6 / 40
急速に過保護になる子どもと完全拒絶お姉さん
眩しくて目を背けたくなるほど
しおりを挟む
「うわぁぁっ!? もう分かった! やめてくれぇぇ!」
お互い素手のケンカだった。普通なら大人が圧倒的に有利だが、魔力は肉体の優位を容易く覆す。
見た目はヒラヒラのローブも防御魔法を付与されれば、鋼の鎧並みの強度を得るように。
魔力が豊富な者は、魔法によって自然と自分の肉体を強化する。
だからカイル君も自分より倍は体重のある男たちを、一方的にボコボコにして見せた。
しかしカイル君の憤りは収まらず
「こんな酷いことをしておいて、謝って済むと思わないで」
普段の明るさが嘘のような冷たい怒りに燃え、すでに戦意喪失している男たちを、さらに痛めつけようとしたが
「……もうやめて、カイル君。君が暴力を振るうところは見たくない」
強者が弱者をいたぶる様が私は苦手だ。例え強者のほうが私の味方でも。自分の味方なら余計に、人を踏み躙る姿なんて見たくない。
私の制止にカイル君はハッと我に返ると、苦々しい顔をして
「もう帰って。二度と村に来ないで」
怒りを押し殺した声で、男たちを追い払った。
彼らが完全に立ち去ると、カイル君は私を振り返って
「お姉さん。大丈夫……って、ゴメンッ!」
彼がバッと顔を背けるのを見て、そういえば男たちに脱がされて、おっぱいが丸出しだったと気づいた。
「いや、こっちこそ変なものを見せてゴメン」
「いや、変なものってことは……」
服を着ながら謝る私から、カイル君は顔を逸らしたまま
「アイツらはお姉さんに何をしようとしていたの? 胸を見せろって脅されたの?」
ヤバいくらいキレていたが、レイプだとは思わなかったらしい。彼は神父に育てられている純粋培養少年なので、男女のあれこれについて、まだ知らないのかもしれない。
そんな子に、汚い大人の世界を説明するわけにはいかないので
「……まぁ、そんな感じ」
と、あやふやに流した。
しかし私の返答に、カイル君は深刻な顔で
「酷い。女の人は旦那さん以外に、裸を見せちゃいけないのに」
実に子どもらしいコメントに
「笑いごとじゃないよ!? 旦那さんになる人以外に裸を見せたら、お嫁に行けなくなっちゃうんだよ!?」
カイル君は真剣だが、残念ながら私は
「……大丈夫だよ。お嫁には一度行ったから。今さら大事に守るものなんて無い」
裸を見られただけで愛される資格を失うというカイル君の発言に、無意識に傷ついたのだろうか。
余計な皮肉を零すと、カイル君は当然食いついて
「えっ? お姉さんはお嫁に行ったことがあるの? じゃあ、なんで今は独りなの?」
私は彼の質問を曖昧に微笑んで流すと
「助けてくれて、ありがとう。でもそろそろ帰ろう。神父様が心配するから」
家に帰る途中。カイル君に強さの理由を尋ねた。
神父様の助言で村の人たちには隠しているが、カイル君はやはり人並み外れた魔力を持っているらしい。
加えて元聖騎士である神父様から、武術の手ほどきを受けているそうだ。道理で聖職者の割に体格がいいと思った。
ちなみにカイル君も聖騎士を目指しているらしく、私がまだベッドで眠っている早朝に修行しているそうだ。
……それにしても光属性か。それも将来は聖騎士になるって。
光属性は闇属性と対極の力だ。治癒や状態異常の回復。ステータスアップにバリア。人によっては光系統の攻撃魔法まで使える。
人を癒やし高め護る救いの力。
カイル君は才能に恵まれ、親に期待され、自然と周りに貢献する光の道を歩いている。
……親にも見放され、人から奪うだけの私とは本当にどこまでも違う。
子ども相手に大人げないけど、あまりに眩しすぎて目を逸らしたくなる。
けれど未来の聖騎士様は、私のような落ちこぼれを放っておけないようで
「あのね、お姉さん」
夕暮れの帰り道。神父様の家が見えて来た辺りで、ふと足を止めると
「お姉さんはこの村を出たいみたいだけど、やっぱり女の人が1人で居るって危ないと思う。だから、どこにも行かないで。俺にずっと護らせて」
普通の大人なら「ずっと」なんてあり得ないと知りつつ、微笑ましく受け取るのだろうけど
「……『ずっと護らせて』なんて、簡単に口にするものじゃないよ」
「簡単に言っているわけじゃ……」
「でも君は聖騎士になるんでしょう? どこにも行かないでも何も、いずれ君のほうがどこかに行ってしまうのに、ずっと護るなんて矛盾しているよ」
親にも見放された私にとって『護る』という言葉はあまりに特別だった。だから守れもしない約束を、容易く口にしたことが許せなかった。
しかし、すぐに自分の大人げなさを恥じて
「……例え勢いでも本気で言ってくれたんだろうに、ゴメンね。素直に受け取れなくて」
「……ううん。お姉さんの言うとおり、俺が考え無しだったから」
カイル君は神妙に謝ったのも束の間、目に涙を浮かべて私を見上げると
「でも俺、本当にお姉さんが心配で、護りたいんだ」
優しいはずの言葉に、むしろ胸が痛くなるのは、私がとっくにズタズタだからだろう。
どうせ護るなら、まだ傷ついていない綺麗なものを護るべきだと
「……世界には私よりも護るべき人たちが大勢いるよ。君は聖騎士になって、その人たちを護ってあげて」
こんな女に構うなと、そっと突き放した。
お互い素手のケンカだった。普通なら大人が圧倒的に有利だが、魔力は肉体の優位を容易く覆す。
見た目はヒラヒラのローブも防御魔法を付与されれば、鋼の鎧並みの強度を得るように。
魔力が豊富な者は、魔法によって自然と自分の肉体を強化する。
だからカイル君も自分より倍は体重のある男たちを、一方的にボコボコにして見せた。
しかしカイル君の憤りは収まらず
「こんな酷いことをしておいて、謝って済むと思わないで」
普段の明るさが嘘のような冷たい怒りに燃え、すでに戦意喪失している男たちを、さらに痛めつけようとしたが
「……もうやめて、カイル君。君が暴力を振るうところは見たくない」
強者が弱者をいたぶる様が私は苦手だ。例え強者のほうが私の味方でも。自分の味方なら余計に、人を踏み躙る姿なんて見たくない。
私の制止にカイル君はハッと我に返ると、苦々しい顔をして
「もう帰って。二度と村に来ないで」
怒りを押し殺した声で、男たちを追い払った。
彼らが完全に立ち去ると、カイル君は私を振り返って
「お姉さん。大丈夫……って、ゴメンッ!」
彼がバッと顔を背けるのを見て、そういえば男たちに脱がされて、おっぱいが丸出しだったと気づいた。
「いや、こっちこそ変なものを見せてゴメン」
「いや、変なものってことは……」
服を着ながら謝る私から、カイル君は顔を逸らしたまま
「アイツらはお姉さんに何をしようとしていたの? 胸を見せろって脅されたの?」
ヤバいくらいキレていたが、レイプだとは思わなかったらしい。彼は神父に育てられている純粋培養少年なので、男女のあれこれについて、まだ知らないのかもしれない。
そんな子に、汚い大人の世界を説明するわけにはいかないので
「……まぁ、そんな感じ」
と、あやふやに流した。
しかし私の返答に、カイル君は深刻な顔で
「酷い。女の人は旦那さん以外に、裸を見せちゃいけないのに」
実に子どもらしいコメントに
「笑いごとじゃないよ!? 旦那さんになる人以外に裸を見せたら、お嫁に行けなくなっちゃうんだよ!?」
カイル君は真剣だが、残念ながら私は
「……大丈夫だよ。お嫁には一度行ったから。今さら大事に守るものなんて無い」
裸を見られただけで愛される資格を失うというカイル君の発言に、無意識に傷ついたのだろうか。
余計な皮肉を零すと、カイル君は当然食いついて
「えっ? お姉さんはお嫁に行ったことがあるの? じゃあ、なんで今は独りなの?」
私は彼の質問を曖昧に微笑んで流すと
「助けてくれて、ありがとう。でもそろそろ帰ろう。神父様が心配するから」
家に帰る途中。カイル君に強さの理由を尋ねた。
神父様の助言で村の人たちには隠しているが、カイル君はやはり人並み外れた魔力を持っているらしい。
加えて元聖騎士である神父様から、武術の手ほどきを受けているそうだ。道理で聖職者の割に体格がいいと思った。
ちなみにカイル君も聖騎士を目指しているらしく、私がまだベッドで眠っている早朝に修行しているそうだ。
……それにしても光属性か。それも将来は聖騎士になるって。
光属性は闇属性と対極の力だ。治癒や状態異常の回復。ステータスアップにバリア。人によっては光系統の攻撃魔法まで使える。
人を癒やし高め護る救いの力。
カイル君は才能に恵まれ、親に期待され、自然と周りに貢献する光の道を歩いている。
……親にも見放され、人から奪うだけの私とは本当にどこまでも違う。
子ども相手に大人げないけど、あまりに眩しすぎて目を逸らしたくなる。
けれど未来の聖騎士様は、私のような落ちこぼれを放っておけないようで
「あのね、お姉さん」
夕暮れの帰り道。神父様の家が見えて来た辺りで、ふと足を止めると
「お姉さんはこの村を出たいみたいだけど、やっぱり女の人が1人で居るって危ないと思う。だから、どこにも行かないで。俺にずっと護らせて」
普通の大人なら「ずっと」なんてあり得ないと知りつつ、微笑ましく受け取るのだろうけど
「……『ずっと護らせて』なんて、簡単に口にするものじゃないよ」
「簡単に言っているわけじゃ……」
「でも君は聖騎士になるんでしょう? どこにも行かないでも何も、いずれ君のほうがどこかに行ってしまうのに、ずっと護るなんて矛盾しているよ」
親にも見放された私にとって『護る』という言葉はあまりに特別だった。だから守れもしない約束を、容易く口にしたことが許せなかった。
しかし、すぐに自分の大人げなさを恥じて
「……例え勢いでも本気で言ってくれたんだろうに、ゴメンね。素直に受け取れなくて」
「……ううん。お姉さんの言うとおり、俺が考え無しだったから」
カイル君は神妙に謝ったのも束の間、目に涙を浮かべて私を見上げると
「でも俺、本当にお姉さんが心配で、護りたいんだ」
優しいはずの言葉に、むしろ胸が痛くなるのは、私がとっくにズタズタだからだろう。
どうせ護るなら、まだ傷ついていない綺麗なものを護るべきだと
「……世界には私よりも護るべき人たちが大勢いるよ。君は聖騎士になって、その人たちを護ってあげて」
こんな女に構うなと、そっと突き放した。
1
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】聖女の推しは少年騎士!
ドゴイエちまき
恋愛
聖女アンジェリカの推しは四つ歳下の騎士リオン。
人知れずこっそりリオンを推してきた彼女は、とある計画を思いつく。
推しと二人で仲良く気ままなのんびり旅!と思っていたけど……。
「俺は弟じゃなかったんですか?」
「私以外にそんな顔見せないで」
推しを愛でるアンジェリカと真面目でしっかり者な少年リオンの軽いラブコメです。(注おねショタおね)
全12話。
R18=★
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です!【R18/完全版】
鶴田きち
恋愛
★初恋のスパダリ年上騎士様に貧乏令嬢が溺愛される、ロマンチック・歳の差ラブストーリー♡
★貧乏令嬢のシャーロットは、幼い頃からオリヴァーという騎士に恋をしている。猟犬騎士と呼ばれる彼は公爵で、イケメンで、さらに次期騎士団長として名高い。
ある日シャーロットは、ひょんなことから彼に逆プロポーズしてしまう。オリヴァーはそれを受け入れ、二人は電撃婚約することになる。婚約者となった彼は、シャーロットに甘々で――?!
★R18シーンは第二章の後半からです。その描写がある回はアスタリスク(*)がつきます
★ムーンライトノベルズ様では第二章まで公開中。(旧タイトル『初恋の猟犬騎士様にずっと片想いしていた貧乏令嬢が、逆プロポーズして電撃婚約し、溺愛される話。』)
★エブリスタ様では【エブリスタ版】を公開しています。
★「面白そう」と思われた女神様は、毎日更新していきますので、ぜひ毎日読んで下さい!
その際は、画面下の【お気に入り☆】ボタンをポチッとしておくと便利です。
いつも読んで下さる貴女が大好きです♡応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる