをしようと思ったんだけど、結局私一人じゃ何もできなかったわ」
「そんなことないです!そう思うことはあっても、行動に移したルナさんはすごいです!私も今日お手伝いできてよかったです!」
炊き出しの間に親しくなったアルマが、声高にそう答える。
思わずルナの表情がほころぶ。
「アルマちゃん、ありがとう」
「ココロも楽しかったよ!」
「姫様が楽しめたなら素晴らしいイベントだったのではないか」
「ふふ、ココロちゃんもアポロ君もありがとう」
そしてルナの視線はロキに移る。
ロキは言葉短く答える。
「ルナさんの力になれて良かったです」
「ロキさん……」
「またいつかお会いしましょう」
ロキはそう言って右手を差し出す。
ルナは握手に応える。
「また……」
そうしてロキたちはルナと別れた。
帰り道、四人を迎えに来た魔動車内でアルマはロキに尋ねる。
「連絡先を聞かなくても良かったんですか?」
言われたロキはニコッと笑いながら答える。
「ルナさんにはルナさんの仕事や生活があるだろう。俺たちの家は迷宮都市。元々住む世界の違う人さ。それにもし縁があるならまた会えるさ」
「そういうものですかね……。あとルナさんはロキさんのことは恋愛対象外だって言ってましたよ」
「ちょっと待って!俺の知らないところで何を話してんの?!」
★★★★★★★★
ロキたちが去った後、片付けも終わった広場にいたルナの元に、数名の黒服を着た男が囲うように立っていた。
「道楽は終わったか?」
「……」
「町娘ルナとしての休暇は終わりだ。何日も連休を取ったのだから、もう当分は休み無しだと思え」
「分かってるわ」
「だったら行くぞ、聖女レオーネ。王都の結界強化に、寄付金を納めている貴族たちの定期治癒魔法を待っている者が溜まっている。それにまた近々勇者が動くかもしれん。その時は再び同行してもらう。当分は睡眠時間を削ってでも働いてもらうからな」
「分かってるって言ってるでしょ」
そうして少ない休暇に聖女となる前の本名ルナとしてボランティア活動をしていた聖女レオーネは、黒服を着た神殿関係者たちに連れられて貧民街を去って行った。
アルマはそう言ってロキたちを見送った。
アルマの言葉にルナが尋ねる。
「怪我をしたら?」
「あ、さっきの話の続きになるんですけど、私治癒魔法使いなんです。でも普段はだれも怪我しないんでほとんど出番ないんですけどね」
「まあ、珍しい!治癒魔法を使える人は神殿に仕えるものだと思っていたわ」
「それも考えたんですけど、何となく迷宮探索者の方がかっこよさそうだなと思って。実際はなかなか大変で、最初の頃は毎日泣きそうだったんですけど」
「今はどうなの?」
「ロキさんのレギオンに入れてもらってからは、毎日楽しいですよ!」
そう答えるアルマの笑顔につられ、ルナも自然と口角が上がる。
「そうなのね。良かった。それなら、神官になるよりそっちの方が絶対にいいわよ。神官になると恋愛も禁止だしね」
「えー!それは嫌ですねー、私は恋人作りたいですもん!」
「ウフフ、アルマちゃんは今は好きな人はいないの?」
「いないんですよ~。ルナさんはご結婚されているんですか?」
「私も独り身よ。恋人もいないわ」
「えー?そうなんですか?こんなにきれいなのに!」
「アルマちゃん、今日ずっとだけど、私の事めちゃくちゃ褒めてくれるわね」
「ルナさん、ロキさんとかどうです?」
「え?それは恋人候補としてどうかって意味で?」
「そうです」
「ロキさん若いでしょ?私みたいな行き遅れじゃロキさんに悪いわよ。私もう30過ぎよ」
「ロキさんは年上が好きらしいですよ」
「アルマちゃんは逆にロキさんはどうなの?ちょうどいい感じがするけど?」
「ロキさんはお父さんみたいな感じなんですよね。ルナさんはお姉さんって感じだから、二人がくっついたら嬉しいかもです」
「まあ!でも残念だけど、本当に私はそういう気持ちはないの」
「ロキさんまたフラれちゃいましたね。まだ告白もしてないのに」
★★★★★★★★
アルマとルナの二人が仲良く話をしている頃、広場から少し離れた貧民街にあるとある建物の中では、怪しい男たちがいた。
テーブルに座る男が、その前に立っている下っ端の男に対して罵声を飛ばす。。
「おい、どうなってるんだ?騒ぎを起こすんじゃなかったのか!いつまで待たせるつもりだ?まだ何も起きてないみたいだぞ」
「おかしいですね?」
「おかしいですねじゃねえ!あいつに暴れさせた後、壊れた資材とかの被害請求するんだろうが!そうじゃなきゃこのまま何もなく終わっちまうだろうが!」
「すいません……」
「こんな貧民街に、あんな上玉がノコノコ現れるなんてチャンスなんてねえぞ!とにかく何でもいいからあの女に払えないだけの金額を請求して、金を払えないなら体を売らせるようにするんだ!分かったらさっさと確認してこい!」
「へい」
下っ端の男がそう返事をした時、その部屋に入ってくる人影があった。
「なるほどそういう流れね」
「誰だ?」
その声に驚く男たち。
そこに現れたのはロキとココロの二人だった。
ロキはキョロキョロと室内を見回す。
「ふーん、外から見たら周りと同じトタンを張り付けただけのボロ屋敷だけど、中はなかなかしっかりした作りなんだな。偽装してるのか」
「お前は昨日の飛び蹴り男?!」
「あれ?よく見りゃ、あんた昨日のおじさんじゃん!確か商人の……デビッドさんだっけ?」
「貴様、何しにここに来た?いや、どうしてここが分かった?」
とそこで、会話の途中にもかかわらずココロがデビッドの机の上の書類を触ろうとする。
デビッドは慌ててココロからその書類を奪い返す。
「な、何を勝手に!」
「大事な書類みたいだな?」
そう言ってデビッドに近寄るロキは、その机の上に無造作に置かれている書類を覗き見る。
慌てて書類をかき集めるようにして、ロキの視界から隠そうとするデビッド。
だがその書類に書かれている言葉のいくつかはすでにロキの視界に入ってしまったようだ。
「売却奴隷?顧客リスト?」
「こ、こら!機密書類を勝手に見るな!」
「あんた、この貧民街で人身売買やってんの?商人って奴隷商人?」
「な、何の話だ?!おいアラン、ぼーっとしてないでこいつを追い出せ!」
「へい!」
デビッドはアランと呼ばれた下っ端にそう命令する。
すると部屋の隅で、ガチャという音がした。
デビッドが音のする方を見ると、そこには金庫を勝手に開けていたココロがいた。
「開いた!」
「ば、バカ野郎!勝手に開けるんじゃない!そこには裏帳簿が……」
「裏帳簿?悪いことやってる証拠だらけじゃん」
そう言うロキはアランの後ろに回って両手で首を絞めていた。アランはじたばたしたが、すぐに失神する。
「おまえ……、そこまで知ったら生きては帰さないぞ?おい!侵入者だ!こいつを殺せ!」
全てを知られたデビッドは大声を上げて手下を呼ぶ。この建物には多くの彼の部下がいる。その中には争いごとに長けた荒くれ者も少なくない。
だがデビッドが期待していた部下たちは、誰一人そこに現れることがなかった。援軍のないことに、デビッドはだんだんを焦り始める。
「おい!何をしている!誰でもいいから早く来い!」
いつもであれば大声を上げればすぐに部下が集まったはずだが、今日に限ってそれがない。
「何で誰も来ないんだ……」
さっきから大声で部下を呼ぶデビッドを、ニヤニヤしながら見ていたロキがその答えを告げる。
「それはここに来るまでに俺がすでに全員のしてきたから。あと昨日ルナさんがお金払えなくなったのだって、お前の差し金だろ?ルナさんの金を持ち逃げしたのって、お前の部下か何かだろ?俺が来なかったら、払えない金の代わりにルナさんを奴隷として売るとかそういう目論見だったんだろ?」
「な、何を証拠に……」
「証拠はないので今から尋問させてもらいまーす」
ロキはそう言うと指をボキボキ鳴らした。
★★★★★★★★
ロキたちが戻ってきたころには、炊き出しは無事に終わっていた。
片づけが始まっており、片付けに遅れたことを謝罪しながら手伝うロキとココロ。
デビッドの件は改めて言うまでもないと思い伏せておいた。
あの後、ほどほどに尋問したロキは、証拠書類を持って衛兵の詰め所に向かった。すぐにデビッドは衛兵に捕縛され、デビッドの持っていた書類から奴隷売買に関わった人間たちも今後検挙されていくだろう。
こんな貧民街の人間がいなくなっても誰も気にしなかったような治安の悪い場所だが、すぐに衛兵が動いたところを見ると王都の法律はそれなりにしっかりと機能しているのだろう。
炊き出しの片づけを終えたロキたちは、ルナに別れの挨拶を告げに行く。
ルナは深々と頭を下げ、ロキたちに礼の言葉を述べた。
「ロキさん、それにアルマちゃん、ココロちゃん、アポロ君。今日はみんな手伝ってくれてありがとう。貧しい人のためにできることをしようと思ったんだけど、結局私一人じゃ何もできなかったわ」
「そんなことないです!そう思うことはあっても、行動に移したルナさんはすごいです!私も今日お手伝いできてよかったです!」
炊き出しの間に親しくなったアルマが、声高にそう答える。
思わずルナの表情がほころぶ。
「アルマちゃん、ありがとう」
「ココロも楽しかったよ!」
「姫様が楽しめたなら素晴らしいイベントだったのではないか」
「ふふ、ココロちゃんもアポロ君もありがとう」
そしてルナの視線はロキに移る。
ロキは言葉短く答える。
「ルナさんの力になれて良かったです」
「ロキさん……」
「またいつかお会いしましょう」
ロキはそう言って右手を差し出す。
ルナは握手に応える。
「また……」
そうしてロキたちはルナと別れた。
帰り道、四人を迎えに来た魔動車内でアルマはロキに尋ねる。
「連絡先を聞かなくても良かったんですか?」
言われたロキはニコッと笑いながら答える。
「ルナさんにはルナさんの仕事や生活があるだろう。俺たちの家は迷宮都市。元々住む世界の違う人さ。それにもし縁があるならまた会えるさ」
「そういうものですかね……。あとルナさんはロキさんのことは恋愛対象外だって言ってましたよ」
「ちょっと待って!俺の知らないところで何を話してんの?!」
★★★★★★★★
ロキたちが去った後、片付けも終わった広場にいたルナの元に、数名の黒服を着た男が囲うように立っていた。
「道楽は終わったか?」
「……」
「町娘ルナとしての休暇は終わりだ。何日も連休を取ったのだから、もう当分は休み無しだと思え」
「分かってるわ」
「だったら行くぞ、聖女レオーネ。王都の結界強化に、寄付金を納めている貴族たちの定期治癒魔法を待っている者が溜まっている。それにまた近々勇者が動くかもしれん。その時は再び同行してもらう。当分は睡眠時間を削ってでも働いてもらうからな」
「分かってるって言ってるでしょ」
そうして少ない休暇に聖女となる前の本名ルナとしてボランティア活動をしていた聖女レオーネは、黒服を着た神殿関係者たちに連れられて貧民街を去って行った。
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