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急速に過保護になる子どもと完全拒絶お姉さん

眩しくて目を背けたくなるほど

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「うわぁぁっ!? もう分かった! やめてくれぇぇ!」

 お互い素手のケンカだった。普通なら大人が圧倒的に有利だが、魔力は肉体の優位を容易くくつがえす。

 見た目はヒラヒラのローブも防御魔法を付与されれば、鋼の鎧並みの強度を得るように。

 魔力が豊富な者は、魔法によって自然と自分の肉体を強化する。

 だからカイル君も自分より倍は体重のある男たちを、一方的にボコボコにして見せた。

 しかしカイル君の憤りは収まらず

「こんな酷いことをしておいて、謝って済むと思わないで」

 普段の明るさが嘘のような冷たい怒りに燃え、すでに戦意喪失している男たちを、さらに痛めつけようとしたが

「……もうやめて、カイル君。君が暴力を振るうところは見たくない」

 強者が弱者をいたぶる様が私は苦手だ。例え強者のほうが私の味方でも。自分の味方なら余計に、人を踏みにじる姿なんて見たくない。

 私の制止にカイル君はハッと我に返ると、苦々しい顔をして

「もう帰って。二度と村に来ないで」

 怒りを押し殺した声で、男たちを追い払った。

 彼らが完全に立ち去ると、カイル君は私を振り返って

「お姉さん。大丈夫……って、ゴメンッ!」

 彼がバッと顔を背けるのを見て、そういえば男たちに脱がされて、おっぱいが丸出しだったと気づいた。

「いや、こっちこそ変なものを見せてゴメン」
「いや、変なものってことは……」

 服を着ながら謝る私から、カイル君は顔を逸らしたまま

「アイツらはお姉さんに何をしようとしていたの? 胸を見せろって脅されたの?」

 ヤバいくらいキレていたが、レイプだとは思わなかったらしい。彼は神父に育てられている純粋培養少年なので、男女のあれこれについて、まだ知らないのかもしれない。

 そんな子に、汚い大人の世界を説明するわけにはいかないので

「……まぁ、そんな感じ」

 と、あやふやに流した。

 しかし私の返答に、カイル君は深刻な顔で

「酷い。女の人は旦那さん以外に、裸を見せちゃいけないのに」

 実に子どもらしいコメントに

「笑いごとじゃないよ!? 旦那さんになる人以外に裸を見せたら、お嫁に行けなくなっちゃうんだよ!?」

 カイル君は真剣だが、残念ながら私は

「……大丈夫だよ。お嫁には一度行ったから。今さら大事に守るものなんて無い」

 裸を見られただけで愛される資格を失うというカイル君の発言に、無意識に傷ついたのだろうか。

 余計な皮肉を零すと、カイル君は当然食いついて

「えっ? お姉さんはお嫁に行ったことがあるの? じゃあ、なんで今は独りなの?」

 私は彼の質問を曖昧に微笑んで流すと

「助けてくれて、ありがとう。でもそろそろ帰ろう。神父様が心配するから」

 家に帰る途中。カイル君に強さの理由を尋ねた。

 神父様の助言で村の人たちには隠しているが、カイル君はやはり人並み外れた魔力を持っているらしい。

 加えて元聖騎士である神父様から、武術の手ほどきを受けているそうだ。道理で聖職者の割に体格がいいと思った。

 ちなみにカイル君も聖騎士を目指しているらしく、私がまだベッドで眠っている早朝に修行しているそうだ。

 ……それにしても光属性か。それも将来は聖騎士になるって。

 光属性は闇属性と対極の力だ。治癒や状態異常の回復。ステータスアップにバリア。人によっては光系統の攻撃魔法まで使える。

 人を癒やし高め護る救いの力。

 カイル君は才能に恵まれ、親に期待され、自然と周りに貢献する光の道を歩いている。

 ……親にも見放され、人から奪うだけの私とは本当にどこまでも違う。

 子ども相手に大人げないけど、あまりに眩しすぎて目を逸らしたくなる。

 けれど未来の聖騎士様は、私のような落ちこぼれを放っておけないようで

「あのね、お姉さん」

 夕暮れの帰り道。神父様の家が見えて来た辺りで、ふと足を止めると

「お姉さんはこの村を出たいみたいだけど、やっぱり女の人が1人で居るって危ないと思う。だから、どこにも行かないで。俺にずっと護らせて」

 普通の大人なら「ずっと」なんてあり得ないと知りつつ、微笑ましく受け取るのだろうけど

「……『ずっと護らせて』なんて、簡単に口にするものじゃないよ」
「簡単に言っているわけじゃ……」
「でも君は聖騎士になるんでしょう? どこにも行かないでも何も、いずれ君のほうがどこかに行ってしまうのに、ずっと護るなんて矛盾しているよ」

 親にも見放された私にとって『護る』という言葉はあまりに特別だった。だから守れもしない約束を、容易く口にしたことが許せなかった。

 しかし、すぐに自分の大人げなさを恥じて

「……例え勢いでも本気で言ってくれたんだろうに、ゴメンね。素直に受け取れなくて」
「……ううん。お姉さんの言うとおり、俺が考え無しだったから」

 カイル君は神妙に謝ったのも束の間、目に涙を浮かべて私を見上げると

「でも俺、本当にお姉さんが心配で、護りたいんだ」

 優しいはずの言葉に、むしろ胸が痛くなるのは、私がとっくにズタズタだからだろう。

 どうせ護るなら、まだ傷ついていない綺麗なものを護るべきだと

「……世界には私よりも護るべき人たちが大勢いるよ。君は聖騎士になって、その人たちを護ってあげて」

 こんな女に構うなと、そっと突き放した。
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