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迷いの森の攻防

どうにかしてコイツをまきたい(薄っすら性描写)

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 旅の聖騎士が成長したカイルだと気づいた私は、ショックで気絶した。しかしすぐに光魔法で回復させられて

「良かった。今度はちゃんと目が覚めて」

 朝日よりも眩しい笑顔を寝起きに食らう。死の眠りの呪いと違い、ただの気絶は光魔法で回復させられてしまう。

 光属性のカイルの前では、気絶による現実逃避すら許されないのか。

 絶望する私をよそに、カイルはにこやかに話しを続けて

「これから一緒に暮らすなら、お互いの名前を知らないのは不便ですよね。俺はカイルと言います。あなたの名前は?」
「一緒に暮らす前提で話を進めないで欲しい……」

 控えめに抵抗したものの

「あなたが死を望む気持ちを簡単には覆せないように、俺にも俺の意思があるので。悪いけど、聞けません」

 カイルは鋼の意思で要求を拒むと「それでなんと呼べば?」とニコッと話を戻した。

 カイルの記憶は封じたが、他の村人たちは私を覚えている。だとすれば村人から、私の存在や名前を聞いている可能性があるのでアニスとは名乗れず

「……過去とともに名前は捨てました。好きに呼んでください」

 私の要望にカイルは素直に応えて

「えっと……じゃあ、眠り姫さん?」
「なんですか? その恥ずかしい呼び名。嫌がらせですか?」

 変な呼び方をされたくなければ、名乗れという意味かと思った。しかしカイルが、そんな遠回しな嫌がらせをするはずがなく

「えっ!? そんなつもりは。ただこの森で眠るあなたを見た時、眠り姫みたいだと思ったので。それで」

 旅の聖騎士のキスによって目覚めるなんて、確かにおとぎ話的かもしれない。

 なんで私は解呪方法を『真実の愛のキス』にしてしまったんだろう? こんなことならドラゴンの心臓やユニコーンの角など入手困難シリーズにしておけば良かった。

 しかし仮にそのどちらかにしても、発見者がカイルである以上、けっきょく解かれていた気もする。

 渾身の自殺をメルヘンにされてしまった私は屈辱に震えながら

「もっと普通の名前でお願いします」
「じゃあ、エニシアさん?」
「……どういう意味ですか?」

 また引っかかる単語に意味を問うと、カイルは少し照れた様子で

「意味って言うか、エニシアは俺の故郷に咲く花の名前で、とても特別な花なので。あなたにどうかなって」

 眠り姫だの特別な花の名前だの、まるで口説かれているようだ。

 でも私が冷たすぎるだけでカイルほどの善人だと、会ったばかりの女にも、なるべくいい名前をつけてやろうとするのかもしれない。

 ただ眠り姫は論外として、エニシアは私にとっても特別な花なので、自分の呼称に使われたくないと

「魔女でいいです、私の呼び名。魔女と呼んでください」

 投げやりに決める私に、カイルは困り顔で

「えっ? でもそれは蔑称べっしょうでは?」
「呼ぶ側に悪意が無ければただの呼称ですし、おとぎ話の姫や花の名前で呼ばれるほうが、私にはストレスなので」

 それを言えばアニスも花の名前だが、観賞用ではなく主に薬用の植物だ。花としては地味なので、エニシアと違って恥ずかしくはない。

「そ、そうですか。じゃあ、魔女さんって呼びますね」

 そんな感じで不本意ながら、カイルとの生活がはじまった。

 彼の年齢を聞くと、今は20歳とのことだった。だとすると彼の12歳の誕生日に別れたので、あれから8年経っていることになる。

 8年も眠りっ放しだったせいで、魔力はほとんど空っぽだった。すぐに死ねるなら魔力は空でも構わない。

 けれどカイルがそこに居いるのに死ぬことは難しい。それに私が死ねばカイルは全て思い出してしまう。そんな心痛を彼に与えるわけにはいかない。そうなると、やはり死の眠りの呪いをかけ直す必要がある。

 よって、まずは魔力を溜めようと

「あの、魔女さん。本当に直接飲むんですか?」

 カイルは大木を背にして立ちながら、戸惑った顔で足元にひざまずく私を見下ろした。私は淡々とカイルのズボンを下ろしながら

「知らない女に咥えられるなんて屈辱でしょうが、あなたが選んだことですよ。私を助けたいなら大人しく奉仕してください」
「いやでもこれじゃ、俺が魔女さんに奉仕されているみたいに……」

 カイルは優しいので、女に性器をしゃぶらせることに罪悪感があるようだが

「私にとっては食事でしか無いので、ご心配なく」

 嫌いだからか魔力が乏しいからか、他の男の精液を美味しいと感じたことは無い。しかしカイルの精液は、食事と言ってもいいほど美味しかった。

 いっそいやらしく貪って嫌われればいいのかと、手と舌でねっとり弄ぶも、カイルは顔を赤くしてビクビクと身を震わすだけで逃げようとしない。

 相変わらず同情だけで、ここまでさせてしまうのか。いいエサすぎて心配になる。

「……ご馳走様です」

 事後。素っ気なく離れると、カイルは「は、はい……」と恥じらいながら、自分で衣服の乱れを整えた。

 20歳になったカイルは、少女の憧れそのもののような優しげで清潔感のある美青年になった。しかし聖騎士の掟を律儀に守っているようで、モテるだろうに初心だ。

 神聖なものは穢れを嫌うものだが、カイルは恥ずかしそうにはするものの、軽蔑して逃げていくことはしない。

 カイルの魔力は桁違いに豊富なので、1日1回の吸引を7日も続ければ、死の眠りの呪いをかけ直せる十分な量に達した。

 後はカイルが私を見捨てて、この森を立ち去ってくれれば万事解決だ。

 けれどカイルは、たまに街に買い出しに行くものの、すぐに戻って来て

「お腹が空きましたよね。いま食事を作りますね」

 と押しかけ女房のように甲斐甲斐しく私の世話を焼く。

 彼1人で野営する時はマントに包まって寝ていたようだが、私のためにテントまで買ってくれた。そのくせ自分は紳士的にも「女性と同じテントで寝るわけには」と外で寝ている。

 こんな生活が、もう2週間ほど続いている。私は慣れた手つきで食事を作るカイルを見ながら

「あなたは聖騎士なんでしょう? 任務に戻らなくていいんですか?」
「いま引き受けている任務は無いので。俺が居なければ他の者に頼むだけかと」

 カイルは笑顔でサラッと答えたが

「だとしても女にかまけて、ずっと音信不通ではクビになるのでは?」

 そんなユルイ仕事じゃないだろうと問うと

「俺は聖騎士を辞めても構いません。職務怠慢で免職になるのは流石に恥ですが、あなたを置いてはいけませんから」

 カイルは穏やかながら静かに定まった瞳で答えた。まさかの回答に私は 瞠目どうもくしながら

「いや、置いて行って欲しい。何度も言いますが、私はあなたに保護して欲しいとは思っていません」

 受け入れていいはずがないと拒むも、カイルはムキになって

「俺も何度も言うようですが、あなたのためにやっているわけではないので! 俺が自分の勝手で聖騎士の身分を無くそうと、それは俺の自業自得ですから魔女さんは気にしないでください!」

 こんなに何度も捨てようとするくらいだから、カイルは本当に聖騎士の仕事に未練が無いのかもしれない。けれどカイルは私と違って人が嫌いなわけじゃない。

 それにこれほどの逸材が私に付き合って世捨て人になるのは、人類にとって多大な損失だ。せめてカイルには人の世で生きて欲しい。
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