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宇治山のK法師
しおりを挟む世は鎌倉、幕府が権勢を振るっていた頃の話、都の辰巳、即ち東南の方角に宇治という所があり、都の貴族が出かける保養地として知られていた。
その宇治山に庵を結びひっそりと暮らすK法師という者がいた。彼は、漢文をよくし大陸の文化に精通した知識人、また和歌の練達者として知られて、G上皇も折に触れこの庵を訪ねた。
「のーう、この句は馬とあるが余は鹿の方がぴったりとするように思えるのじゃが、その方が歌全体が引き緊まるから、改ざんしようと思うのじゃが.....」、他人の芸術作品に横槍を入れるなど失礼千万なのだが、隠然たる権勢者なのでK法師もなかなかに逆らえない。
「流石は、G院様。鹿は神の使いと申します。よい所にお目をつけられました」、K法師はこの部分だけ「いや、詠み手が馬といったら馬でしょう」と言って島流しにされた名門貴族のFKが脳裏を
よぎった。
「のーう、K法師よ、そなたの漢文の素養、ことに仏教を基にした諦観には余も一目置いておるのじゃ、もそっと中央に出てきて、余の相談相手になってくれぬかと」、G院は別に貴族でもないK法師にはゆるりと圧力をかける。
「さては。拙僧も老齢、中央はもはや年寄りの冷や水、平にご容赦を」、(ふん、Ko族にたかるどーせ貴族のF家だの、武家は昔H家、今G家、HJ家と、所詮この世は地縁か血縁、氏の山は憂事の山じゃ、わからんかこの馬鹿が!)内心の本音はこうなのだか、とりあえず社交辞令をしておく。
和歌で生計を立てるものにとって、権勢者のご機嫌をとる事は、糊口の手段に他ならない。それにしても、権勢を前にして馬を鹿だと言ってしまった自身、この世に巣食う蛆虫なのではないのか、馬鹿なのではないのか、自問自答するK法師ではあった。
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