クリスマス2

dragon49

文字の大きさ
上 下
1 / 1

クリスマス2

しおりを挟む
「静粛に」

 ビリビリと響くような声で国王陛下が言葉を発すると、周りの官僚はピタッと静かになる。

「私はSランク冒険者の枠組み自体を変えようと思っている。今まではSランク冒険者は各々の街や周辺の地域を守る一つの役職であった。しかし国防を一個人に任せるのは国の怠慢であると皆思っていたことであろう」

 陛下はこの玉座の間に集まった人たちをゆっくりと見回していく。

「Sランク冒険者が国防を担うというのは今このときをもってやめにする。これからはSランク冒険者の称号は王国が実力を認めた者に与えることとする。是に則り、コルネとアドレアの二人にはSランク冒険者の称号を与える」

 なるほどSランク冒険者の定義が「実力を認めた者」になるのならば、俺やアドレアがSランク冒険者になることは問題ないだろう。

「その上で、三人とは国防を担うという取り決めを改めて交わした。そして此度のテロにより、ラムハは個人での防衛体制では不十分だということが他国にも露呈した。ゆえに、ロンドの他にラムハには軍の者を常に駐在させる」

 つまりこういうことだろうか──Sランク冒険者に防衛の義務はなくなるが、レオンさんとサラさんはこれまで通り自身と道場にいるお弟子さんで引き続き防衛を担う。師匠も引き続き防衛に参加するが、王国騎士団と魔法師団から派遣されてくる、と。

 師匠以外に戦力が増えれば、おそらく師匠がラムハを離れるときの手続きはとても簡素なものになるだろう。今までは師匠一人でラムハを守っていたから、どこかに行く度に代わりの軍の人員を派遣してもらう必要があったが、元から駐在しているのならその必要はない。

 これは師匠が自由に動けるになる──師匠が自由に旅をできるようにするという俺の目的が果たされるということだろうか。

 俺がSランク冒険者になったことが直接の要因ではない気がするが、なんにせよ師匠がやりたいことができるようになるのはいいことだ。

「最後に、Sランク冒険者は国が実力を認めた者──すなわち国の宝だ。これに仇なす者は以前と同じように王国への叛逆とみなす」

 そこまで陛下が続けざまに言い終わると、もうひそひそと喋る人はいなかった。それを確かめてから司会の人が口を開く。

「褒賞拝受者が退場されます」

 俺たちは奇異の視線に晒されながらぞろぞろと玉座の間を後にし、こうして贈呈式は特にハプニングもなく幕を閉じたのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

憑依と表裏

貴美月カムイ
現代文学
淫らな言葉で責められ彩は溺れていく。

小説教室・ごはん学校「SМ小説です」

浅野浩二
現代文学
ある小説学校でのSМ小説です

或る魔女の告白

野洲たか
現代文学
最初、その力の存在に気付いたのは……十歳の時だったわ。 夕方、学校から帰って、母の部屋の三面鏡を覗いていたら、鏡の一枚に髪の毛も眉毛もない無毛の少女がわたしと同じ制服を着て映っていたの。一瞬だけだったけれど、あれは間違いなく、もう一人のわたしだった。 

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

歌集「キミとボク」

ふるは ゆう
現代文学
甘酸っぱい二人の歌を集めた、短歌集です。

闇市成金の末裔は商売人

ハリマオ65
現代文学
*達夫は、スキーで夢子と出会い、夢子が立川の食堂で働き夫婦で食堂経営で、稼いで、福祉で頑張れ! 安田達夫の祖父は、戦後の闇市で手段を択ばず大儲けした、いわゆる闇市成金で世間の嫌われ者。月日が流れ孫が誕生しを孫を可愛いがった。しかしソロバンと暗算は徹底的に指導。全国珠算連盟3段の免状を取らせ、三井銀行に入行。その後、大金を作り、早期退職後、レストラン経営に首を突っ込み子供達も巻き込み大活躍するストーリー。この作品は小説になろうとツギクルに重複投稿。

ふるは ゆう 詩歌集2024

ふるは ゆう
現代文学
2023年と2024年に入選、入賞した。短歌と詩をまとめて詩歌集としました。

処理中です...