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早すぎる再会
記憶を奪って逃げた意味
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とても酷い夢を見た。もう誰にも触れられないことを願って眠りについたのに、知らない男の口づけによって目覚めてしまう夢。
けれど復活した意識はすぐに途切れて、また闇の中に沈んだ。それなのに、口の中に異物が突っ込まれるのを感じる。
硬く細長いそれには、粘ついた何かが絡みついていて、舌の上で唾液と混ざった。反射的に飲み込むと、腹の底から熱が込み上げて、私の目を開けさせた。
青い空を背景に、さっきの男が心配そうに私を覗き込んでいる。陽光にきらめく金髪は、いかにも神の使いのようで、本当に必要な時には来なかったくせに、なぜ今さらと、かえって怒りが湧いた。
ちなみにさっきの棒状のものは聖騎士様の指で、彼は自分の手に出した精液をすくって、私に舐めさせたようだった。
魔力を与えられたことで意識が回復した私は
「よく死にかけている女の横で、自慰する気になりましたね」
私に誹られた彼は、恥ずかしそうに赤くなって
「すみません。他にどうしたらいいか分からなくて……」
王子様のような外見に反して、内面はまるで素朴な村人だ。
彼のあまりの善良さに、警戒心が失せて
「……それ、もっとください」
「えっ? こ、これですか?」
キョトンとする彼の手を引いて、手の平に残る白濁を犬みたいに舐める。聖騎士だけあって魔力が豊富なのだろう。知らない男の精液なのに、嫌になるほど美味しかった。
飢えが満たされた途端、人間としての矜持が戻って
「す、すみません! 勝手に変なものを舐めさせて! 嫌でしたよね!?」
急に涙した私を見て、動揺する聖騎士様に
「嫌じゃないから困っているんですよ」
「嫌じゃないって?」
「……好きな人が居て。もうその人以外とは触れ合わないと決めたのに、あなたの精液を舐めて。けっきょく自分はそういう女なんだなと、呆れているだけです……」
湿った声で自嘲すると、聖騎士様は泣きそうな顔でオロオロした。偉そうな肩書きに似合わず、人の好さそうな態度に和む反面、やはり煩わしくて
「……お願いですから、もう消えてください。私はこれ以上、誰とも話したくないんです」
自分の意向は告げたものの、教会に属しているような人間は自殺に否定的だ。まだ説得が続くだろうことは予期していたが
「あの、じゃあ、ここでしばらく一緒に暮らしますか?」
予想外すぎる提案に一瞬時が止まる。私は目の前の男の異常な提案に、半ば恐怖しながら
「意味が分からない。何が「じゃあ」なんですか?」
「今のあなたを外の世界に連れ出すのは無理そうなので。迷いの森なら滅多に人が来ないし、あなたも安心して暮らせるんじゃないかと」
彼にとっては名案らしく明るい顔をしているが
「だとしても、なぜあなたと暮らすことになるんですか? あなたも聖騎士なら忙しいんでしょう。私なんかに構うより、助けを求める人を助けに行ったらどうですか?」
迷いの森と違い、外の世界は危険と理不尽に満ちている。聖騎士なら自殺志願者を構うより、助けを求める人を救ってやるべきだ。
「確かにそうなんですが、あなたがここで独りで死んでいくのは、どうしても嫌です。あなたの言うように、これは正義でも善でも無く、俺のワガママで押しつけです」
聖騎士様は自分の行いが、善意の押しつけであることは認めたものの
「でもあなたには悪いけど、俺はこの気持ちを絶対に曲げられませんから! 俺に見つかったのが運の尽きだと思って、あなたのほうが折れてください!」
その頑固なまでの優しさが、ふいにある人と重なって
「……カイル?」
「えっ? どうして俺の名前を?」
聖騎士様の反応に、嫌な予感を覚えると同時に
「ピィ」
鳴き声とともに、ピィがバサバサと音を立てて聖騎士様の肩に止まった。
「ピィ? もしかして、この人が言っていた友だちの小鳥って……」
聖騎士様の友だちがこの子なら、私のもとに彼を連れて来たのはピィだったことになる。
もちろん通りすがりの聖騎士ではなく、この世で唯一私の呪いを解ける者として。
冷静に考えれば符合する点はいくつもあった。『光属性』の『聖騎士』で『金髪』に『新緑の瞳』を持つ『美しい』青年。
死の眠りについている間は肉体が変化しない。痩せ衰えないだけでなく、老化も止まっていた。そのせいで時間の感覚が無かったが、私が眠っている間にカイルは成長して聖騎士になっていたようだ。
だからって、まさかよりにもよって迷いの森にやって来て、彼からすれば初対面の私にキスするなんて。
記憶を奪って逃げた意味は?
「わーっ!? 大丈夫ですか!?」
突然バターンと倒れた私に、カイルが悲鳴をあげる。受け止めきれない現実に、私は目の前が真っ暗になった。
けれど復活した意識はすぐに途切れて、また闇の中に沈んだ。それなのに、口の中に異物が突っ込まれるのを感じる。
硬く細長いそれには、粘ついた何かが絡みついていて、舌の上で唾液と混ざった。反射的に飲み込むと、腹の底から熱が込み上げて、私の目を開けさせた。
青い空を背景に、さっきの男が心配そうに私を覗き込んでいる。陽光にきらめく金髪は、いかにも神の使いのようで、本当に必要な時には来なかったくせに、なぜ今さらと、かえって怒りが湧いた。
ちなみにさっきの棒状のものは聖騎士様の指で、彼は自分の手に出した精液をすくって、私に舐めさせたようだった。
魔力を与えられたことで意識が回復した私は
「よく死にかけている女の横で、自慰する気になりましたね」
私に誹られた彼は、恥ずかしそうに赤くなって
「すみません。他にどうしたらいいか分からなくて……」
王子様のような外見に反して、内面はまるで素朴な村人だ。
彼のあまりの善良さに、警戒心が失せて
「……それ、もっとください」
「えっ? こ、これですか?」
キョトンとする彼の手を引いて、手の平に残る白濁を犬みたいに舐める。聖騎士だけあって魔力が豊富なのだろう。知らない男の精液なのに、嫌になるほど美味しかった。
飢えが満たされた途端、人間としての矜持が戻って
「す、すみません! 勝手に変なものを舐めさせて! 嫌でしたよね!?」
急に涙した私を見て、動揺する聖騎士様に
「嫌じゃないから困っているんですよ」
「嫌じゃないって?」
「……好きな人が居て。もうその人以外とは触れ合わないと決めたのに、あなたの精液を舐めて。けっきょく自分はそういう女なんだなと、呆れているだけです……」
湿った声で自嘲すると、聖騎士様は泣きそうな顔でオロオロした。偉そうな肩書きに似合わず、人の好さそうな態度に和む反面、やはり煩わしくて
「……お願いですから、もう消えてください。私はこれ以上、誰とも話したくないんです」
自分の意向は告げたものの、教会に属しているような人間は自殺に否定的だ。まだ説得が続くだろうことは予期していたが
「あの、じゃあ、ここでしばらく一緒に暮らしますか?」
予想外すぎる提案に一瞬時が止まる。私は目の前の男の異常な提案に、半ば恐怖しながら
「意味が分からない。何が「じゃあ」なんですか?」
「今のあなたを外の世界に連れ出すのは無理そうなので。迷いの森なら滅多に人が来ないし、あなたも安心して暮らせるんじゃないかと」
彼にとっては名案らしく明るい顔をしているが
「だとしても、なぜあなたと暮らすことになるんですか? あなたも聖騎士なら忙しいんでしょう。私なんかに構うより、助けを求める人を助けに行ったらどうですか?」
迷いの森と違い、外の世界は危険と理不尽に満ちている。聖騎士なら自殺志願者を構うより、助けを求める人を救ってやるべきだ。
「確かにそうなんですが、あなたがここで独りで死んでいくのは、どうしても嫌です。あなたの言うように、これは正義でも善でも無く、俺のワガママで押しつけです」
聖騎士様は自分の行いが、善意の押しつけであることは認めたものの
「でもあなたには悪いけど、俺はこの気持ちを絶対に曲げられませんから! 俺に見つかったのが運の尽きだと思って、あなたのほうが折れてください!」
その頑固なまでの優しさが、ふいにある人と重なって
「……カイル?」
「えっ? どうして俺の名前を?」
聖騎士様の反応に、嫌な予感を覚えると同時に
「ピィ」
鳴き声とともに、ピィがバサバサと音を立てて聖騎士様の肩に止まった。
「ピィ? もしかして、この人が言っていた友だちの小鳥って……」
聖騎士様の友だちがこの子なら、私のもとに彼を連れて来たのはピィだったことになる。
もちろん通りすがりの聖騎士ではなく、この世で唯一私の呪いを解ける者として。
冷静に考えれば符合する点はいくつもあった。『光属性』の『聖騎士』で『金髪』に『新緑の瞳』を持つ『美しい』青年。
死の眠りについている間は肉体が変化しない。痩せ衰えないだけでなく、老化も止まっていた。そのせいで時間の感覚が無かったが、私が眠っている間にカイルは成長して聖騎士になっていたようだ。
だからって、まさかよりにもよって迷いの森にやって来て、彼からすれば初対面の私にキスするなんて。
記憶を奪って逃げた意味は?
「わーっ!? 大丈夫ですか!?」
突然バターンと倒れた私に、カイルが悲鳴をあげる。受け止めきれない現実に、私は目の前が真っ暗になった。
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