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AI頼朝
しおりを挟む「会長、フューチャー・ソフト・インベストメントの田崎さんがお見えになりました」
総務部長品川の声に食品流通大手A社の会長源田太一郎は、目を輝かせた。
A社は元食品流通のシェア51パーセントを占める最大手であったが、最近では後進のB社に追い上げられ、そのシェアは45パーセントにまで後退していた。
その為、太一郎は社内業務の一切は息子の総一郎CEOに任せ、自らは企画本部のプロジェクトマネージャーを兼任して挽回の機会を伺っていた。
「そうか、ついに出来たか。千秋の思いだった」
「大そう、お待たせしてあい済みませんでした。これが会長がオーダーメイドとして発注されたフューチャー・ソフトAI頼朝でございます」
田崎は、ジュラルミンケースの中から銀盤を取り出した。
「この記憶媒体の中にあるプログラムをPCにダウンロードしていただき、シリアル番号を打ち込んで頂ければ頼朝が立ち上がります」
「社費2億円を超える一大プロジェクトだ。品物は確かなんでしょうね」
品川が念を押した。
「過去残された吾妻鏡などの資料を総合して、出来うる限り頼朝の人格を再現してございます。大抵の質問には答えられるようプログラムされております」
田崎は、さっそくにプログラムをダウンロードし始めた。
「このAIソフトは、原則個人専用ソフトです。二人が同じ質問をするとAIの判断に矛盾が生じるためです。その為、指紋声紋認証によりセキュリティを徹底します」
「会長、ここに人差し指を置いていただき、本日は晴天なりと発声して下さい」
源田がキラキラ光る発光版に人差し指を置いて発声を繰り返すとPC画面がゆっくりと開き始めた。
PCに浮かび上がったのは、鳥烏帽子をかぶった頼朝の尊顔であった。
「はじめまして、源田太一郎にございます」
太一郎は、PCに向かって深々と一礼した。
「それがしが頼朝じゃ。太一郎とやら何の用じゃ?」
「それが商売の話なんですが、市場を商売仇にとられたのです」
「頼朝は武家ゆえ、商売の話はよう分からんが、陣地をとられたということは、敵に利があり味方になかったというか」
太一郎は、業務が拡大している最中で年配の社員に早期退職制を推し進め戦力の若返りを図ったことが裏目に出たことが想起された。
「では、どうしたらよろしいのでしょうか」
「敵が勢いに乗じている時は、食い止めることは容易ではない。それよりも味方に造反者が出ないように目を光らせるのじゃ」
太一郎は、残業代やボーナスをカットされてA社に限界を感じB社に転職したマネージャークラスの社員達に思いを馳せ、深く落ち込んだ。
「源田殿、深く落ち込んだ男を蘇らせるのは女ぞ。頼朝も蛭ヶ小島に流されて、政子に見出されなんだら・・・」
太一郎は、業務多忙ですれ違いを重ねて二年前に離縁した糟糠の妻を想起した。
「会長、こんなソフトインチキだ。時代錯誤で何を言っているのかさっぱりわからない!こんなソフト返してやりましょう」、品川は田崎を睨みつけたが、源田は手でこれを制した。
「良いのだ、良い勉強になったよ。このソフトは、わしにとって良い話し相手だ」
「田崎君、ありがとう。礼を言うよ」
「お買い上げ頂き誠に有難うございました」、田崎がペコリと頭を下げると源田は何かを考えるかのようにしばらく沈思黙考し、コピー用紙で三角頭巾を作るとそれをセロテープで額に貼り付けて、五円玉を六枚机の上に並べた。
「品川、切腹の用意をしてくれ、白装束に着替えるから介錯を頼む」
これを聴いて画面の頼朝が拍手をすると品川は深い溜息をついた。
「会長••••やっぱりかえしましょ」
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