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02:団子屋の娘
喧嘩凧
しおりを挟む「すみませーん、餡ころ餅を下さいな」、さよは留守番をしている子の為に、昼下がりの伊勢屋であんころ餅を買い求めた。
「十二文になります」、看板娘のふくは何やら辛そうに左頬を抑えている。
「歯が悪いんじゃないの?」さよが気を利かして訊いた、「ええ、藪中先生の所で薬を貰って飲んでるんだけどね、ひと月してもちっともよくならないのさ」、ふくが団子を竹皮に包んでさよに渡した。
「ちょっと口の中を見せてごらん」、さよがふくの口を覗くと左の下の歯が既に腐って血が流れて異臭を発している。
「こりゃ、もう抜かないと駄目さね。痛くて夜も寝られないだろうよ。ウチの長屋に来れば源吉さんが一晩で治してくれるよ」
ふくはその足で、さっそくに藪中診療所へと向かった。
「それでどうだね、象牙丹の方は効いたかの?」、藪中はのんぶりとした口調でふくに訊いた。
「先生の薬は高いばっかりでちっとも効きません。もう通うのはやめさせていただきます!」
「わしの所から去って、どこに行こうというのか、わしは町屋の赤髭ぞ」、藪中は一包百六十文する高価な象牙丹をまたふくにすすめた。
「本所の源吉さんはただで患者を治してくれる志しのある人だと聞きました。先生みたいな詐欺の商売人とは違います」、さよは象牙丹を突っぱねると逃げるようにして診療所を後にした。
それから半刻もして、富山の薬売りのね吉が巡回にやって来た。
「困った事になった。本所の源吉とやらが荒療治で歯を治して評判になっているらしい」、藪中が渋面を作った。
「医は算術が先生の命題ですからな」、ね吉が象牙丹を薬箱から出した。
「さよう、大方ヤットコか何かの大工道具で抜歯しているんだろうが、そんなことはそれがしでも無論やれないことはない」
「医は算術ですからな。象牙丹が売れなくなるし」、ね吉が合の手を打った。
「そうだ、○○藩江戸詰の勝座衛門殿を奴の元にやろう。あれはまだ根がしっかりしている。無理をして大量失血でもすれば、源吉とやらもお上のお咎めを免れまいて」、藪中は象牙丹の代金をね吉に渡した。
「流石は先生、いにしえの兵法にも通じる悪知恵、さっそく手配致しましょう!」、金子を懐に入れた狐と悪知恵がこんこんと湧くタヌキの高笑いが診療所に響いた。
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