迷宮探索者の憂鬱

焔咲 仄火

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Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱

第18話 ロキとアルマ

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 翌日、約束通りロキはアルマと二人でダンジョンに潜っていた。
 アルマが迷宮初心者というのもあり、様子を見るため1階層から始め浅層の探索をすることにした。このコンビでは、もし怪我をしてもコストの高いポーションを使う必要がなくアルマに気軽に回復してもらうことができる。そう考えると安心感があったロキの戦闘は積極的で、結果浅層の魔物を圧倒し、アルマの出番は一度もないまま、どんどん階下へと進んでいった。気が付けばあっという間に5階層にたどり着いたことに気が付く。
 ここまでほとんど会話もなく進んできたため、一旦休憩を取ることにし、ロキは一度アルマに感想を聞いてみた。

「どうだアルマ?俺と組んだ感じは?」

「どうと言われても……。ロキさんが一人でどんどん魔物を倒してしまって私は何もしてませんし、これではロキさんがソロで潜るのと変わらないですよね……。すいません、私やっぱりお荷物ですね……」

 うなだれるアルマ。
 慌ててロキは説明する。

「そんなことはないんだ!いつもならもっと慎重に探索を進めるから、探索の速度は断然遅いんだ。ソロならさらに遅くなる。だけど今回は何かあってもアルマにすぐ回復してもらえるって安心感があるから、俺も今日はあまり悩まず進めて、すごく楽なんだ」

「そうなんですか?」

「そうだ。アルマが後ろにいると、めちゃくちゃ心強い!」

「うーん……、そう言われても私自身は全然実感がありません」

 確かに何もしてないアルマに、ロキの安心感は理解しにくいだろう事に気が付く。

「それじゃ、もうちょっと進んでみようか?昨日11階層の探索してたんだから、それくらいは行けるよな?あ、そういや5階層と言えばあの部屋があった!」

「あの部屋?」

「ああ、先日リマップが起きた時に、ミノタウロスがいる部屋があったんだ。ここらで一度強敵と戦ってみよう!」

「ミノタウロスですか?!ちょっと不安です……」

「前回も倒したことがあるし、今回前衛ってことでロングソード持ってきてるから余裕だよ。前回レイピアだったから大変だったんだけどね」

「ロキさんって、いろんな武器が使えるんですね……」

「ああ、俺は前衛だったり後衛だったり、組むパーティが変わる度に必要な役をやってたからな」

「へえ……」

「じゃあミノタウロスの部屋に行こうか。残念ながら財宝はないらしいんだけど」

「そうなんですか」

「俺は一度ミノタウロスを倒しただけで引き返したんだけど、その後何組か他のパーティーが探索した結果、その先は何もなかったらしい。強敵がいるなら財宝があると思うんだけどな。迷宮のルールはよく分からん」

「なるほど……」

 そして二人は、ミノタウロスの待つ部屋の入り口へとたどり着いた。
 部屋に入るとすぐにミノタウロスが襲ってくるため、入り口の前で作戦の打ち合わせを行っておく。
 大まかな作戦としては、ロキが前衛で対処し、負傷した時には回復魔法をかけてもらうという形だ。アルマが攻撃を受けて戦闘不能になってしまうと困るので、ミノタウロスに狙われないよう気をつけなければいけない。
 その辺りの注意点をお互いに認識できたところで、ロキはゆっくりと扉を開けた。
 部屋の中に数歩歩いてゆくと、前回と同じように、獰猛な叫び声が響くと同時にミノタウロスが突進してきた。
 ロキは落ち着いてその距離を測る。お互いの武器の射程範囲に入ろうかとした瞬間、ロキは身をかがめミノタウロスの側面へと移動し、手に持つロングソードでミノタウロスのひざの横を思い切り叩いた。

「バモオオオ!」

 痛みによる叫び声を上げながら、ミノタウロスは盛大に土ぼこりを上げて転倒する。
 隙あれば追撃しようとしたが、ミノタウロスは転倒した状態から斧を振り、ロキを近寄らせまいとする。
 ミノタウロスはすぐに立ち上がり斧を身構えた。
 今回は小細工なしの対決だ。
 負傷時のアルマの回復魔法という保険があるため、ロキは自分の実力を試す意味も含めて、ミノタウロスと打ち合う覚悟を決めていた。

 ミノタウロスの斧が振り下ろされる。だが足のダメージから勢いが完全ではない。
 ロキはやすやすとその軌道を見切り、斧の一撃を交わしざま、ミノタウロスの胴体に横一線の一撃を食らわせる。
 鋼のように鍛えられたミノタウロスの腹筋は、ロングソードの一撃を受けても切り裂かれることはなかった。
 しかし打撃として激しく打ち付けられた一撃は、ミノタウロスの胴体をくの字に曲げ、その巨体を後退させた。

「まだまだ!」

 ロキは追撃の手を休めない。
 今度は上段に剣を構えると、脳天へ向けて振り下ろす。
 ミノタウロスは手に持った大斧を横に構え、その一撃を受け止める。
 金属と金属がぶつかり合い、ガキンという激しい音が鳴り響く。
 ロキにとってその防御も想定内であり、受け止められた驚きはない。
 続けて連続で攻撃を繰り返してゆくと、ミノタウロスも全てを防御しきれず、何度も痛恨の一撃を受けてしまう。
 たまらずミノタウロスは、両手を振り回して攻撃を嫌う。
 振り回した腕に何発か殴られたロキは、一旦距離を取ろうとバックステップを取る。その時、無軌道に振り回された斧が襲う。
 ガキン!
 再び金属がぶつかり合う音が響く。
 ロキがロングソードでそれを受け止めたためだ。
 だが、体格で劣るロキの体は、後方へと吹き飛ばされ転倒する。

「≪ヒー……≫」

「まだだ!」

 転んだロキに回復魔法をかけようとしたアルマをロキは制止した。
 すぐに立ち上がると再び声を上げる。

「頼む!」

「≪回復ヒール≫!」

 アルマの回復魔法がロキの体を包む。
 ミノタウロスは、回復魔法をかけたアルマの存在に気が付き、そちらを攻撃しようと振り返る。

「お前の相手はこっちだ!」

 ロキの攻撃がミノタウロスの首筋に入ると、再びミノタウロスとの打ち合いが始まった。

★★★★★★★★

「回復魔法でも魔物のヘイトを買ってしまって、攻撃対象になるんだ。だからさっきはすぐに俺がリカバーに行ける体制になってから回復してもらうよう指示をだしたんだ」

「なるほど!焦ってしまってすいません!」

「いや、指示通り動いてくれたから完璧なタイミングだった。これなら中層へも余裕で行けそうだな」

「はい!」

 二人の足元には、ミノタウロスの持っていた大斧が転がっていた。
 先ほどまで激戦を繰り広げていたミノタウロスは、結局危なげなく討伐した。

「魔石だけでいいんですか?この斧は?」

「ああ。魔石は高く売れるけど、この斧は重いだけで大した金にならないから置いていこう。なんか毎回ドロップするみたいだけど、どうせならもっと良いアイテムドロップしてほしいもんだよ。さて、今日はこの辺で切り上げようか?」

「えっと、あの扉の先には行かないんですか?何かありそうですけど」

「ん?ああ、情報によると、あれは扉みたいに見えるけど、どうも開かないらしいんだよ。扉のように見えるデザインの壁みたいだ。鍵開けスキルの高いレンジャーが調べたけど、たぶん奥に宝があると見せかけて迷宮探索者をミノタウロスから逃げさせないためのダミーじゃないかって話だ」

「なんですかその面倒くさい設定?」

「知らねえよ、そう聞いたんだよ」

「せっかくだし調べてみましょうよ!」

「お、おう。まあそれくらいの時間はあるけど……」

 ロキはレンジャーとしてのスキルも高い。索敵や罠の発見、鍵開けなども得意分野だ。
 だが、そんなロキでもその扉?を開ける方法は見つからなかった。
 鍵穴のようなものも無ければ、開けるためのレバーのような装置も見当たらない。
 扉自体は凸凹しているため、どこかに仕掛けがありそうな気もしたが、1時間近く調べたが何も見つけることができなかった。

「やっぱ何もないな。俺よりレベルの高いレンジャーが調べてダメだったんだから、何かあるとしても分かるわけねえか」

 と、ロキがあきらめの言葉を発した時、アルマは難しい顔でじっと扉を眺めながら、一言呟いた。

「そこの部分、なんかさっきの斧みたいな形してませんか?」

 言われて見ると、扉のへこんでいる形がミノタウロスの大斧がちょうどはまりそうに見える箇所があった。

「まさか……ね?」

「ちょっと持って来てみます!」

 ロキと同じことを思ったアルマが、ミノタウロスの斧を持ってくると、その凹みに斧を入れた。

 ガチン!

 扉の中で何か金属が動いた音が響くと、ゴゴゴという音を立てて扉が左右に開き始めた。

「まじかよ?!」

 驚いているロキの横では、目をキラキラと輝かせながらアルマが扉の向こうを眺めていた。
 開いた扉の向こうは小さな小部屋であり、部屋の中央には木製の小さな宝箱が置かれていた。
 ロキが慎重に罠の確認をしながら宝箱を開けると、中からは一枚の大きな金貨が出てきた。

「金貨?……いや、これは金じゃない、白金プラチナだ。白金貨だ!まじかよ!」

「すごーい!」

 その高額な財宝に唖然とするロキと対照的に、アルマは無邪気に喜んでいた。
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